全唐詩
巻三
明皇帝
帝諱隆基。 宗第三子。始封楚王。後爲臨淄郡王。景雲元年。進封平王。立爲皇太子。英武多能。開元際。勵精政
事。海内殷盛旁?碩。講道藝文。貞観風。一朝復振。在位四十七年。諡曰明。詩一巻。
帝、諱、隆基。 宗の第三子。始め楚王に封ぜらる。後、臨淄と爲る。景雲元年。進んで平王に封ぜらる。立ちて皇太子と爲る。英武、多能。開元の際。政
事に勵精す。海内、殷盛、旁た碩を?。道を講じ、文を藝う。貞観の風。一朝、復た振う。在位四十七年。諡(おくりな)に曰く明。詩一巻。
《經鄒魯祭孔子而歎之》玄 宗
夫子何為者,棲棲一代中。 地猶鄹氏邑,宅即魯王宮。
歎鳳嗟身否,傷麟怨道窮。 今看兩楹奠,當與夢時同。
魯を經て孔子を祭り之を歎ず 玄宗
夫子 何為る者ぞ、
棲棲たり 一代の中。
地は猶お 鄹氏の邑、
宅は即ち 魯王の宮。
鳳を歎きては 身の否なるを嗟き、
麟を傷みては 道の窮するを怨む。
今 兩楹の奠を看るに、
當に 夢時し時と同じかるべし
巻一百九
李適之
李適之。一名昌。恆山王承乾之孫。開元中。累官通州刺史。擢秦州都督。轉陜州刺史。入爲河南尹。拝御史大夫。歴
刑部尚書。天寶元年。代牛先客爲左相。李林甫搆之。罷知政事。守太子少保。尋貶宜春太守。詩二首。
李適之。一名昌。恆山王、承乾の孫。開元中。累官、通州刺史たり。擢んでて秦州都督たり。轉じて陜州刺史。入りて河南尹と爲る。御史大夫を拝す。
刑部尚書を歴る。天寶元年。牛先客に代り、左相と爲る。李林甫、之れと搆う。政事を知るを罷め。守太子少保たり。尋いで宜春太守に貶せらる。詩二首あり。
《朝退》
朱門長不閉,親友恣相過。 年今將半百,不樂複如何。
朱門 長く閉さず,親友 相い過ぎるを恣ままにす。
年、今 將に半百,樂まずんば複た如何。
《罷相作》
本事云。適之疏直坦夷。爲相。時譽甚美。爲李林甫所搆。及罷免。朝客雖知無罪。謁問甚稀。適之意憤。日飲醇酣恣。且爲此
詩。林甫愈怒。終遂不免。
本事に云う。適之、疏直、坦夷。相と爲る。時に、譽れ甚だ美なり。李林甫と搆える所と爲る。罷免に及ぶ。謁問、甚だ稀れなり。適之、意、憤る。日び、醇酣を飲みて恣ままにし。且つ、此の詩を爲す。
林甫、愈いよ怒る。終遂不免。終いに遂いに免さず。
避賢初罷相,樂聖且銜杯。 為問門前客,今朝幾個來。
賢を避け 初めて相を罷む,聖を樂しみ 且らく杯を銜む。
為に問う 門前の客,今朝 幾個來たると。
房琯
房琯。字次律。河南人。則天時平章事融之子。以門蔭補弘文生。開元中。明皇将封岱岳。琯撰封禅書以献。張説奇
其才。授秘書省校書郎。又応堪任県令挙。為盧氏令。尋拝監察御史。天寶初。遷主客員外。累憲部侍郎。明皇幸蜀。
琯独馳赴行在。上大悦。即日拝文部尚書。同平章事。與左相葦見素等奉冊霊武。因陳時事。言詞慷慨。粛宗為之改
容。詔持節充招討節度等使。後為賀蘭進明所搆。罷相。尋貶州刺史。詩一首。
房琯。字hは次律。河南の人。則天の時の平章事、融之子。門蔭を以って弘文生に補せらる。開元中。明皇、将に岱岳に封ぜんとする。琯、封禅書を撰し以って献ず。張説、
其の才を奇とす。秘書省校書郎を授く。又た応に県令に任ずるに堪うべく挙らる。盧氏の令と為る。尋いで監察御史を拝す。天寶の初め。主客員外に遷る。憲部侍郎に累す。明皇、蜀に幸す。
琯、独り行在に馳せ赴く。上、大いに悦ぶ。即日、文部尚書を拝す。同じく平章事。左相、葦見素等と霊武を冊して奉ず。因って時事を陳ぶ。言詞、慷慨。粛宗、之が為に容を改む。
