第55回講義

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2019.05.23 録音

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杜牧作詩の背景



「杜牧年譜」


「唐代詩人年表」


「唐王朝年表」


「中国の歴史要約」

杜牧年譜1 803年 1歳 ~839年 37歳
杜牧年譜2 840年 38歳 ~852年 50歳

唐代詩人年表1 580年 魏 徴 ~718年 賈 至
唐代詩人年表2 735年 李 頎 ~843年 魚玄機

唐王朝年表1 618年 高 祖 ~779年 代 宗
唐王朝年表2 779年 徳 宗 ~907年 哀 宗

中国の歴史要約1 
中国の歴史要約2 分裂の時代


中国文学地図

地名  江 州(九 江)  南昌(宣州)  貴池  揚州(地図)  揚州(解説)  南京  洛陽  長安

川名・湖名  淮河  鄱陽湖  長江  洞庭湖  湘江  黄河


春秋列国の形勢

     


人名用語書名」

人名 杜牧 杜佑 沈傳師  牛僧儒  李徳裕  煬帝  隋 文帝  王羲之

用語  科挙  牛李の党争  節度使  刺史

書名

参考名詩

     

 

憶揚州  唐 徐 凝

全唐詩卷四百七十四


 憶揚州  徐 凝

蕭娘臉下難勝涙,

桃葉眉頭易得愁。

天下三分明月夜,

二分無賴是揚州。


 揚州ようしゅうおもう  徐 凝じょぎ

蕭娘しょうじょう 臉下けんか なみだがた

桃葉とうよう 眉頭びとう うれいやす

天下てんか 三分さんぶん 明月めいげつよる

二分にぶんの 無賴ぶらい 揚州ようしゅう


字句解釈

徐凝   中唐・元和(げんな)年間の詩人。生涯無位無冠の人。

蕭娘   お嬢さん。妓女。蕭郎蕭娘 恋人同士。

臉下   眼の下。顔。

桃葉   王義之の子の 王献之の妾。美人のこと。

眉頭   眉のあたり。

無賴   かわいさあまってこのやろう。


詩の鑑賞

揚州の繁華を詠じた詩。天下のどんちゃん騒ぎの三分の二は揚州にあり。




 

情人桃葉歌   晋 王獻之

「漢魏六朝の詩」石川忠久著


 情人桃葉歌   王獻之

桃葉復桃葉。

渡江不用楫。

但渡無所苦。

我自迎接汝。

桃葉復桃葉。

桃葉連桃根。

相憐兩樂事。

獨使我殷勤。


 情人桃葉じょうじんとうよううた  王獻之おうけんし

桃葉とうよう 桃葉とうよう

こうわたる かじもちひず

わたれ くるしむところなし

みずから なんじ迎接げいせつせん

桃葉とうよう 桃葉とうよう

桃葉とうようは 桃根とうこんつらなるもちひず

相憐あいあわれむは 兩樂事りょうらくじなるに

ひとれをして殷勤いんぎんせしむ


字句解釈

王獻之   王義之の第七子。書の大家。

桃葉  王獻之の情人。

楫  かじ。かい。

桃根   桃のねっこ。桃葉の妹との説。

殷勤   ねんごろなこと。

 

詩の鑑賞

端唄、都都逸の類の即興の詩。南北朝時代に流行った。文選にある。


 

揚州三首其一    唐 杜 牧

全唐詩 卷五百二十二


 揚州三首其一    杜 牧

煬帝雷塘土,

迷藏有舊樓。

誰家唱水調,

明月滿揚州。

駿馬宜閑出,

千金好舊游。

喧闐醉年少,

半脱紫茸裘。

 揚州三首其ようしゅうさんしゅそいち  杜牧とぼく

煬帝ようだい 雷塘らいとうつち

迷藏めいぞう 舊樓きゅうろう

いえか 水調すいちょうとな

明月めいげつ 揚州ようしゅう滿

駿馬しゅんめは よろしくかんよりいだすべし。

千金せんきん 舊遊きゅうゆう

喧闐けんでん年少ねんしょうよわしめ

なかば 紫茸しじょうきゅうだつ


字句解釈

煬帝   隋の第2代皇帝。

雷塘   地名。煬帝の墓がある。

迷藏   目隠しあそび。迷樓(煬帝が作った)とかける。迷樓記

水調   水調歌。煬帝作、悲しい歌。

明月   明月の宴会。どんちゃん騒ぎ。

閑   馬屋の柵。

千金好舊游    千金を好し!舊遊に!

