第19回講義

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2015.10.22 録音

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杜 甫 作詩の背景




「杜甫年譜」

杜甫年譜1 712年 1歳 ~739年 28歳
杜甫年譜2 740年 29歳 ~755年 44歳
杜甫年譜3 756年 45歳 ~763年 52歳
杜甫年譜4 764年 53歳 ~739年 59歳


「詩人杜甫の
足あと」


人名  玄宗皇帝 楊貴妃  李林甫 張九齢 崔氏  清少納言 楊 国忠  安禄山
 阿倍仲麻呂 毛沢東 高力士  肅宗      
地名  洛陽  長安  奉先  平盧(遼寧)  范陽(北京)  河東(太原)  鄜州  延安
 散関  四川省(成都)  剣閣  馬嵬  霊武
用語   科挙  開元の治  貞観の治  遺賢  三大禮賦  右衛率府胄曹参軍  安史の乱  節度使
書名   懐風藻  万葉集

     




再 掲

貧交行  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 47頁  漢詩鑑賞辞典 286頁  全唐詩 巻二百十六


 貧交行  杜 甫

飜手作雲覆手雨

紛紛輕薄何須數

君不見管鮑貧時交

此道今人棄如土


 貧交行ひんこうこう  杜甫とほ

ひるがえせば くもり  くつがせば あめ

紛紛ふんぷんたる輕薄けいはく なんかぞうるをもちいん

きみや 管鮑かんぽう貧時ひんじまじわり

みち 今人こんじんすてつちごと



 


再 掲

兵車行  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典 288頁   全唐詩 卷二百一十六


 兵車行  杜 甫

車轔轔,馬蕭蕭,

行人弓箭各在腰。

耶娘妻子走相送,

塵埃不見咸陽橋。

牽衣頓足闌道哭,

哭聲直上干雲霄。

道傍過者問行人,

行人但云點行頻。

或從十五北防河,

便至四十西營田。

去時里正與裹頭,

歸來頭白還戍邊。

邊亭流血成海水,

武皇開邊意未已。

君不聞漢家山東二百州,

千村萬落生荊杞。

縱有健婦把鋤犁,

禾生隴畝無東西。

況復秦兵耐苦戰,

被驅不異犬與雞。

長者雖有問,

役夫敢伸恨。

且如今年冬,

未休關西卒。

縣官急索租,

租税從何出。

信知生男惡,

反是生女好。

生女猶得嫁比鄰,

生男埋沒隨百草。

君不見青海頭,

古來白骨無人收。

新鬼煩冤舊鬼哭,

天陰雨濕聲啾啾。


 兵車行へいしゃこう    杜 甫とほ

くるま 轔轔りんりん うま 蕭蕭しょうしょう

行人こうじん弓箭きゅうせん おのおのこし

耶娘やじょう妻子さいし はしりておく

塵埃じんあいにしてえず 咸陽橋かんようきょう

ころもき あしとんみちさえぎりて

こえただちのぼりて 雲霄うんしょうおか

道傍どうぼう ぐるもの 行人こうじん

行人こうじん 但云ただいう 點行てんこうしきりなりと

あるい十五じゅうごより きた かわふせ

便すなわち 四十しじゅういたり 西にし いとな

とき 里正りせい ためこうべつつ

かえきたって こうべしろきにまたへんまも

邊亭へんてい流血りゅうけつ 海水かいすいるも

武皇ぶこう へんひらいままず

きみかずや漢家かんけ山東さんとう二百州にひゃくしゅう

千村せんそん 萬落ばんらく 荊杞けいきしょうずるを

たと健婦けんぷ鋤犁じょりるも

隴畝ろうほしょうじて東西とうざい

いわんやた 秦兵しんぺい 苦戰くせんうるをや

らるることいぬにわとりとにことならず

長者ちょうじゃ りといえど

役夫えきふ えてうらみのべんや

今年こんねんふゆごときは

いま関西かんせいそつめざるに

縣官けんかん きゅうもとむるも

租税そぜい いずくよりでん

まことる おとこむはしく

かえってこれ おんなむはきを

おんなままば 比鄰ひりんするをるも

おとこままば 埋没まいぼつして百草ひゃくそうしたが

きみずや青海せいかいほとり

古来こらい 白骨はっこつ ひとおさむるきを

新鬼しんき煩冤はんえん舊鬼きゅうきこく

天陰てんくもり 雨湿あめけぶるとき こえ啾啾しゅうしゅう



 