持節充招討節度等使に詔す。後、賀蘭進明、搆う所と為る。相を罷む。尋いで州刺史に貶せらる。詩一首。
卷一百一十二
賀知章
賀知章。宇李眞。会稽永興人。少以文詞知名。擢進士。累遷太常博士。開元中。張説爲麗正殿修書使。奏請知章入
書院。同撰六典及文纂。後轉太常少卿。遷禮部侍郎。加集賢院學士。改授工部侍郎。俄遷秘書監。知章性放曠。晩、
尤從誕。自號四明狂客。醉後属詞。動成巻軸。又善草隷。人共傳寶。天寶初。請爲道士還郷里。詔賜鏡湖剡川一曲
御製詩以贈行。皇太子已下咸就執別。年八十六卒。肅宗贈禮部尚書。詩一巻。
賀知章。宇は李眞。会稽永興の人。少にして文詞を以って名を知らる。擢んでて進士たり。開元中。説を張り麗正殿修書使と爲る。奏請して知章
書院に入る。同じく六典及文纂を撰ぶ。後ち太常少卿に轉ず。禮部侍郎に遷る。集賢院學士に加わる。改めて工部侍郎を授く。俄かに秘書監に遷る。知章、性、放曠。
晩に尤も從誕。自から四明狂客と號す。醉後、詞を属(つづ)る。巻軸を動成す。又た草隷を善くす。人、共に傳えて寶とす。天寶の初め。請うて道士と爲り郷里に還る。
御製の詩、以って贈行す。皇太子、已下、咸(ことごと)く別れに就執す。
《題袁氏別業》賀知章
主人不相識,偶坐為林泉。
莫謾愁沽酒,囊中自有錢。
袁氏の別業に題だいす 賀知章
主人 相識らず、
偶坐すは 林泉の為なり。
謾に酒を沽うを愁う莫かれ、
囊中 自から錢あり。
《回郷偶書二首》 賀知章
少小離郷老大回,郷音難改鬢毛衰。
兒童相見不相識,笑問客從何處來。
離別家郷歳月多,近來人事半銷磨。
唯有門前鏡湖水,春風不改舊時波。
郷に回りて偶ま書す 賀知章
少小 郷を離れ老大にして回る、
郷音 改め難く鬢毛衰う。
兒童 相見るも相識ず、
笑つて問う 客何處從來ると。
家郷に離別して歳月多し、
近ごろ來たれば 人事半ば銷磨す。
唯だ門前鏡湖の水有るのみ識ず、
春風 改めず 舊時の波
巻一百二十五
王維
王維。字摩詰。河東人。エ書畫。與弟縉倶有俊才。開元九年。進士擢第。調太楽丞。坐累為済州司倉參軍。右拾
遺、監察御史、左補闕、庫部郎中。拝吏部郎中。天賓末。為給事中。安禄山陥両都。維為賊所得。服薬陽瘖。拘于菩
提寺。禄山宴凝碧池。維潜賦詩悲悼。聞于行在。賊平。陥賊官三等定罪。特原之。貴授太子中允。遷中庶子、中書舎
時人。復拝給事中。転尚書右丞。維以詩名盛於開元。天宝間。寧薛諸王駙馬豪貴之門。無不払席迎之。得宋之問輞川
別墅。山水絶勝。與道友裴迪。泛舟往来。弾琴賦詩。嘯詠終日。篤於奉佛。晩年長齋禪誦。一日。忽策筆作書數紙。
別弟縉及平生親故。舎筆而卒。贈秘書監。寶應中。代宗問縉。朕常於諸王坐聞維楽章。今存幾何。縉集詩六巻。文
四巻。表上之。勅答云。卿伯氏位列先朝。名高希代。抗行周雅。長揖楚辞。詩家者流。詩論歸美。克成編録。歎息良
深。殷璠謂維詩詞秀調雅。意新理愜。在泉成珠。著壁成繪。蘇軾亦云。維詩中有畫。畫中有詩也。今編詩四巻。
王維。字は摩詰。河東の人。書畫にエなり。弟、縉とともに俊才あり。開元九年。進士、擢第。調太楽丞。坐累して済州司倉參軍となる。右拾
遺、監察御史、左補闕、庫部郎中を歴て。吏部郎中を拝す。天賓末。給事中となる。安禄山、両都を陥す。維、賊の得る所となる。薬を服して陽瘖となる。菩
提寺に拘わる。禄山、宴を碧池に凝る。維、潜かに詩を賦し悲悼す。行在に聞こゆ。賊平ぐ。陥賊、官三等、罪を定む。特原之。貴授太子中允。遷中庶子、中書舎