喧闐    バカ騒ぎ。

年少   自分のこと。

紫茸裘   細い毛の上等の上着。


詩の鑑賞

杜牧が揚州で遊びほうけた様子。



 

揚州三首其三    唐 杜 牧

全唐詩 卷五百二十二


 揚州三首其三    杜 牧

街垂千歩柳,

霞映兩重城。

天碧台閣麗,

風涼歌管清。

纖腰間長袖,

玉佩雜繁纓。

拖軸誠為壯,

豪華不可名。

自是荒淫罪,

何妨作帝京。

 揚州三首其ようしゅうさんしゅそいち  杜牧とぼく

まちる 千歩せんぽやなぎ

かすみえいず 兩重りょうじゅうしろ

てんへきにして 台閣たいかくうるわしく

かぜすずしくして 歌管かかんきよ

纖腰せんよう 長袖ちょうしゅうかん

玉佩ぎょくはい 繁纓はんえいまざ

拖軸たじく まことそう

豪華ごうか なづからずす

おのずかられ 荒淫こういんつみ

なんさまたげん 帝京ていきょうつくるを


字句解釈

兩重城   二つの重なった街。

纖腰   美女。

長袖   長い袖の衣。

玉佩   腰に下げた玉。

繁纓   馬の飾り。

拖軸   船の舵、諸施策。

自是荒淫罪,何妨作帝京。  煬帝の荒淫の罪であって、揚州が帝都に値しないことはない。


詩の鑑賞

楽しんでいる揚州をへの思い。



 

隋宮春    唐 杜牧

全唐詩卷五百二十五


 隋宮春    杜牧

龍舟東下事成空,

蔓草萋萋滿故宮。

亡國亡家為顏色,

露桃猶自恨春風。

 隋宮ずいきゅうはる  杜牧とぼく

龍舟りゅうしゅう ひがしくだり ことくう

蔓草まんそう 萋萋せいせい 故宮こきゅう滿

くにほろぼし いえほろぼすは 顏色がんしょくたま

露桃ろとう おのずから 春風しゅんぷううら


字句解釈

隋宮   煬帝の揚州の宮殿。

龍舟   天子の乗った船、煬帝の舟。

露桃   井戸端の露地の桃の花。

蔓草   つる草。

萋萋   さかんにしげる。


詩の鑑賞

揚州栄枯盛衰。



 

泛龍舟  隋 煬帝

「漢魏六朝の詩」石川忠久著


 泛龍舟  隋 煬帝

舳艫千里泛歸舟,

言旋舊鎮下揚州。

借問揚州在何處,

淮南江北海西頭。

六轡聊停御百丈,

暫罷開山歌棹謳。

詎似江東掌間地,

獨自稱言鑑裏遊

 龍舟りゅうしゅううかぶ  ずい 煬帝ようだい

舳艫じくろ 千里せんり 歸舟きしゅううか

ここ舊鎮きゅうちんめぐり 揚州ようしゅうくだ

借問しゃもんす 揚州ようしゅう いずれところにかるかと

淮南わいなん 江北こうほく うみ西頭せいとう

六轡りくひ いささとどめ 百丈ひゃくじょうぎょ

しばら開山かいざんめ 棹謳とうおううた

なんたる江東こうとう間地かんちしょうするに

ひとみずから しょうしてう 鑑裏かんりゆう


字句解釈

龍舟   煬帝の4階建巨舟。

舳艫   船首と船尾。

鎮   まち。

淮南   淮河の南。運河、 邗溝(かんこう)で揚子江に連絡する。

六轡   六本のたずな。両岸から龍舟を引っ張る。

百丈   一丈=2.25m。

開山   長城を開けて戦争する。

棹謳   ふなうた。

鑑裏   鏡のような平和な中。


詩の鑑賞

煬帝(即位604年ー死617年)絶頂の時の作。605年、洛陽から揚州へ龍舟で行幸した。



 