再 掲

春 望  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 17頁  漢詩鑑賞辞典295頁


 春望  杜甫

國破山河在

城春草木深

感時花濺涙

恨別鳥驚心

烽火連三月

家書抵萬金

白頭掻更短

渾欲不勝簪


 春望しゅんぼう  杜甫とほ

くにやぶれて 山河さんが

しろはるにして 草木そうもくふか

ときかんじては はなにもなみだそそ

わかれうらんでは とりにもこころおどろかす

烽火ほうか 三月さんげつつらなり

家書かしょ 萬金ばんきんあた

白頭はくとうかけさらみじか

すべかんざしたえざらんとす



 


再 掲

月 夜  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典293頁


 月夜  杜甫

今夜鄜州月

閨中只獨看

遙憐小兒女

未解憶長安

香霧雲鬟湿

清輝玉臂寒

何時倚虚幌

雙照涙痕乾


 月夜げつや  杜甫とほ

今夜こんや 鄜州ふしゅうつき

閨中けいちゅう ひとるならん

はるかにあわれむ 小児女しょうじじょ

いま長安ちょうあんおもうをかいせざるを

香霧こうむに 雲鬟うんかん湿うるお

清輝せいきに 玉臂ぎょくひさむからん

いずれのときか 虚幌きょこう

ともらされて 涙痕るいこんかわかん



 


哀江頭  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典 297頁  全唐詩 卷二百一十六


 哀江頭  杜 甫

少陵野老呑聲哭,

春日潛行曲江曲。

江頭宮殿鎖千門,

細柳新蒲為誰綠。

憶昔霓旌下南苑,

苑中萬物生顏色。

昭陽殿裏第一人,

同輦隨君侍君側。

輦前才人帶弓箭,

白馬嚼齧黄金勒。

翻身向天仰射雲,

一箭正墜雙飛翼。

明眸皓齒今何在,

血汚遊魂歸不得。

清渭東流劍閣深,

去住彼此無消息。

人生有情涙沾臆,

江水江花豈終極。

黄昏胡騎塵滿城,

欲往城南忘南北。


 江頭こうとうかなしむ    杜 甫とほ

少陵しょうりょう野老やろうこえんでこくす、

春日しゅんじゅつ潛行せんこう曲江きょくこうくま。

江頭こうとう宮殿きゅうでん千門せんもんとざし、

細柳さいりゅう新蒲しんぽためにかみどりなる。

おもむかし霓旌げいせい南苑なんえんくだりしを、

苑中えんちゅう萬物ばんぶつ顏色がんしょくしょうず。

昭陽殿裏第一人しょうようでんりだいいちにん

れんおなじうしてきみしたが君側くんそくす。

輦前れんぜん才人さいじん弓箭きゅうせんび、

白馬嚼齧はくばしゃくけつ黄金おうごんくつわ

ひるがえしててんむかくもる、

一箭正いっせんまさおと雙飛翼そうひよく

明眸皓齒今何めいぼうこくしいまいずくにかる、

遊魂ゆうこんけがしてかえず。

清渭せいい東流とうりゅう劍閣けんかくふかし、

去住彼此消息きょじゅうかししょうそくなし。

人生情有じんせいじょうあ涙臆なみだおくうるおす、

江水江花豈こうすいこうかあついきわまらんや。

黄昏胡騎塵城こうこんこきちりしろ滿つ、

城南じょうなんかんとほつして南北なんぽくわする。


字句解釈

為誰綠     ここまでが、第1節(日本式)、中国式では第1解。以下、「侍君側」まで、第2節、 「雙飛翼」第3節、「無消息」第4節、「忘南北」第5節。

長安城」の解説     東西10km、南北9km。皇城は3km四方。 興慶宮曲江曲水の宴大雁塔宣帝

少陵野老     少陵に住んでいる野郎。自分のこと。杜陵の布衣ともいう。

江頭     曲江のほとり。

春日     757年春。

新蒲     芽吹いたばかりの「がま」。

霓旌     「にじ」色の旌(旗)。皇帝のはた。「霓」雄のにじ(濃い)。ちなみに、「虹」は雌のにじ(色が薄い)。

昭陽殿裏第一人     昭陽殿は漢代の成帝が趙飛燕のために建てた宮殿だが、ここでは楊貴妃のこと。

才人     後宮の職官。二十七世婦(?妤、美人、才人。正三品~正五品)のひとつ。

雙飛翼     2羽の鳥。鳥が落ちるのは縁起がよくない。暗い将来を暗示する。

明眸皓齒     明るい瞳と白い歯。美人の形容。

遊魂     さまようたましい。魂は心、魄は身体を司る。死ぬと人から離れる。

去住彼此消息     去るもの(玄宗)、残るもの(楊貴妃)互いに消息がない。

清渭     清い渭水。馬嵬は渭水の傍にある。

人生有情       自分には情がある。

     胸。

     