時人。復た給事中を拝す。尚書右丞に転ず。維、詩名をもって開元に盛んなり。天宝の間。諸王駙馬豪貴之門に寧薛す。席を払わざるなく之を迎う。宋之問の輞川の
別墅を得る。山水絶勝。道友、裴迪と。舟を泛べて往来。琴を弾じ詩を賦し。嘯詠すること終日。佛を奉るに篤し。晩年、禪誦を長齋す。一日。忽ち筆を策り書を作ること數紙。
別に弟、縉、及び平生の親故に。舎筆して而して卒す。秘書監を贈る。寶應中。代宗、縉に問う。朕、常に諸王に坐して維の楽章を聞く。今、存するもの幾何ぞと。縉、詩六巻。文
四巻を集む。表して之を上る。勅答に云う。卿伯氏、位、先朝に列す。名高く希代。抗行周雅。長揖楚辞。詩家者流。詩論歸美。克成編録。歎息良
深。殷璠、謂う、維の詩詞、秀にして調、雅。意、新に、理、愜。泉在り、珠を成す。壁に著して繪を成すと。蘇軾、亦た云う。維、詩中に畫有り。畫中に詩有る也と。今、編詩四巻。
巻一百二十七
《送秘書晁監還日本國》王 維
舜覲群后。有苗不格。禹會諸侯。防風後至。動干戚之舞。興斧鉞之誅。乃貢九牧之金。始頒五瑞之玉。我開元天地
大宝聖文神武應道皇帝。大道之行。先天布化。乾元廣運。涵育無垠。若華為東道之標。戴勝為西門之候。豈甘心
於?杖。非徴貢於包茅。亦由呼耶来朝。舎於葡萄之館。卑彌遣使。報以蚊龍之錦。犠牲玉帛。 以将厚意。服食器
用。不宝遠物。百神受職。五老告期。況乎戴髪含歯。得不稽屈膝。海東國。日本為大。服聖人之訓。有君子之風。
正朔本乎夏時。衣裳同乎漢制。歴歳方達。継旧好於行人。滔天無涯。貢方物於天子。同儀加等。位在王侯之先。掌
次改観。不居蛮夷之邸。我無爾詐。爾無我虞。彼以好来。廃関弛禁。上敷文教。虚至實帰。故人民雑居。往来如市。
晁司馬結髪遊聖。負笈辞親。問礼於老。學詩於子夏。魯借車馬。孔丘遂適於宗周。鄭献縞衣。季札始通
於上国。名成太学。官至客卿。必斉之姜。不帰娶於高國。在楚猶晋。亦何屑於由余。遊宦三年。願以君?遺母。不
居一國。欲其畫錦還郷。荘?既顕而思帰。関羽報恩而終去。於是稽首北闕。裏足東轅。篋命賜之衣。懐敬問之詔。
金簡玉字。伝導経於絶域之人。方鼎彝尊。致分器於異姓之國。琅?台上。回望龍門。碣石館前。夐然島逝。鯨魚噴
浪。則萬里倒回。?首乗雲。則八風卻走。扶桑若薺。鬱島如萍。沃白日而?三山。浮蒼天而呑九域。黄雀之風動地。
黒蜃之気成雲。森不知其所之。何相思之可寄。?。去帝郷之故旧。謁本朝之君臣。詠七子之詩。佩両國之印。恢
我王度。諭彼蕃臣。三寸猶在。楽毅辞燕而未老。十年在外。信陵帰魏而逾尊。子其行乎。余贈言者。
積水不可極。安知槍海東。九州何處遠(一作所)。萬里若乗空。向國唯看日。帰帆(一作途)但信風。鷺身映天黒。
魚(一作蜃)眼射波紅。郷樹扶桑外。主人孤島中。別離方異域。音信若為通。
姚合称此詩及送丘為下第、観猟三首。
為詩家射G手。而以此篇圧巻。
秘書晁監の日本国に還るを送る 王維
積水 極むべからず。
安くんぞ知らん蒼海の東。
九州 何処か遠き。
万里 空に乗ずるが若し。
国に向いて唯日を看。
帰帆 但だ風に信す。
鰲身 天に映じて黒く。
魚眼 波を射て紅し。
郷樹 扶桑の外。
主人 孤島の中。
別離 方に域を異にす。
音信 若爲ぞ通ぜむや。
卷一百三十六
儲光羲
儲光羲。袞州人。登開元中進士第。又詔中書試文章。歴監察御史。禄山變後。坐陥賊貶官。集七十巻。今編四巻。
儲光羲。袞州の人。開元中、進士の第に登る。又、中書試文章に詔す。監察御史を歴る。禄山の變の後。坐して賊に陥ち官を貶せらる。集七十巻。今編四巻。