隋煬帝時挽舟者歌  隋 無名氏 

「漢魏六朝の詩」石川忠久著


 隋煬帝時挽舟者歌  無名氏

我兄征遼東,餓死靑山下。

今我挽龍舟,又困隨堤道。

方今天下饑,路糧無些小。

前去三千程,此身安可保。

寒骨枕荒沙,幽魂泣煙草。

悲損門内妻,望斷吾家老。

安得義男兒,焚此無主屍。

引其孤魂回,負其白骨歸。

 隋煬帝ずいようだいふねものうた 無名氏むめいし

あに 遼東りょうとうき、 靑山せいざんもと餓死がしす。

今我いまわれ 龍舟りょうしゅうき、 また隨堤ずいていみちくるしむ。

方今ほうこん 天下饑てんかうえ、 路糧ろりょう 些小さしょうし。

すすくこと 三千程さんぜんてい いずくんぞたもけんや。

寒骨かんこつ 荒沙こうさまくらし、 幽魂ゆうこん 煙草えんそうく。

悲損ひそんす 門内もんないつま望斷ぼうだんす いえろう

いずくにか男児だんじて、 ぬししかばね

孤魂ここんいてかえり、 白骨はっこつひてかえらん。


字句解釈

悲損   かなしみそこなわれる。

望斷   まちのぞむ。断は強調。


詩の鑑賞

龍舟を曳かされた者の悲哀の詩。





吟 詠    志村典子様 

春 望  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 17頁  漢詩鑑賞辞典 295頁  


 春望  杜甫

國破山河在

城春草木深

感時花濺涙

恨別鳥驚心

烽火連三月

家書抵萬金

白頭掻更短

渾欲不勝簪


 春望しゅんぼう  杜甫とほ

くにやぶれて 山河さんが

しろはるにして 草木そうもくふか

ときかんじては はなにもなみだそそ

わかれうらんでは とりにもこころおどろかす

烽火ほうか 三月さんげつつらなり

家書かしょ 萬金ばんきんあた

白頭はくとうかけさらみじか

すべかんざしたえざらんとす


 

隋 苑    唐 杜 牧

全唐詩卷五百二十四


 隋苑    杜牧

紅霞一抹廣陵春,

定子當筵睡臉新。

卻笑丘墟隋煬帝,

破家亡國為誰人。

 隋苑ずいえん  杜牧とぼく

紅霞こうか 一抹いちまつ 廣陵こうりょうはる

定子ていし えんあたりて 睡臉すいけんあらたなり

かえつてわらう 丘墟きゅうきょの ずい煬帝ようだい

いえやぶり くにほろぼすは ひとため


字句解釈

隋苑   隋の煬帝が揚州に作った庭園。

紅霞   紅霞は朝焼け、夕焼けのことだが、ここでは、遠くかすんでいる桃の花。

一抹   ひとはけ。

廣陵   揚州。

定子   牛僧儒の腰元。

當筵   宴席で。

睡臉   眠いまぶた。寝顔。

丘墟   はいきょ。 全唐詩では「吃虧(きっき)」大損をする、ひどいめにあう。


詩の鑑賞

定子の眠そうな顔を見ているとひどい目に合った煬帝がおかしくなる。??? このような可愛い女子のせい(by)で、あるいは、ために(for)に国を滅ぼしたのかなあ? ああこのためか!



