第20回講義

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2015.11.26 録音

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再 掲

曲 江 二首 その二  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 23頁  漢詩鑑賞辞典 304頁  全唐詩 巻二百二十五


 曲 江二首 二  杜甫

朝回日日典春衣,

毎日江頭盡醉歸。

酒債尋常行處有,

人生七十古來稀。

穿花蛺蝶深深見,

點水蜻蜓款款飛。

傳語風光共流轉,

暫時相賞莫相違。



 曲江きよっこう二首にしゅその二  杜甫とほ

ちょうよりかえりて日日ひび春衣しゅんいてん

毎日まいにち江頭こうとうよいつくしてかえ

酒債しゅさい尋常じゅんじょうところ

人生じんせい七十しちじゅう古來こらいまれなり

はな穿うが蛺蝶きょうちょう深深しんしんとして

みずてんずる蜻蜓せいてい款款かんかんとして

傳語でんご風光ふうこうとも流轉るてんして

暫時ざんじ相賞あいしょうして相違あいたがうことなかれと


字句解釈

朝回     依朝回の略。朝、朝廷から帰る。

典春衣     春の衣を質に入れる。

人生七十古來稀     あまりにも有名な一句。

蛺蝶     ちょうちょう。

深深      奥深くよく見えぬ様。静まり返っているさま。

蜻蜓     とんぼ。

款款      ゆるやかな様子。

傳語風光共流轉,暫時相賞莫相違。      風光に伝えよう、わたしとともに流れていこうと。 しばらくの間お互いに賞して、互いにそむきあうことのないようにしよう。

     

詩の鑑賞

757年11月長安は回復された。杜甫は左拾遺として長安に帰ったが、肅宗に疎んぜられた。これは翌年、杜甫47歳、春の作。
律詩。杜甫は律詩の名人である。律詩の要件である対句が見事である。「尋常」と「七十」は対になっていないように見えるが 「尋」は「1尋(ひとひろ)」、「常」は「2尋(ふたひろ)」とすれば納得できる。
「蛺蝶」、「蜻蜓」、「深深」、「款款」ともに重韻。
この詩は、杜甫らしくない、投げやりでデカダンスである。酒が出てくるが、陶淵明の「飲酒」にみるような、 心から酒を楽しむ雰囲気はない。苦しい酒である。
「人生七十古來稀」古来有名な1句である。




 


杜 甫 作詩の背景




「杜甫年譜」

杜甫年譜3 756年 45歳 ~763年 52歳
杜甫年譜4 764年 53歳 ~770年 59歳


「詩人杜甫の
足あと」


人名  秦始皇帝  玄宗皇帝  厳武  安禄山
地名  洛陽  長安  華州(華山、潼関)  秦州(隴山、天水)  同谷  四川省(成都)  剣閣
川名  黄河  渭水  長江  嘉陵江  岷江
用語  司功参軍  浣花草堂

     


 


参考(再掲)

石壕吏  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典 308頁  全唐詩 巻二百十七


 石壕吏   杜 甫

暮投石壕村,

有吏夜捉人。

老翁逾牆走,

老婦出門看。

吏呼一何怒,

婦啼一何苦。

聽婦前致詞,

三男鄴城戍。

一男附書至,

二男新戰死。

存者且偸生,

死者長已矣。

室中更無人,

惟有乳下孫。

有孫母未去,

出入無完裙。

老嫗力雖衰,

請從吏夜歸。

急應河陽役,

猶得備晨炊。

夜久語聲絶,

如聞泣幽咽。

天明登前途,

獨與老翁別。


 石壕せきごう    杜甫とほ

くれ石壕村せきごうそんとうずれば

よるひととら

老翁ろうおうしょうこえはし

老婦ろうふもんいで

ぶこといつなんいかれる

くこといつなんくるしめる

すすんでことばいたすをくに

三男さんなん鄴城ぎょうじょうまも

一男いちなんしょしていた

二男になんあらた戰死せんし

そんするものしばらせいぬす

死者ししゃとこしえにみぬ

室中しつちゅう さらひとなく

乳下にゅうかまごあり

まごははいまらざるるも

出入しゅつにゅう完裙かんくん

老嫗ろうおうちからおとろえたりといえども

したがって夜歸よるきせんと

きゅう河陽かようえきおうぜば

なお晨炊しんすいそなうるを

よるひさしゅうして語聲ごせい

いて幽咽ゆうえつくがごと

天明てんめい前途ぜんとのぼ

ひとり老翁ろうおうわか


詩の鑑賞

房琯を弁護した杜甫は華州 に左遷された。そのころ各地で見た人民の悲惨な状況を詠った三吏三別の詩の中の最も傑作とされる一詩である。

杜甫の気持ちが、皇帝に供奉することから人民の側に付く方向に変わったことを示している。

杜甫は自分の周囲の外物から、物事を抽出して詩にそなえている。すなわち、詩の中で物事に語ら(代弁)せている。詩の作者は起句と結句の後前2,3句 に現れるのみで、他の部分は、杜甫が客観的に見ている外物の情景描写である。この手法は「春望」においても同様である。