《游茅山五首其五》儲光羲
名嶽征仙事,清都訪道書。山門入松柏,天路涵空虚。
南極見朝采,西潭聞夜漁。遠心尚雲宿,浪跡出林居。
為己存實際,忘形同化初。此行良已矣,不樂複何如。
茅山に游ぶ其の五 儲光羲
名嶽 征仙の事、
清都 訪道の書。
山門 松柏に入り、
天路 空虚を涵す。
南極に朝采を見、
西潭に夜漁を聞く。
遠心 尚雲宿、
浪跡 林居を出ず。
為己 存實の際、
忘形 同化の初め。
此行 良き已矣、
樂から不して 複何如。
巻一百三十八
儲光羲
《洛中貽朝校書衡,朝即日本人也》
萬國朝天中,東隅道最長。吾生美無度,高駕仕春坊。
出入蓬山裏,逍遙伊水傍。伯鸞游太學,中夜一相望。
落日懸高殿,秋風入洞房。屢言相去遠,不覺生朝光。
洛中に朝校書衡に貽る
巻一百五十六
王 翰
王 翰。字子羽。晋陽人。登進士第。擧直言極諫。調昌楽尉。復擧超抜群類。召爲秘書正字。擢通舎人。駕部員外。
出爲汝州長史。改仙州別駕。日與才子豪侠飲楽游畋。坐貶道州司馬卒。集十巻。今存詩一巻。
王翰おうかん。字あざなは子羽しう。晋陽しんようの人ひと。進士しんしの
第だいに登のぼる。直言ちょくげんを擧あげ
極諫きょくかんす。調昌楽尉。復また擧あげられて超はるかに群類ぐんるいを抜ぬく。
召めされて秘書正字ひしょせいじと爲なる。擢ぬきんでて
通舎人。駕部員外。
出いでては汝州じょしゅうの長史ちょうしと爲なる。
改仙州別駕。日ひび才子豪侠さいしごうきょうと飲楽いんらく游畋ゆうてんす。
坐ざして道州司馬卒どうしゅうしばそつに貶へんせらる。集十巻。今存そんす詩一巻。
《涼州詞二首》 王翰
蒲萄美酒夜光杯,欲飲琵琶馬上催。
醉臥沙場君莫笑,古來征戰幾人回。
涼州詞りょうしゅうし 王 翰おうかん
葡萄ぶどうの美酒びしゅ 夜光やこうの杯はい
飲のまんと欲すれば 琵琶びわ馬上ばじょうに催もよおす
酔よいて沙場さじょうに臥ふす 君きみ笑わらうこと莫なかれ
古来こらい征戦せいせん 幾人いくにんか回かえる
巻一百五十九
孟浩然
孟浩然。字浩然。襄陽人。少隠鹿門山。年四十。乃遊京師。常於太學賦詩。一坐嗟伏。與張九齢、王維為忘形交。維
私邀入内署。適明皇至。浩然匿牀下。維以實對。帝喜曰。朕聞其人而未見也。詔浩然出。誦所為詩。至不才明主棄。
帝曰。卿不求仕。朕未(嘗)(常)棄卿。奈何誣我。因放還。採訪使韓朝宗約浩然偕至京師。欲薦諸朝。會與故人劇
飲懽甚。不赴。朝宗怒。辭行。浩然亦不悔也。張九齢鎭荊州。署為従事。開元末。疽發背卒。浩然為詩。佇興而作。
造意極苦。篇什既成。洗削凡近。超然獨妙。雖氣象清遠。而采秀内映。藻思所不及。當明皇時。章句之風大得建安
體。論者推李杜為尤。介其間能不愧者。浩然也。集三巻。今編詩二巻。
孟浩然。字は浩然。襄陽の人。少し鹿門山に隠す。年四十。乃ち京師に遊ぶ。常に太學に於いて詩を賦す。一坐、嗟伏す。張九齢、王維と忘形の交を為す。維
私に内署に邀入る。適たま明皇、至る。浩然、牀下に匿る。維、實を以て對す。帝、喜びて曰く。朕、其の人を聞き而して未だ見ざる也。浩然を詔し出す。詩、為す所を誦す。「不才にして明主に棄てらる」に至る。
帝、曰く。卿、仕を求ず。朕、未だ(嘗って)(常に)卿を棄てず。何すれぞ我を誣するや。因て放還す。採訪使、韓朝宗、浩然と約し偕に京師に至る。諸朝に薦せんと欲す。會たま故人と劇
飲、甚だ懽ぶ。赴かず。朝宗、怒る。辭して行く。浩然、亦た悔まざる也。張九齢、荊州を鎭す。署に従事と為る。開元、末。疽、背に發し卒す。浩然、詩を為す。佇興して作す。
