第43回講義

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2018.03.22 録音

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王維作詩の背景



「王維年譜」



「唐王朝年表」

王維年譜1 699年 1歳 ~727年 29歳
王維年譜2 730年 32歳 ~747年 49歳
王維年譜3 750年 52歳 ~761年 63歳

唐王朝年表1 618年 高 祖 ~779年 代 宗
唐王朝年表2 779年 徳 宗 ~907年 哀 宗


中国文学地図

地名  輞川  荊州・江陵  長安  洛陽  襄陽
山名  秦嶺山脈(地図)  秦嶺山脈(説明)  終南山
川名・湖名  黄河  渭水  漢水


春秋列国の形勢

  


人名用語書名」

人名  王維  裴迪(はいてき)  宋之問  玄宗皇帝(李隆基)  楊貴妃 孟浩然  李林甫  高力士  楊 国忠  陶淵明  張九齢  杜甫  白居易

用語  開元の治  貞観の治  輞川荘  商山四皓

書名  文選(もんぜん) (原文)文選(もんぜん)

     

 

再 掲   



輞川集 并序    唐 王 維

全唐詩 卷一百二十八


 輞川集并序  王昌齡

余別業有輞川山谷。

其游止有孟城坳、華子岡、文杏館、

斤竹嶺、鹿柴、木蘭柴茱、茰沜、宮槐陌、

臨湖亭、南垞、欹湖、柳浪、欒家瀬、金屑泉、

白石灘、北垞、竹里館、辛夷嗚、漆園、椒園、

等。

與裴迪閑暇各賦絶句云爾。


 輞川集もうせんしゅう  ならびにじょ  王 維おうい

別業べつぎょう輞川もうせん山谷さんこくり。

游止ゆうしに、孟城坳もうじょうおう華子岡かしこう文杏館ぶんきょうかん

斤竹嶺きんちくれい鹿柴ろくさい木蘭柴もくらんさい茱茰沜しゅゆはん宮槐陌きゅうかいはく

臨湖亭りんこてい南垞なんだ欹湖いこ柳浪りゅうろう欒家瀬らんからい金屑泉きんせつせん

白石灘はくせきたん北垞ほくだ竹里館ちくりかん辛夷嗚しんいお漆園しつえん椒園しょうえん

等有などあり。

裴迪はいてきと、閑暇かんかおのおの絶句ぜっくすとのみ


 

再 掲



輞川集:孟城坳    唐 王 維

全唐詩 卷一百二十八


 孟城坳  王 維

新家孟城口,

古木餘衰柳。

來者複為誰,

空悲昔人有。

 孟城坳もうじょうおう    王 維おうい

あらたいえなす 孟城口もうじょうこう

古木こぼく 衰柳すいりゅうあま

來者らいしゃは だれとか

むなしく かなしむ 昔人せきじんりしを


字句解釈

孟城坳   孟という城のあった坳(くぼち)。

餘衰柳   おとろえた柳がのこっている。

來者   ①将来の人。②将来くる人。ここは②。


詩の鑑賞

熱心な佛教信者である王維らしい味わい深い一首である。




 

再 掲



輞川集:華子岡    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 華子岡  王 維

飛鳥去不窮,

連山複秋色。

上下華子岡,

惆悵情何極。

 華子岡かしこう    王 維おうい

飛鳥ひちょう ってきわまらず

連山れんざん 秋色しゅうしょく

華子岡かしこうを 上下じょうげすれば 

惆悵ちゅうちょうして じょうなんきわまらん


字句解釈

華子岡    九江にある岡。華子は甪里先生の弟子の名で岡は住んでいたところ。 「入華子岡是麻源第三谷」謝霊運を踏まえる。 文選(もんぜん)にあり。

惆悵   ①嘆き悲しむ。②がっかり気落ちしたさま。失意のさま。


詩の鑑賞

隠者、仙人、佛教にかかわる詩。




 

