第41回講義

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2018.01.24 録音

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王維作詩の背景



「王維年譜」



「唐王朝年表」

王維年譜1 699年 1歳 ~727年 29歳
王維年譜2 730年 32歳 ~747年 49歳
王維年譜3 750年 52歳 ~761年 63歳

唐王朝年表1 618年 高 祖 ~779年 代 宗
唐王朝年表2 779年 徳 宗 ~907年 哀 宗


中国文学地図

地名  荊州・江陵  長安  洛陽  襄陽
山名  秦嶺山脈(地図)  秦嶺山脈(説明)
川名・湖名  黄河  渭水  漢水


春秋列国の形勢

  


人名用語書名」

人名  王維  玄宗皇帝(李隆基)  楊貴妃 孟浩然  李林甫  杜甫  張九齢  白居易  高力士  楊 国忠  裴迪(はいてき)  宋之問

用語  開元の治  貞観の治  輞川荘

書名  旧唐書(くとうじょ)

     


 

輞川閒居    唐 王 維

全唐詩卷一百二十六


 輞川閒居 王 維

一從歸白社,

不復到青門。

時倚簷前樹,

遠看原上村。

青菰臨水拔,

白鳥向山翻。

寂寞於陵子,

桔槔方灌園。


 輞川閒居もうせんかんきょ   王維おうい

ひとたび 白社はくしゃかえってより

青門せいもんいたらず

ときる 簷前えんぜんじゅ

とおる 原上げんじょうむら

青菰せいこ みずのぞんで

白鳥はくちょう やまむかって

寂寞せきばくたり 於陵子おりょうし

桔槔きっこう まさえんそそがん


字句解釈

輞川   「輞」は車輪の外側の輪。川の渦からの由来。長安の南、 秦嶺山脈の藍田山にある溪谷のあたりの地名。 ここに輞川荘を作った。

閒居   ①何もしないで家に居ること。②物静かな住まい。ここでは②。 小人閑居為不善。小人は君子の反対で学問、教養のない人間。

白社   晋代、董京(とうけい)という隠者が洛陽東郊の 白社(はくしゃ)というところに住んでいて、逍遥吟詠の隠遁生活を送った故事を踏まえる。 白屋は粗末な家。

青門   漢代の長安にあった青く塗った門。

簷前   のき、「簷」=「檐」。「簷」の端を「軒」という。軒は、渡り廊下の意もある。

遠看原上村    陶淵明「歸園田居」曖曖遠人村,依依墟里煙、を下敷きとしている。

青菰   青いまこも。

寂寞   寂しいさま。

於陵子   陳仲子。斉の国の人なり。妻とともに楚に行きて、於陵といふ所にこもり居て、みづから 於陵子といふ。蒙求にあり。

桔槔   はねつるべ。


詩の鑑賞

王維43歳、開元29年、741年、藍田山麓に別荘、輞川荘を作って、後年、白居易が 見習ったような半官、半隠の生活に入った。その時の様子を伝える五言 律詩である。






 

歸輞川作   唐 王 維

全唐詩卷一百二十六


 歸輞川作
   王 維

谷口疏鐘動,

漁樵稍欲稀。

悠然遠山暮,

獨向白雲歸。

菱蔓弱難定,

楊花輕易飛。

東皋春草色,

惆悵掩柴扉。


 輞川もうせんかえるのさく
       王維おうい

谷口こくこう 疏鐘そしょううご

漁樵りょしょう ようやくまれならんとっす

悠然ゆうぜんたる 遠山えんざんくれ

ひとり白雲はくうんむかってかえ

菱蔓りょうまん よわくしてさだがた

楊花ようか かれやす

東皋とうこう 春草しゅんそういろ

惆悵ちゅうちょう 柴扉さいひおお

  、

字句解釈

谷口   谷(輞川溪谷)の入り口。

疏鐘   まばらな鐘。間のあるゆっくりした鐘声。

漁樵   漁師ときこり。漁樵ともに名詞と動詞になりうる。

稍   ようやく、しだいに。

菱蔓   ひしのつる。

惆悵   かなしい。

柴扉   しばの粗末なとびら。

     