詩の鑑賞

至徳2年、757年春の作。古詩。古詩は段落ごとに韻を変えるのが普通である(換韻)が、 この詩は第1節は通院で、その他はひとつの「職」韻で通している。見事である。
この後、杜甫は脱出して、肅宗のところに出仕し、5月に左拾遺を授けられる。




 


樂游原  唐 李商隱

漢詩を楽しむ 24頁  漢詩鑑賞辞典 568頁  全唐詩 卷五百三十九


 樂游原  李商隱

向晩意不適,

驅車登古原。

夕陽無限好,

只是近黄昏。


 樂游原らくゆうげん    李商隱りしょういん

ばんむかいて かなわず

くるまかつて 古原こげんのぼ

夕陽せきよう かぎりなく

只是ただこれ 黄昏こうこんちか


字句解釈

意不適     なんとなく憂鬱だ。

古原     樂游原。長安の東にある。

近黄昏     長くは続かない、やがてお終いになる。

     

詩の鑑賞

李商隱の名作。目の前の長安と秦嶺山脈に落ちる夕陽を見て、自分の人生の終末を思う。




 


曲 江 二首 その二  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 23頁  漢詩鑑賞辞典 304頁  全唐詩 巻二百二十五


 曲 江二首 二  杜甫

朝回日日典春衣,

毎日江頭盡醉歸。

酒債尋常行處有,

人生七十古來稀。

穿花蛺蝶深深見,

點水蜻蜓款款飛。

傳語風光共流轉,

暫時相賞莫相違。



 曲江きよっこう二首にしゅその二  杜甫とほ

ちょうよりかえりて日日ひび春衣しゅんいてん

毎日まいにち江頭こうとうよいつくしてかえ

酒債しゅさい尋常じゅんじょうところ

人生じんせい七十しちじゅう古來こらいまれなり

はな穿うが蛺蝶きょうちょう深深しんしんとして

みずてんずる蜻蜓せいてい款款かんかんとして

傳語でんご風光ふうこうとも流轉るてんして

暫時ざんじ相賞あいしょうして相違あいたがうことなかれと


字句解釈

朝回     依朝回の略。朝、朝廷から帰る。

典春衣     春の衣を質に入れる。

人生七十古來稀     あまりにも有名な一句。

蛺蝶     ちょうちょう。

深深      奥深くよく見えぬ様。静まり返っているさま。

蜻蜓     とんぼ。

款款      ゆるやかな様子。

傳語風光共流轉,暫時相賞莫相違。      風光に伝えよう、わたしとともに流れていこうと。 しばらくの間お互いに賞して、互いにそむきあうことのないようにしよう。

     

詩の鑑賞

757年11月長安は回復された。杜甫は左拾遺として長安に帰ったが、肅宗に疎んぜられた。これは翌年春の作。
律詩。杜甫は律詩の名人である。律詩の要件である対句が見事である。「尋常」と「七十」は対になっていないように見えるが 「尋」は「1尋(ひとひろ)」、「常」は「2尋(ふたひろ)」とすれば納得できる。
「蛺蝶」、「蜻蜓」、「深深」、「款款」ともに重韻。
この詩は、杜甫らしくない、投げやりでデカダンスである。酒が出てくるが、下記の、陶淵明の「飲酒」にみるような、 心から酒を楽しむ雰囲気はない。苦しい酒である。




 


飲酒  晋 陶 潜

漢詩鑑賞辞典 49頁


 飲 酒  陶 潜

結廬在人境,

而無車馬喧。

問君何能爾,

心遠地自偏。

采菊東籬下,

悠然見南山。

山氣日夕佳,

飛鳥相與還。

此中有眞意,

欲辨已忘言。


 飲 酒いんしゅ    陶 潜とうせん

いおりむすんで 人境じんきょう

しか車馬しゃばかまびすしき

きみう なんしかるや

心遠こころとければ 地自ちおのずからへんなり

きくる 東籬とうりもと

悠然ゆうぜんとして南山なんざん

山氣日夕さんきにっせき

飛鳥ひちょう 相與あいともかえ

なかに 眞意しんい

べんぜんとほつすれば すでげんわす


詩の鑑賞

陶淵明の酒を楽しむ悠々自適の心の様子がよく詠われている。




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Last modified First updated 2015/10/31