 


蜀 相  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 31頁  漢詩鑑賞辞典 314頁  全唐詩 巻二百二十六


 蜀 相  杜甫

丞相祠堂何處尋,

錦官城外柏森森。

映階碧草自春色,

隔葉黄鸝空好音。

三顧頻煩天下計,

兩朝開濟老臣心。

出師未捷身先死,

長使英雄涙滿襟。



 蜀 相しょくしょう  杜 甫とほ

丞相じょうしょう祠堂しどう いずれのところにかたずねん

錦官城外きんかんじょうがい柏森森はくしんしん

かいえいずる碧草へきそう おのずか春色しゅんしょく

へだ黄鸝こうり むなしく好音こういん

三顧さんこ 頻煩ひんぱん 天下てんかけい

兩朝りょうちょう 開濟かいさい 老臣ろうしんこころ

出師すいし いまたざるに 身先みま

とこしえ英雄えいゆうをして なみだえり滿たしむ


字句解釈

蜀相、丞相     天子を補佐する最高の大臣。 諸葛亮。 後漢末期から三国時代の蜀漢の政治家・軍人。字は孔明(こうめい)。 蜀漢の建国者である劉備の創業を助け、 その子の劉禅の丞相としてよく補佐した。伏龍、臥龍とも呼ばれる。 今も成都や南陽には諸葛亮を祀る武侯祠がある。  三国志  三国志演義  曹操  孫権  曹丕  司馬懿  周瑜  白帝城  文選  襄陽

祠堂     祠ほこら。武侯廟

錦官城     成都。絹糸、錦の産地。岷江の支流の錦江が流れている。

     「かしわ」ではなく「ひのき」の一種、冬も落葉しない。このてかしわ。

   黄鸝     朝鮮うぐいす。日本の鴬より大型。

三顧     三顧礼

天下計     天下三分計

開濟     ものごとを開き(創業)、護る(守成)。

出師     兵を出すこと。出師の表  岳飛  五丈原

     

詩の鑑賞

成都での5年間は杜甫の生活が最も安定していた。対句がよい。律詩の手本。




 


江 村  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典 318頁


 江 村  杜 甫

清江一曲抱村流,

長夏江村事事幽。

自去自來梁上燕,

相親相近水中鷗。

老妻畫紙為棋局,

稚子敲針作釣鉤。

多病所須唯藥物,

微軀此外更何求。


 江 村こうそん    杜 甫とほ

清江せいこう 一曲いっきょく むらいだいてなが

長夏ちょうか 江村こうそん 事事幽じじゆうなり

おのずからり おのずからきたる 梁上りょうじょうつばめ

相親あいしたしみ 相近あいちかづく 水中すいちゅうかもめ

老妻ろうさいは かみえがいて 棋局ききょくつく

稚子ちしは はりたたいて 釣鉤つりばりつく

多病たびょう ところは 藥物やくぶつ

微軀びく ほかに さらなにをかもとめん


字句解釈

清江     清らかな川。。

事事幽     事事、ことごとく、すべてのこと。幽、奥深くて物静か。

自去自來     思いのまま、来たり、去ったりする。

相親相近     相、互いにではなく、対象がある場合に使う添え字。

水中鷗     「列子」に故事あり。悪意のある者には鴎は近づかない。

棋局     碁盤。

釣鉤     つりばり。

所須     必要とするところ。須、すべからく、もちいる、まつ。

     

詩の鑑賞

穏やかな家庭内の描写が上手な対句を使ってなされている。




 


客 至  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 111頁  漢詩鑑賞辞典 320頁  全唐詩 巻二百二十六