 

贈別二首    唐 杜牧

全唐詩 卷五百二十三


 贈別二首    杜牧

 其一 娉娉嫋嫋十三餘,豆蒄梢頭二月初。

春風十裏揚州路,卷上珠簾總不如。

 其二 多情卻似總無情,唯覺尊前笑不成。

蝋燭有心還惜別,替人垂涙到天明。

 贈別二首ぞうべつにしゅ  杜牧とぼく

 其一そのいち

娉娉へいへい 嫋嫋じょうじょう 十三餘じゅうさんよ

豆蒄とうこう 梢頭しょうとう 二月にがつはじ

春風しゅんぷう 十裏じゅうり 揚州ようしゅうみち

珠簾しゅれんぐるも すべしか

 其二そのに

多情たじょうは かえってたり すべ無情むじょうなるに

おぼゆ 尊前そんぜん わらいのらざるを

蝋燭ろうそく 心有こころありて わかれをおし

ひとわって なみだれて 天明てんめいいた


字句解釈

贈別   普通、別れて行く人が残すものを留別というが、ここではその意で用いている。 娉娉   みめよいさま。

嫋嫋   しなやかなさも。

豆蒄   マメ科の植物。

梢頭   えだのさき。

有心   蝋燭の芯と擬人化した心をかける。


詩の鑑賞

揚州との別れの詩。杜牧の代表的詩。
「多情卻似總無情」いろいろな解釈がある。




 

無題    唐 李商隱

漢詩を楽しむ79頁 全唐詩卷五百三十九


 無題   李商隱

相見時難別亦難,

東風無力百花殘。

春蠶到死絲方盡,

蝋炬成灰涙始乾。

曉鏡但愁雲鬢改,

夜吟應覺月光寒。

蓬山此去無多路,

青鳥殷勤為探看。

 無題むだい  李商隱りしょういん

ときかたわかるるもかた

東風とうふう ちからく 百花ひゃくかくず

春蠶しゅんさん いたりて 絲方いとまさ

蝋炬ろうきょ はいりて なみだはじめてかわ

曉鏡ぎょうきょうに うれう 雲鬢うんぴんあらたまるを

夜吟やぎんに まさおぼゆべし 月光げっこうさむきを

蓬山ほうざん ここよりって 多路たろ 

青鳥せいちょう 殷勤いんぎんに ため探看たんかんせよ


字句解釈

李商隱   晩唐の官僚政治家で、時代を代表する漢詩人。

蓬山   当方三山。

無多路   路は遠くない。 青鳥   恋の鳥。

詩の鑑賞

杜牧よりも深みがあるのではなかろうか。



 

歎花    唐 杜牧

全唐詩卷五百二十四


 歎花    杜牧

自恨尋芳到已遲,

往年曾見未開時。

如今風擺花狼藉,

綠葉成陰子滿枝。

 歎花たんか  杜牧とぼく

みずかうらむ ほうたずねて いたることすでおそきを

往年おうねん かつる いまひらかざるとき

如今じょこん 風擺かぜふるいて 花狼藉はなろうぜき

綠葉りょくよう かげして えだみつ


字句解釈


詩の鑑賞

杜牧33歳、揚州から長安に帰ることになり、帰途、越国湖州の太湖に寄り そこで見初めた少女(10歳)に会い、10年後に戻ることを約束した。 15年後、願い出て、850年48歳で湖州の刺史となって戻ったときの詩。 杜牧らしい一詩である。




 

遣懷    唐 杜 牧

漢詩を楽しむ48頁 漢詩鑑賞辞典540頁 全唐詩卷五百二十四


 遣懷  杜 牧

落魄江湖載酒行,

楚腰繊細掌中輕。

十年一覺揚州夢,

贏得青樓薄幸名。

 おもいる  杜 牧とぼく

江湖こうこに 落魄らくはくし さけのせ

楚腰そよう 繊細せんさい 掌中しょうちゅうかる

十年じゅうねん 一覺いっかく 揚州ようしゅうゆめ

たり 青樓せいろう 薄幸はくこう


字句解釈

遣懷   心中の思いを詩にする。

江湖   河と湖。世の中。中央に対する地方。江南地方。

    落魄   おちぶれる。行いが乱れる。自由奔放。

載酒行   酒をたずさえて。

楚腰   楚では細腰の美人が好まれた。

掌中輕   掌の上で跳るぐらいに軽い。趙飛燕

贏得   あましえた。勝ち得た。残し得た。

青樓   妓楼。

薄幸名   うわきもの。


詩の鑑賞

後年、揚州を思い出して作った詩。