造意極苦。篇什既成。洗削凡近。超然獨妙。氣象清遠と雖も。而して采秀内に映ず。藻思及ばざる所なり。明皇の時に當り。章句之風、大いに
體を安んいじ建て得たり。論者、李杜を推す尤と為す。其間に介し能く愧じざる者。浩然也。集三巻。今編詩二巻。
巻一百六十
《和張丞相春朝對雪》
迎氣當春至,承恩喜雪來。潤從河漢下,花逼?陽開。
不睹豐年瑞,焉知燮理才。撒鹽如可擬,願?和羹梅。
《和張明府登鹿門作》
忽示登高作,能ェ旅寓情。弦歌既多暇,山水思微清。
草得風光動,虹因雨氣成。謬承巴里和,非敢應同聲。
《和張二自穰縣還途中遇雪》
風吹沙海雪,漸作柳園春。宛轉隨香騎,輕盈伴玉人。
歌疑郢中客,態比洛川神。今日南歸楚,雙飛似入秦。
《和賈主簿弁九日登?山》
楚萬重陽日,群公賞宴來。共乘休沐暇,同醉菊花杯。
逸思高秋發,歡情落景催。國人咸寡和,遙愧洛陽才。
《望洞庭湖,贈張丞相》
八月湖水平,涵?混太清。氣蒸雲夢澤,波撼岳陽城。
欲濟無舟楫,端居恥聖明。坐觀垂釣者,空有羨魚情。
《贈道士參寥》
蜀琴久不弄,玉匣細塵生。絲脆弦將斷,金徽色尚榮。
知音徒自惜,聾俗本相輕。不遇鐘期聽,誰知鸞鳳聲。
《京還贈張維》
拂衣何處去,高枕南山南。欲徇五鬥祿,其如七不堪。
早朝非?起,束帶異抽簪。因向智者?,游魚思舊潭。
《題李十四莊,兼贈?毋校書》
聞君息陰地,東郭柳林間。左右?澗水,門庭?氏山。
抱琴來取醉,垂釣坐乘閑。歸客莫相待,尋源殊未還。
《九日龍沙作,寄劉大??》
龍沙豫章北,九日掛帆過。風俗因時見,湖山發興多。
客中誰送酒,棹裏自成歌。歌竟乘流去,滔滔任夕波。
《題融公蘭若》
精舍買金開,流泉繞砌回。?荷熏講席,松柏映香台。
法雨晴飛去,天花晝下來。談玄殊未已,歸騎夕陽催。
《過景空寺故融公蘭若》
池上青蓮宇,林間白馬泉。故人成異物,過客獨潸然。
既禮新松塔,還尋舊石筵。平生竹如意,猶掛草堂前。
《題張野人園廬》
與君園廬並,微尚頗亦同。耕釣方自逸,壺觴趣不空。
門無俗士駕,人有上皇風。何處先賢傳,惟稱?コ公。
《李少府與楊九再來》
弱?早登龍,今來喜再逢。如何春月柳,猶憶?寒松。
煙火臨寒食,笙歌達曙鐘。喧喧鬥?道,行樂羨朋從。
《尋張五回夜園作》
聞就?公隱,移居近洞湖。興來林是竹,歸臥穀名愚。
掛席樵風便,開軒琴月孤。?寒何用賞,霜落故園蕪。
《裴司士、員司?見尋》
府僚能枉駕,家?複新開。落日池上酌,清風松下來。
廚人具?黍,稚子摘楊梅。誰道山公醉,猶能騎馬回。
《春中喜王九相尋》
二月湖水清,家家春鳥鳴。林花掃更落,徑草踏還生。
酒伴來相命,開尊共解酲。當杯已入手,歌妓莫停聲。
《李氏園林臥疾》
我愛陶家趣,園林無俗情。春雷百卉?,寒食四鄰清。
伏枕嗟公幹,歸山羨子平。年年白社客,空滯洛陽城。
《過故人莊》
故人具?黍,邀我至田家。克村邊合,青山郭外斜。
開筵面場圃,把酒話桑麻。待到重陽日,還來就菊花。
《張七及辛大見尋南亭醉作》
山公能飲酒,居士好彈箏。世外交初得,林中契已並。
納涼風颯至,逃暑日將傾。便就南亭裏,餘尊惜解酲。
《歳暮歸南山》
北闕休上書,南山歸敝廬。不才明主棄,多病故人疏。
白髮催年老,青陽逼歳除。永懷愁不寐,松月夜窗虚。
北闕に 書を上まつるを休め,南山 敝廬に歸る。不才 明主に棄られ,多病 故人 疏し。
白髮催し 年老い,青陽 歳除 逼まる。永く愁を懷いて寐ず,松月 夜窗 虚し。
《南山下與老圃期種瓜》
