第5回講義(その2)


静夜思  唐 李白

漢詩を楽しむ60頁、漢詩鑑賞辞典192頁、岩波唐詩選中350頁

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2014.05.22 録音

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 静夜思  李白

牀前看月光

疑是地上霜

挙頭望山月

低頭思故郷


 静夜思せいしや   李白りはく

牀前しょうぜん 月光げっこう

うたがうらくは これ地上ちじょうしもかと

こうべげて 山月さんげつのぞ

こうべれて 故郷こきょうおも


字句解釈

静夜思    静かな夜の思い。

牀     ベッド。床はゆか。

地上霜     地上に降った白い霜。

     

詩の鑑賞

李白は31歳のころ、安陸の小寿山での作。青年時の望郷の思いを詠っている。余計なことを言わず簡潔である。
李白は五言絶句に優れ、杜甫は七言絶句に優れている。
五言絶句の幼体、あるいは古詩。「是上」が仄仄。「頭頭」が重複、かつ「平平」、「月月」の重複など。孟浩然同様、五言絶句の形式の決まる前の作のようだが、 この詩は古今の名詩である。






黄鶴楼送孟浩然之広陵  唐 李 白

漢詩を楽しむ38頁、漢詩鑑賞辞典197頁、岩波唐詩選下45頁

李白28歳、孟浩然40歳の頃の作か?


 黄鶴楼送孟浩然之広陵  李 白

故人西辞黄鶴楼

烟花三月下揚州

孤帆遠影碧空尽

唯見長江天際流


 黄鶴楼こうかくろうにて孟浩然もうこうねん広陵こうりょうくをおくる  李白りはく

故人こじん 西にしのかた 黄鶴楼こうかくろう

烟花えんか 三月さんがつ 揚州ようしゅうくだ

孤帆こはん遠影えんえい 碧空へきくう

ただる 長江ちょうこう天際てんさいながるるを


字句解釈

黄鶴楼 武昌にある。孟浩然は襄陽から李白は安陸から出てこの地で会し、李白が孟浩然を見送った。
昔、辛氏という人の酒屋があった。そこにみすぼらしい身なりの魁偉な仙人がやってきて、酒を飲ませて欲しいという。 辛氏は嫌な顔一つせず、ただで酒を飲ませ、それが半年くらい続いた。 ある日、道士は辛氏に向かって「酒代が溜まっているが、 金がない」と言い、代わりに店の壁にみかんの皮で黄色い鶴を描き、去っていった。 客が手拍子を打ち歌うと、 それに合わせて壁の鶴が舞った。そのことが評判となって店が繁盛し、辛氏は巨万の富を築いた。 その後、再び店に仙人が現れ、笛を吹くと黄色い鶴が壁を抜け出してきた。仙人はその背にまたがり、 白雲に乗って飛び去った。辛氏はこれを記念して楼閣を築き、黄鶴楼と名付けたという。(「武昌志」)

広陵  揚州の別名。

烟花  春の花にかすみが立ち込めている風景。

揚州  揚子下流の繁華な商業都市。関連詩1,2,3、4参照

孤帆  一隻の帆掛け船。

天際  天の果て。


詩の鑑賞

李白28歳、孟浩然40歳の詩。 孟浩然が長安に向けて長江を下る李白を見送った詩。俺もそのうちに行くぞと李白は思っていただろう。






関連詩1

憶揚州  中唐 徐 凝


全唐詩巻474


 憶揚州   徐凝

蕭娘臉下難勝涙

桃葉眉頭易得愁

天下三分明月夜

二分無賴是揚州




 揚州ようしゅうおもう 徐凝じょぎ

蕭娘しょうじょう 臉下けんか なみだかた

桃葉とうよう 眉頭びとう うれいやす

天下てんか 三分さんぶん 明月めいげつよる

二分にぶん無賴ぶらい これ揚州ようしゅう


字句解釈

蕭娘  美女。芸者。

臉下  瞼(まぶた)のした。。

桃葉  桃の葉っぱ。

眉頭  美人の眉。

天下三分  この世の楽しみを三つに分ければ。

二分  そのうちの二分は。

無賴  無頼漢の無頼。親しみの裏返しの表現。宴会の楽しみ。


詩の鑑賞

天下の楽しみを三分すれば、その二は揚州にあるよ。揚州の夢。






関連詩2

憶揚州  日本 広瀬 建(淡窓)