詩の鑑賞

輞川荘の情景。これも、

陶淵明「飲酒」
采菊東籬下,悠然見南山。山氣日夕嘉,飛鳥相與還。、

「雑詩」
人生無根蒂,飄如陌上塵。分散逐風轉,此已非常身。落地為兄弟,何必骨肉親。
得歡當作樂,斗酒聚比鄰。盛年不重來,一日難再晨。及時當勉勵,歳月不待人。

崔顥「黄鶴樓」
黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。

などが下敷きになっている。王維は陶淵明をよく読んでいる。

3,4句 悠然遠山暮,獨向白雲歸の対がやや弱いか?
「悠然たり 遠山の暮、獨り向う 白雲の歸るに。」 とよむべきか?




 

吟 詠   小菅幸枝様   


宝 船  藤野君山




 宝 船
    藤野君山

壽海波平紅旭鮮

遙看寶字錦帆懸

同乘七福皆含笑

知是金銀珠玉船


 宝船たからぶね
    藤野君山ふじのくんざん(1863ー 1943)

壽海じゅかい なみたいらかにして 紅旭こうきょくあざやかなり

はるかにる 寶字ほうじ 錦帆きんぱんかかるを

同乘どうじょうの 七福しちふく みなわらいふく

れ 金銀きんぎん 珠玉しゅぎょくふね




 

酌酒與裴迪    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 酌酒與裴迪  王 維

酌酒與君君自寬,

人情翻覆似波瀾。

白首相知猶按劍,

朱門先達笑彈冠。

草色全經細雨濕,

花枝欲動春風寒。

世事浮雲何足問,

不如高臥且加餐。

 さけんで裴迪はいてきあたう     王 維おうい

さけんで きみあたう 君自きみみずからゆるうせよ

人情にんじょうの 翻覆はんぷく 波瀾はらんたり

白首はくしゅ 相知そうちすら けんあん

朱門しゅもんの 先達せんだつは 彈冠だんかんわら

草色そうしょく ったく細雨さいううるお

花枝かし うごかんとっして 春風しゅんぷうさむ

世事せじの 浮雲ふうん なんうにらん

しかず 高臥こうがして しばらさんくわうるに


字句解釈

裴迪   王維の15,6歳年下の後輩。

寬  のびやか、ゆるやか。
南北朝・鮑照「拟行路難」安能行嘆復坐愁、酌酒以自寬。

翻覆   かわりやすい。
貧交行(唐・杜甫)飜手作雲覆手雨,紛紛輕薄何須數。君不見管鮑貧時交,此道今人棄如土。
さらに、用例

相知   しりあい。

朱門   赤門。高位高官の屋敷。

先達   先に出世した人。韓非子 説林下

彈冠   冠の埃を払って仕官を待つ。漢書 王貢兩龔鮑傳
昔は、先達が後輩を引き上げたのに、今では、冠の塵を払って待っている者をあざ笑って引き揚げようともしない。

高臥   世俗を離れて超然としている。

加餐   栄養を良いものをたくさん食べること。


詩の鑑賞

裴迪が科挙に落ちたのを慰めた七言律詩。七言律詩は1句目も韻を踏む。




 

贈裴迪    唐 王 維

全唐詩卷一百二十五


 贈裴迪  王 維

不相見,

不相見來久。

日日泉水頭,

常憶同攜手。

攜手本同心,

複歎忽分襟。

相憶今如此,

相思深不深。

 裴迪はいてきおくる    王 維おうい



ざりしよりのかたひさ

日日ひび 泉水せんすいほとり

つねおもう おなじたずさえしを

たずさえ もと同心どうしん

なげく たちまちえりわかつを

おもうこと いまかくごと

おもうこと ふかきやふあかからずや


字句解釈

來   このかた。時間の起点を示す。別の用法 歸去來、かえりなん「いざ」Let's go。
陶淵明「歸去來辭」歸去來兮,田園將蕪胡不歸

泉水   泉の水。泉から流れ出た水の流れ。=輞川。

同心   ①同じ心。②江戸時代の捕手。ここでは①。

詩の鑑賞

裴迪が役所勤めをして、しばらく会うことがなかったときに、懐かしんで作った古詩。
ほとんどラブレターに近い。後の、白居易元稹の付き合いに近い。
最初の4句は仄韻、後の4句は真韻。