樵牧南山近,林閭北郭?。先人留素業,老圃作鄰家。
不種千株橘,惟資五色瓜。邵平能就我,開徑剪蓬麻。
《溯江至武昌》
家本洞湖上,?時歸思催。客心徒欲速,江路苦?回。
殘凍因風解,新正度臘開。行看武昌柳,?佛映樓臺。
《舟中曉望》
掛席東南望,青山水國遙。舳艫爭利?,來往接風潮。
問我今何去,天臺訪石橋。坐看霞色曉,疑是赤城標。
《自洛之越》
皇皇三十載,書劍兩無成。山水尋?越,風塵厭洛京。
扁舟泛湖海,長揖謝公卿。且樂杯中物,誰論世上名。
《途中遇晴》
已失巴陵雨,猶逢蜀阪泥。天開斜景遍,山出?雲低。
餘濕猶沾草,殘流尚入溪。今宵有明月,?思遠淒淒。
《歸至郢中》
遠遊經海?,返棹歸山阿。日夕見喬木,?關在伐柯 。
愁隨江路盡,喜入郢門多。左右看桑土,依然即匪他。
《夕次蔡陽館》
日暮馬行疾,城荒人住稀。聽歌知近楚,投館忽如歸。
魯堰田疇廣,章陵氣色微。明朝拜嘉慶,須著老?衣。
《他?七夕》
他?逢七夕,旅館益羈愁。不見穿針婦,空懷故國樓。
緒風初減熱,新月始臨秋。誰忍窺河漢,迢迢問鬥牛。
《夜泊牛渚,趁薛八船不及》
星羅牛渚夕,風退鷁舟遲。浦?嘗同宿,煙波忽間之。
榜歌空裏失,船火望中疑。明發泛潮海,茫茫何處期。
《曉入南山》
瘴氣曉氛?,南山複水雲。鯤飛今始見,鳥墜舊來聞。
地接長沙近,江從汨渚分。賈生曾吊屈,予亦痛斯文。
《初年樂城館中臥疾懷歸作》
異縣天隅僻,孤帆海畔過。往來?信斷,留滯客情多。
臘月聞雷震,東風感?和。蟄蟲驚?穴,?鵲眄庭柯。
徒對芳尊酒,其如伏枕何。歸嶼理舟楫,江海正無波。
《醉後贈馬四》
四海重然諾,吾嘗聞白眉。秦城游?客,相得半酣時。
《贈王九》
日暮田家遠,山中勿久淹。歸人須早去,稚子望陶潛。
《登?山亭,寄晉陵張少府》
?首風湍急,雲帆若鳥飛。憑軒試一問,張翰欲來歸。
《送朱大入秦》
遊人武陵去,寶劍直千金。分手?相贈,平生一片心。
《送友人之京》
君登青雲去,予望青山歸。雲山從此別,?濕薜蘿衣。
《送張郎中遷京》
碧溪常共賞,朱邸忽遷榮。豫有相思意,聞君琴上聲。
《同張將薊門觀燈》
異俗非?俗,新年改故年。薊門看火樹,疑是燭龍燃。
《張郎中梅園中》
綺席鋪蘭杜,珠盤折?荷。故園留不住,應是戀弦歌。
《北澗泛舟》
北澗流恒滿,浮舟觸處通。沿自有趣,何必五湖中。
《春曉》
春眠不覺曉,處處聞啼鳥。夜來風雨聲,花落知多少。
《洛中訪袁拾遺不遇》
洛陽訪才子,江嶺作流人。聞?梅花早,何如北地春。
《尋菊花潭主人不遇》
行至菊花潭,村西日已斜。主人登高去,?犬空在家。
《檀溪尋故人》
花伴成龍竹,池分躍馬溪。田園人不見,疑向洞中棲。
《揚子津望京口》
北固臨京口,夷山近海濱。江風白浪起,愁殺渡頭人。
巻一百六十一
李 白
李白。字太白。隴西成記人。涼武昭王ロ九世孫。或曰山東人。或曰蜀人。白少有逸才。志気宏放。飄然有超世之心。
初隠岷山。益州長史蘇頲見而異之曰。是子天才英特。可比相如。天宝初。至長安。往見賀知章。知章見其文。歎曰。
子謫仙人也。言於明皇。召見金鑾殿。奉頌一篇。帝賜食。親為調羹。有詔供奉翰林。白猶與酒徒飲於市。帝坐沈香
亭子。意有所感。欲得白為楽章。召人。而白已酔。左右以水頮面。稍解。授筆成文。婉麗精切。帝愛其才。數今宴見。白
常侍帝。酔。使高力士脱鞾。力士素貴。恥之。摘其詩以激楊貴妃。帝欲官曰。妃輒沮止。白自知不為親近所容。懇求
還山。帝賜金放還。乃浪跡江湖。終日沈飲。永王璘都督紅陵。辟為僚佐。#29848;謀亂。兵敗。白坐長流夜郎。會赦得還。