再 掲



輞川集:文杏館    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 文杏館  王 維

文杏裁為梁,

香茅結為宇。

不知棟裏雲,

去作人間雨。



 文杏館ぶんきょうかん    王 維おうい

文杏ぶんきょう ちてはり

香茅こうぼう むすんで

らず 棟裏とうりくも

って 人間じんかんあめとなるを


字句解釈

文杏裁為梁   文杏は木目のうつくしい杏子の木。
司馬相如長門賦」  これも、文選巻十六を踏まえる。

香茅   かぐわしいかや。 西晋・左思の 「吴都賦」 (『文選』 巻五) に見える。

棟裏雲   郭璞游仙詩」を踏まえる。


詩の鑑賞

王維は広大な輞川荘に20ケ所の游止を設け、それぞれに名前を付けて半官半隠を楽しんだ。
この詩は典故もりである。




 

輞川集:斤竹嶺    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 斤竹嶺  王 維

檀欒映空曲,

青翠漾漣漪。

暗入商山路,

樵人不可知。



 斤竹嶺きんちくれい    王 維おうい

檀欒だんらん 空曲くうきょくえい

青翠せいすい 漣漪れんいただよ

あん商山しょうざんみち

樵人しょうじん からず


字句解釈

斤竹   竹の一種。節が詰まっていて堅い、白い。宋之問が植えたか?
典故:謝霊運「從斤竹澗越嶺溪行詩」(文選) (斤竹澗より嶺溪を越えて行く詩)

檀欒   竹の美しいさま。 (参考)団欒は集まって楽しむ。

漣漪   さざなみ。

暗   人しれず。

商山   商山四皓を踏まえる。

樵人   きこり。
典故:謝霊運「樵隠倶在山,由来事不同。」(文選) (樵隠、倶に山に在り,由来、事同じからず)


詩の鑑賞

短詩の五言絶句は20語であるため、典故が多用される。王維は五絶の名手である。




 

輞川集:鹿 柴    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 鹿 柴  王 維

空山不見人,

但聞人語響。

返景入深林,

複照青苔上。



 鹿柴ろくさい    王 維おうい

空山くうざん ひと

だ 人語じんごひびき

返景へんけい 深林しんりん

た 青苔せいたいうえらす


字句解釈

鹿柴   ①鹿を飼うための囲い。(大漢和) ②鹿の侵入を防ぐ柵。(石川先生)

但聞人語響   音で静かさを表す。
(参考)王安石「茅檐相對坐終日,一鳥不鳴山更幽。」

返景   夕日の光。


詩の鑑賞

奇麗な静かな情景描写。





 

輞川集:木蘭柴    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 木蘭柴  王 維

秋山斂餘照,

飛鳥逐前侶。

彩翠時分明,

夕嵐無處所。



 木蘭柴もくらんさい    王 維おうい

秋山しゅうざん 餘照よしょうおさ

飛鳥ひちょう 前侶ぜんりょ

彩翠さいすい とき分明ぶんめい

夕嵐せきらん 處所しょしょ


字句解釈

木蘭柴   木蘭(白木蓮モクレン)の囲い。木蓮は中国原産で食料、医薬であった。

餘照   夕映え。

飛鳥逐前侶   鳥が前の仲間を追って飛ぶ。陶淵明飲酒」を踏まえる。

彩翠   みどりのいろどり。

夕嵐   夕もや。

無處所  處所は①居所 ②定まったところ。 従って、「夕もやがかかるところもない」と「夕もやがながれてゆく」の両方の解釈がある。


詩の鑑賞

奇麗な静かな夕景描写。「西郊日暮」の情景か?
脱線:故事「木蘭」 中国のジャンヌダルク。




 