 客 至  杜 甫

舍南舍北皆春水,

但見群鷗日日來。

花徑不曾緣客掃,

蓬門今始為君開。

盤餐市遠無兼味,,

樽酒家貧只舊醅。

肯與鄰翁相對飲,

隔籬呼取盡餘杯。


 客 至かくいたる    杜 甫とほ

舍南しゃなん 舍北しゃほく 皆春水みなしゅんすい

但見ただみる 群鷗ぐんおうの 日日來ひびきたるを

花徑かけい かつかくよつはらわず

蓬門ほうもん 今始いまはじめて きみためひら

盤餐ばんそん 市遠いちとおくして 兼味けんみ

樽酒そんしゅ 家貧いえひんにして 舊醅きゅうばいあり

鄰翁りんおう相對あいたいしてむをがえんぜば

かきへだてて り 餘杯よはいつくさん


字句解釈

客至     全唐詩原注に、「喜崔明府相過」崔、明府のあい過るを喜ぶ、とある。崔は母崔氏の縁戚か?  明府は群、県の長官。

舍南舍北     家の南方、北方。

蓬門     よもぎのもん。そまつな門。謙遜語。

盤餐     盤は、皿のこと、餐は、たべもの。

兼味     あじをかねる。いろいろなあじ。無兼味、いろいろはない、一品。

舊醅     ふるいどぶろく。

肯與鄰翁相對飲    読み2通り。 あえてりんおうとあいたいしてのまんや。 りんおうとあいたいしてのむをがえんぜば。意味は同じ。

     

詩の鑑賞

平仄、対句、完璧。律詩の手本。陶淵明の心境に近づいたか、穏やかな味わいがする。




 


絶句二首 其一  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 51頁  漢詩鑑賞辞典 330頁  全唐詩 巻二百二十八


 絶句二首 其一  杜 甫

遲日江山麗,

春風花草香。

泥融飛燕子,

沙暖睡鴛鴦。


 絶句二首ぜっくにしゅ  いち   杜 甫とほ

遲日ちじつ 江山麗こうざんうるわしく

春風しゅんぷう 花草かそうかんば

泥融どろとけて 燕子飛えんしと

沙暖すなあたたかにして 鴛鴦睡えんおうねむ


字句解釈

遲日     春の日。

燕子     つばめ。子は子供ではなく、かわいいい燕の意。

鴛鴦     おしどり。鴛はおす、鴦はめす。

     

詩の鑑賞

杜甫に絶句は珍しい。 764年、53歳、浣花草堂 での作。長閑な春の情景。起承2句、転結2句、それぞれ、対句構成。杜甫の絶句は自然に対句をなす。




 


絶句二首 其二  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 61頁  漢詩鑑賞辞典 331頁  全唐詩 巻二百二十八


 絶句二首 其二  杜 甫

江碧鳥逾白,

山青花欲燃。

今春看又過,

何日是歸年。


 絶句二首ぜっくにしゅ     杜 甫とほ

江碧こうみどりにして 鳥逾白とりいよいよしろ

山青やまあおくして 花燃はなもえんとほつ

今春こんしゅん 看又過みすみすまたす

いずれのか 是歸年これきねんならん


字句解釈

     みどり、青のこと。碧玉、サファイア。翆、みどり。翡翠。

     いよいよ。兪、愈、逾、弥(彌)、いずれも、いよいよ。愈は景色など、弥栄(いやさか)国字など、 使い方いろいろ。

     「みすみす」すぎてゆく。見ているだけでどうしようもない。「まのあたりに」すぎてゆく、もある。

     

詩の鑑賞

故郷に帰りたい思いがある。この翌年、厳武が死亡し、杜甫は長江を下ることになる。




 


絶 句  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典 332頁  全唐詩 巻二百二十八


 絶 句  杜 甫

兩個黄鸝鳴翠柳,

一行白鷺上青天。

窗含西嶺千秋雪,

門泊東呉萬里船。


 絶 句ぜっく   杜 甫とほ

兩個りょうこの 黄鸝こうり 翠柳すいりゅう

一行いっこうの 白鷺はくろ 青天せいてんのぼ

まどにはふくむ 西嶺せいれい 千秋せんしゅうゆき

かどにははくす 東呉とうご 萬里ばんりふね


字句解釈

黄鸝     うぐいす。

     「窓」の本字。

     門前。

西嶺     西方の山なみ。

千秋雪     万年雪。

東呉     当方の呉のくに。

     

詩の鑑賞

兩個・一行、黄鸝・白鷺、鳴翠柳・上青天、窗含・門泊、西嶺・東呉、千秋雪・萬里船、 それぞれ対語であり、句もまたそれぞれ対句をなす。見事である。




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Last modified    First updated 2015/12/10