漢詩の楽しみ124頁


 発長崎   広瀬建

旗亭風笛送離愁

佳境唯疑夢裏遊

靉靆橋頭二分月

瓊江也是小揚州




 長崎ながさきはつす 広瀬ひろせけん

旗亭きていの 風笛ふうてき 離愁りしゅうおく

佳境かきょう ただうたがう 夢裏むりあそびかと

靉靆あいたいの 橋頭きょうとう 二分にぶんつき

瓊江けいこう またこれ 小揚州しょうようしゅう


字句解釈

旗亭  料亭。

離愁  別離の悲しみ。

靉靆橋  メガネ橋。

橋頭  橋のほとり。

瓊江  長崎のこと。


詩の鑑賞

広瀬建が長崎の料亭で遊び、その夢のような遊びを、帰途、長崎から出る船上で詠った詩。 長崎はまるで小さな揚州であることよ。






関連詩3

墨上春遊  日本 永井荷風



 墨上春遊  永井荷風

黄昏転覚薄寒加

載酒又過江上家

十里珠簾二分月

一湾春水満堤花




 墨上春遊ぼくじょうしゅんゆう  永井ながい荷風かふう

黄昏こうこん うたおぼゆ 薄寒はくかんくわわるを

さけせて 又またぐ 江上こうじょういえ

十里じゅうりの 珠簾しゅれん 二分にぶんつき

一湾いちわんの 春水しゅんすい 満堤まんていはな


字句解釈

墨上  隅田川のほとり。

珠簾  料亭の美しいすだれ。


詩の鑑賞

隅田川の花見の詩。「十里珠簾二分月一湾春水満堤花」見事です。







関連詩4

黄鶴楼  唐 崔顥


漢詩の楽しみ37頁 全唐詩巻130


 黄鶴楼  崔顥

昔人已乘白雲去

此地空餘黄鶴樓

黄鶴一去不復返

白雲千載空悠悠

晴川歴歴漢陽樹

春草萋萋鸚鵡洲

日暮郷關何處是

煙波江上使人愁



 黄鶴楼こうかくろう  崔顥さいこう

昔人せきじん すで白雲はくうんじょうじて

 むなしくあます 黄鶴樓こうかくろう

黄鶴こうかく ひとたびさつて またかえらず

白雲はくうん 千載せんさい むなしく悠悠ゆうゆう

晴川せいいせ 歴歴れきれき 漢陽かんようじゅ

春草すんそう 萋萋せいせい 鸚鵡洲おうむしゅう

日暮にちぼ 郷關きょうかん いずれのところこれなる

煙波えんぱ 江上こうじょう ひとをしてうれえしむ


字句解釈

歴歴  はっきりと。

萋萋  あおあおとしげるさま。

鸚鵡洲   長江の中洲。後漢末、武昌、禰衡の「鸚鵡賦」が文選にある。後漢の末、魏の黄祖が、江夏の太守だった時、 「鸚鵡賦」を作って名高かった文人禰衡をここで暗殺した故事があります。ときに禰衡は26歳の若さでした。

郷關  ふるさと。

煙波  もや。

詩の鑑賞

この詩は黄鶴楼を詠った代表的名詞である。崔顥が黄鶴楼に書き付けたこの詩を見た李白は これ以上の詩はできないといってここを去ったということである。








客中行  唐 李白

唐詩選下38頁 漢詩鑑賞辞典195頁


 客中行  李白

蘭陵美酒鬱金香

玉椀盛來琥珀光

但使主人能醉客

不知何處是他鄕



 客中行かくちゅうこう  李白りはく

蘭陵らんりょうの 美酒びしゅ 鬱金うっこんこう

玉椀ぎょくわん たる 琥珀こはくひかり

ただ 主人しゅじんをしてきゃくわしめれば

らず いずれのところか これ他鄕たきょう


字句解釈

蘭陵  昔、楚の国、山東省西端、酒の名産地。蘭は香草、酒の香り付けに使う。

鬱金  草の名。酒の香り付けに使う。今はチューリップのこと。

琥珀  樹脂の化石。酒の色の表現。

但  ただーーーしさえすれば。

客  旅人。

詩の鑑賞

李白34,5歳のころの作。安陸に妻子を留めて単身長江を下り洛陽にいたり、山西省、山東省に遊んだときの作である。
酒に酔った時にはここは他郷とは思えない。逆に言えば素面の時は他郷である。これは望郷の詩である。
語呂のよい詩で、吟ずば素晴らしいであろう。




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Last modified 2014/06/20 First updated 2014/04/28