輞川集:茱萸沜    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 茱萸沜  王 維

結實紅且綠,

複如花更開。

山中儻留客,

置此茱萸杯。



 茱萸沜しゅゆはん    王 維おうい

むすびて 紅且くれないかみどりなり

はなごとくにさらひら

山中さんちゅうに きゃくとどめなば

茱萸杯しゅゆはいかん


字句解釈

茱萸沜   呉茱萸の生えた崖、岸。(参考)王維「憶山東兄弟」。
茱萸には、山茱萸(みずき科)と呉茱萸(みかん科)がある。山茱萸は日本に伝来した。「ぐみ」(ぐみ科)ではない。
茱萸の画像


詩の鑑賞

王維の当時の生活が見えるようだ。





 

吟 詠   細江利昭様   


鹿 柴   王 維




 鹿 柴  王 維

空山不見人,

但聞人語響。

返景入深林,

複照青苔上。



 鹿柴ろくさい    王 維おうい

空山くうざん ひと

だ 人語じんごひびき

返景へんけい 深林しんりん

た 青苔せいたいうえらす



 

輞川集:宮槐陌    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 宮槐陌  王 維

仄徑蔭宮槐,

幽陰多綠苔。

應門但迎掃,

畏有山僧來。



 宮槐陌きゅうかいはく    王 維おうい

仄徑そくけい 宮槐きゅうかいおおわれ

幽陰ゆういん 綠苔りょくたいおお

應門おうもん 迎掃げいそう

山僧さんそうたるるをおそるならん


字句解釈

宮槐陌   槐(えんじゅ)の植えられた路。宮は美称のための接頭辞。 槐は三公の座に植えた、めでたい樹。樹門。槐夢。南柯夢
陌は東西のこみち。阡は南北のこみち。田舎の小道。

仄徑   傾いた小路。

應門   門番。

迎掃   客を迎えるために掃く。

畏   おそれかしこまる。


詩の鑑賞

王維の当時の生活が見えるようだ。





 

輞川集:臨湖亭    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 臨湖亭  王 維

輕舸迎上客,

悠悠湖上來。

當軒對尊酒,

四面芙蓉開。



 臨湖亭りんこてい    王 維おうい

輕舸けいか 上客じょうかくむか

悠悠ゆうゆう 湖上こじょうたる

けんあたりて 尊酒そんしゅたいすれば

四面しめん 芙蓉開ふようひら


字句解釈

輕舸   軽くて速い小舟。輕舟。

上客   大切なお客。

悠悠   ①ゆったり。②遠くはるか。③うれえるさま。ここは、①と②。

軒   ①檐(えん)の端が軒(のき)。②渡り廊下。ここは、①。

芙蓉   はすのはな。


詩の鑑賞

この詩は幼体である。





 

輞川集:南垞    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 南 垞  王 維

輕舟南垞去,

北垞淼難即。

隔浦望人家,

遙遙不相識。



 南 垞なんだ    王 維おうい

輕舟けいしゅうもて 南垞なんだ

北垞ほくだは びょうとしてかた

へだてて 人家じんかのぞめば

遙遙ようようとして らず


字句解釈

垞   宅地、屋敷。

浦   水のほとり。支流が本流に入ったり、川が海に入る入口のくぼんで見えるところ。 日本でいう「うら」とは違う。

遙遙   はるばる、ひろびろとしたさま。

識   見分ける。相(あい)は一方的にであって、お互いにではない。


詩の鑑賞

広々とした情景。





 

輞川集:欹 湖    唐 王 維

全唐詩卷一百二十八


 欹 湖  王 維

吹簫淩極浦,

日暮送夫君。

湖上一回首,

青山卷白雲。



 欹 湖いこ    王 維おうい

しょういて 極浦きょくほしの

日暮にちぼ 夫君ふくんおく

湖上こじょう ひとたび回首かいしゅすれば

青山せいざん 白雲はくうん


字句解釈

欹湖   両岸に山が欹(そばだ)っているので欹湖と名付けたか?

吹簫   簫と笙
蒙求「蕭史鳳台」

夫君   友人。(普通は妻の夫をいう。)


詩の鑑賞

仙境のイメージ。