第14回講義

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2015.04.23 録音

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望 岳 (望 嶽)  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 45頁  全唐詩 巻二百一十六


「詩人杜甫の
足あと」


地名   泰山  洛陽(鞏県きょうけん)  襄陽            趙(邯鄲)
     晋の解説)  兗州(えんしゅう)

人名  杜審言 杜閑  越王勾践 呉王夫差
     

「杜甫年譜」

杜甫年譜1 712年 1歳 ~739年 28歳
杜甫年譜2 740年 29歳 ~755年 44歳
杜甫年譜3 756年 45歳 ~763年 52歳
杜甫年譜4 764年 53歳 ~770年 59歳


 望 岳  杜甫

岱宗夫如何,

齊魯青未了。

造化鍾神秀,

陰陽割昏曉。

蕩胸生曾雲,

決眥入歸鳥。

會當凌絶頂,

一覽衆山小。



 がくのぞむ  杜甫とほ

岱宗たいそう 如何いかん

齊魯せいろも せいいまおわらず

造化ぞうか 神秀しんしゅうあつ

陰陽いんよう 昏曉こんぎょうかつ

むねうごかす 曾雲そううんしょうずるに

まなじりけつす 歸鳥きちょうるに

かならまさに 絶頂ぜっちょうしのぎて

ひとたび 衆山しゅうざんしょうなるをるべし


字句解釈

望岳    岳を遠くからながめる。 岳(嶽)は、①高い山 ②尊い山 ③固有名詞として五岳 ここでは⑤で泰山のこと。
五岳とは  ①泰山(山東省 1504m東岳)  ②華山(長安の東 華陰にある 1997m西岳)  ③衡山(湖南省衡陽 1290m南岳)  ④恒山(山西省北部 2017m北岳)  ⑤嵩山(河南省 1440m中岳)
泰山は皇帝が封禅の義を行う山である。玄宗皇帝も封禅の義を行った。

岱宗    岱は泰山。宗は長で、宗家の宗。泰山は大平原中にあって目立つ山である。

夫如何    そもそも、それは一体全体何者か?

青未了    山が青々と終りなく続いている。

造化    ①天地をなりたたせている自然の道理 ②造物主。

    ①あつめる(集、聚、蒐、輯、湊、--) ②かね(鐘) ③としより 龍鍾(ろうしょう) 年老いてやつれたさま。 ここでは①。

神秀    崇高な霊。

陰陽    陰陽五行説。  陰、陽、木、火、土、金、水。 陰は- 陽は+。

昏曉    昏ーー夕方、くらい、曉ーー明け方、あかるい。

蕩胸    むねをゆりうごかす。感激してむねがどきどきする。

曾雲    重なった雲、層雲。 雲が湧き上がるのをみて胸がさわぐ。

決眥    目を見開て見つめる。

會當    将来かならず、きっとーーするぞ。

凌絶頂    頂上に登る。

一覧   ①一度見る ②一通り見る ③一目で見渡す ここでは③。

衆山小   周囲の小さな山々。孟子に故事がある。孔子が泰山から眺めて国が小さいと言った。


     

詩の鑑賞

杜甫29歳の作。杜甫の若いころの詩は少ない。この詩は残された詩のなかで最も若い時の貴重な詩である。
これは杜甫の得意とする律詩である。李白は絶句を得意とする。李絶杜律。
杜甫の詩は一般的に沈鬱だとの説があるが、この詩は若さが漲っている。やる気満々希望に満ちている。 杜甫の若さによるが、よく治まった「貞観の治」と並び称される「開元の治」の時代背景も影響しているようだ。
杜甫の生まれた年に、玄宗皇帝が即位し、その翌年に年号が開元に改まった。杜甫は開元の治の申し子である。


 


經鄒魯祭孔子而歎之  唐 玄宗(李隆基)

漢詩を楽しむ 46頁  全唐詩 巻三


 經魯祭孔子而歎之  玄宗

夫子何為者,

棲棲一代中。

地猶鄹氏邑,

宅即魯王宮。

歎鳳嗟身否,

傷麟怨道窮。

今看兩楹奠,

當與夢時同。



 孔子こうしまつこれたんず  玄宗げんそう

夫子ふうし なにもの

棲棲せいせいたり 一代いちだいうち

お 鄹氏しゅうしゆう

たくすなわち 魯王ろおうきゅう

ほうなげきては なるをなげ

りんいたみては みちきゅうするをうら

いま 兩楹りょうえいてんるに

まさに 夢時ゆめみときおなじかるべし


字句解釈

經魯祭孔子夫子     玄宗は孔子を祭った。

歎之    孔子が孔子の理想を達成できなかったことをなげく。

夫子何為者    夫子は先生のことで孔子を指す。孔子とは何を為す者か、いったいどういう人か。 杜甫の「望岳」の「岱宗夫如何」はこの句と似かよっている。杜甫はこの詩を見て倣ったのであろう。

棲棲    いそがしいさま。
《論語・憲問》微生畝謂孔子曰:「丘何為是栖栖者與、無乃為佞乎」孔子曰:「非敢為佞也,疾固也。」
《漢書・敘傳上》棲棲皇皇 busy&brilliance

地猶鄹氏邑     孔子を祭った地は、今もなお、鄹さんの住んでいた村である。
《史記・孔子世家》孔子生魯昌平郷陬邑。其先宋人也,曰孔防叔。防叔生伯夏,伯夏生叔梁紇。紇與顏氏女野合而生孔子,禱於尼丘得孔子。魯襄公二十二年而孔子生。生而首上圩頂,故因名曰丘云。字仲尼,姓孔氏。

魯王宮    孔子の旧宅を魯王が宮殿にしてつかった宮。

歎鳳嗟身否    立派な聖天子がでないので鳳も現れない。われやんぬるかな!。自分もお終いだ!。と孔子は歎じた。
《論語・子罕》子曰:「鳳鳥不至,河不出圖,吾已矣夫!」The Master said, "The Feng bird does not come; the river sends forth no map - it is all over with me!"