族人陽冰為當塗令。白往依之。代宗立。以左拾遺召。而白已卒。文宗時。詔以白歌詩、裴旻剣舞、張旭草書為三絶
云。集三十巻。今編詩二十五巻。
李白。字は太白。隴西成記の人。涼武昭王ロ九世の孫。或は曰う山東人。或は曰う蜀人。白、少して逸才有り。志気、宏放。飄然、超世の心有り。
初め岷山に隠す。益州長史、蘇頲之に異を見て曰く。是の子、天才英特。相如に比すべしと。天宝の初。長安に至る。往きて賀知章に見ゆ。知章、其の文を見る。歎じて曰く。
子、仙人を謫す也りと。明皇に言う。召して金鑾殿に見る。頌、一篇を奉まつる。帝、食を賜う。親しく調羹を為す。詔、有り翰林に供奉す。白、猶を酒徒と市に飲む。帝、沈香
亭子に坐す。意に所感有り。白の楽章を為すを得んと欲す。人をして召す。而して白、已に酔う。左右、水を以って面を頮う。稍やく解く。筆を授けて文を成さしむ。婉麗、精切なり。帝、其の才を愛す。數しば宴し見る。白
常に帝に侍す。酔う。高力士をして鞾を脱がしむ。力士、素より貴なり。之を恥ず。其の詩を摘んで以って楊貴妃を激す。帝、官せんと欲して曰う。妃、輒ち沮きて止どむ。白、自から知りて親近所容を為さず。懇んごろに求めて
山に還える。帝、金を賜いて放ち還えす。乃ち江湖に浪跡す。終日、沈飲す。永王、璘、紅陵に都督たり。辟いて僚佐と為す。#29848;、亂を謀る。兵、敗る。白、坐して夜郎に長流す。會たま赦されて還るを得たり。
族人、陽冰、當塗令と為る。白、往きて之に依る。代宗、立つ。左拾遺を以ってす召。而して白、已に卒す。文宗時。詔して白の歌詩、裴旻剣舞、張旭の草書を以って三絶を為すと
云う。集三十巻。今、編詩二十五巻。
巻一百六十七
李 白
《秋浦歌十七首》
秋浦長似秋,蕭條使人愁。客愁不可度,行上東大樓。
正西望長安,下見江水流。寄言向江水,汝意憶儂不。
遙傳一掬涙,為我達揚州。
秋浦しゅうほの歌うた十七首じゅうななしゅ 李白りはく
秋浦しゅうほ 長とこしえに秋あきに似にたり,
蕭条しょうじょうとして 人ひとをして愁うれえしむ。
客愁かくしゅう 度どす可べからず,
行ゆきて上のぼる 東大樓とうたいろう。
正西せいせいに 長安ちょうあんを望のぞみ,
下くだし見みる 江水こうすいの流ながれ。
言げんを寄よせて 江水こうすいに向むかうく,
汝なんじが意い 儂われを憶おもうやいなや。
遥はるかに一掬いっきくの涙なみだを伝つたえ,
我わが爲ために 揚州ようしゅうに達たつせよ。
秋浦猿夜愁,黄山堪白頭。清溪非隴水,翻作斷腸流。
欲去不得去,薄游成久遊。何年是歸日,雨涙下孤舟。
秋浦しゅうほ 猿夜えんやの>愁うれい,
黄山こうざん 白頭はくとうに堪たえたり。
清溪せいけい 隴水ろうすいに非あらず,
翻かえって作なす 斷腸だんちょうの流ながれ。
去さらんと欲ほっして 去さるを得えず,
薄游はくゆう 久遊きゅうゆうと成なる。
何年いずれの年とし 是これの歸日きじつ,
雨涙うるい 孤舟こしゅうに下くだる。
秋浦錦駝鳥,人間天上稀。山雞羞淥水,不敢照毛衣。
兩鬢入秋浦,一朝颯已衰。猿聲催白髮,長短盡成絲。
兩鬢りょうびん 秋浦しゅうほに入いる,
一朝いっちょう 颯さつとして已すでに衰おとろう。
猿聲えんせい 白髮はくはつを催もよおす,
長短ちょうたん 盡ことごとく絲いとと成なる。
秋浦多白猿,超騰若飛雪。牽引條上兒,飲弄水中月。
愁作秋浦客,強看秋浦花。山川如剡縣,風日似長沙。
醉上山公馬,寒歌ィ戚牛。空吟白石爛,涙滿K貂裘。