傷麟怨道窮    折角現れた麒麟が死んで傷ましいことだ。道も窮した。と孔子は怨んだ。
《孔叢子・記問》叔孫氏之車卒曰:「子鉏商樵於野而獲獸焉。衆莫之識,以為不祥,棄之五父之衢。」冉有告夫子曰:「有麕而肉角,豈天之妖乎?」夫子曰:「今何在?吾將觀焉。」遂往,謂其御高柴曰:「若求之言,其必麟乎!」到視之,果信。言偃問曰:「飛者宗鳳,走者宗麟,為其難致也。敢問今見其誰應之?」子曰:「天子布德,將致太平,則麟鳳龜龍先為之祥。今周宗將滅,天下無主,孰為來哉?」遂泣曰:「予之於人,猶麟之於獸也。麟出而死,吾道窮矣。」乃歌曰:「唐虞世兮麟鳳遊,今非其時來何求,麟兮麟兮我心憂。」

兩楹奠    孔子廟の二本の柱(楹)の間のお供え(奠)。

當與夢時同    孔子は、自分が祭られる夢を見たが、明王が出なければでめだろう、はたして誰が祭ってくれるだろうかと言った。今、自分(玄宗)は孔子を祭って夢をかなえたぞ!
《禮記・檀弓上》夫子曰:「而丘也殷人也。予疇昔之夜,夢坐奠於兩楹之間。夫明王不興,而天下其孰能宗予?予殆將死也。」蓋寢疾七日而沒。And last night I dreamt that I was sitting with the offerings to the dead by my side between the two pillars.
《史記・孔子世家》「天下無道久矣,莫能宗予。夏人殯於東階,周人於西階,殷人兩柱閒。昨暮予夢坐奠兩柱之閒,予始殷人也。」後七日卒。


     

詩の鑑賞

玄宗は28歳で即位、15年後の開元13年の作。開元の治の真っ盛りで玄宗の得意が見える。 孔子は明王が現れないと祭られないといっているが、今自分が孔子を祭った。自分こそ明王だと言っている。






詩 吟

涼州詞  唐 王 翰

漢詩を楽しむ 30頁 漢詩鑑賞辞典 133頁  
全唐詩 巻一百五十六


 涼州詞  王 翰

葡萄美酒夜光杯,

欲飲琵琶馬上催。

酔臥沙場君莫笑,

古来征戦幾人回。



 涼州詞りょうしゅうし    王 翰おうかん

葡萄ぶどう美酒びしゅ 夜光やこうはい

まんとれば 琵琶びわ馬上ばじょうもよお

いて沙場さじょうす きみわらうことかれ

古来こらい征戦せいせん 幾人いくにんかえ



 


畫 鷹  唐 杜 甫

全唐詩 巻二百二十四


 畫  鷹  杜 甫

素練風霜起,

蒼鷹畫作殊。

?身思狡兔,

側目似愁胡。

絛鏇光堪摘,

軒楹勢可呼。

何當撃凡鳥,

毛血灑平蕪。


 畫 鷹がよう    杜甫とほ

素練それん 風霜ふうそうおこ

蒼鷹そうよう 畫作えがすことことなり

?そびやかして狡兔こうとおも

そばだてて愁胡しゅうこたり

絛鏇とうせん ひかりむに

軒楹けんえい いきおいぶべし

いつまさに 凡鳥ぼんちょうちて

毛血もうけつ 平蕪へいぶそそぐべき


字句解釈

素練     素はしろ。玄は黒。練はねりきぬ。(白い絹布に鷹が描かれている。)

風霜起     風霜①かぜとしも②ねんげつ 星霜③困難④おごそか、きびしい ここは④鷹の絵にきびしい雰囲気が出ている。

蒼鷹     しろい鷹。

作殊     平凡でない。

?身     みをそびやかす。肩をいからせる。(?は大漢和にあるが、uniコードにはない字。) 

狡兔     すばしこい兎。 

側目     ①目をそばめる②目をそばだてる。

愁胡     ①愁いを含んだ胡人。②胡をうれう。故里を思って愁いている。

絛鏇    絛はひも。鏇は①ろくろ②かなぐ ここは②、鷹の足につけた金具。

軒楹     軒端のはしら。

何當     いつかきっとーーーするであろう。推量。

平蕪     雑草の荒れ地。



     

詩の鑑賞

杜甫33歳、開元から天宝に変った、天宝3年、安禄山の乱の作。 鷹を借りて自分のことを言っている。未だ自信漫々、杜甫の意気込みが見える。




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Last modified First updated 2015/03/15