秋浦千重嶺,水車嶺最奇。天傾欲墮石,水拂寄生枝。
江祖一片石,青天掃畫屏。題詩留萬古,克嚥ム苔生。
千千石楠樹,萬萬女貞林。山山白鷺滿,澗澗白猿吟。
君莫向秋浦,猿聲碎客心。
邏人鳥道,江祖出魚梁。水急客舟疾,山花拂面香。
水如一匹練,此地即平天。耐可乘明月,看花上酒船。
淥水淨素月,月明白鷺飛。郎聽采菱女,一道夜歌歸。
爐火照天地,紅星亂紫煙。赧郎明月夜,歌曲動寒川。
白髮三千丈,縁愁似個長。不知明鏡裏,何處得秋霜。
白髪はくはつ 三千丈さんぜんじょう,
愁うれいに縁よって 箇かくの似ごとく長ながし。
知しらず 明鏡めいきょうの裏うち,
何いずれの処ところにか 秋霜しゅうそうを得えし。
秋浦田舍翁,采魚水中宿。妻子張白鷴,結罝映深竹。
桃波(一作陂)一歩地,了了語聲聞。暗與山僧別,低頭禮白雲。
《永王東巡歌十一首》李白
永王正月東出師,天子遙分龍虎旗。
樓船一舉風波靜,江漢翻為雁鶩池。
永王 正月 東に師を出いだす,天子 遥かに分かつ 竜虎の旗はた。
樓船 一挙あがれば 風波静まり,江漢 翻りて爲なる 雁鶩(がんぼく)の池。
三川北虜亂如麻,四海南奔似永嘉。
但用東山謝安石,為君談笑靜胡沙。
雷鼓??喧武昌,雲旗獵獵過尋陽。
秋毫不犯三?ス,春日遙看五色光。
龍蟠虎踞帝王州,帝子金陵訪古丘。
春風試暖昭陽殿,明月還過?鵲樓。
二帝巡遊倶未回,五陵松柏使人哀。
諸侯不救河南地,更喜賢王遠道來。
二帝 巡遊 倶に未だ廻らず,五稜の松柏 人をして哀れしむ。
諸侯 救ず河南の地, 更らに喜ぶ 賢王 遠道を來きたるを。
丹陽北固是?關,畫出樓臺雲水間。
千岩烽火連滄海,兩岸旌旗繞碧山。
王出三山按五湖,樓船跨海次陪都。
戰艦森森羅虎士,征帆一一引龍駒。
長風掛席勢難回,海動山傾古月摧。
君看帝子浮江日,何似龍驤出峽來。
祖龍浮海不成橋,漢武尋陽空射蛟。
我王樓艦輕秦漢,卻似文皇欲渡遼。
帝寵賢王入楚關,掃清江漢始應還。
初從雲夢開朱邸,更取金陵作小山。
試借君王玉馬鞭,指揮戎虜坐瓊筵。
南風一掃胡塵靜,西入長安到日邊。
《上皇西巡南京歌十首》李白
胡塵輕拂建章台,聖主西巡蜀道來。
劍壁門高五千尺,石為樓閣九天開。
九天開出一成都,萬?千門入畫圖。
草樹雲山如錦?,秦川得及此間無。
華陽春樹號新豐,行入新都若舊宮。
柳色未饒秦地香C花光不減上陽紅。
誰道君王行路難,六龍西幸萬人歡。
地轉錦江成渭水,天回玉壘作長安。
誰か道う 君王 行路難と六龍 西幸 萬人歓ぶ。
地転じて 錦江 渭水と成り天廻りて 玉塁 長安と作なる。
萬國同風共一時,錦江何謝曲江池。
石鏡更明天上月,後宮親得照蛾眉。
濯錦清江萬里流,雲帆龍舸下揚州。
北地雖誇上林苑,南京還有散花樓。
錦水東流繞錦城,星橋北掛象天星。
四海此中朝聖主,峨眉山下列仙庭。
秦開蜀道置金牛,漢水元通星漢流。
天子一行遺聖跡,錦城長作帝王州。
水酷V青不起塵,風光和暖勝三秦。
萬國煙花隨玉輦,西來添作錦江春。
劍閣重關蜀北門,上皇歸馬若雲屯。
少帝長安開紫極,雙懸日月照乾坤。
《峨眉山月歌》李白
峨眉山月半輪秋,影入平羌江水流。
夜發清溪向三峽,思君不見下渝州。
峨眉山月 半輪の秋、影は平羌江水に入って流る。
夜 清渓を発して三峡に向かう、君を思えども見えず渝州に下る。
卷一百七十
《獄中上崔相渙》 李 白
胡馬渡洛水,血流征戰場。千門閉秋景,萬姓危朝霜。
賢相燮元氣,再欣海縣康。台庭有夔龍,列宿粲成行。
羽翼三元聖,發輝兩太陽。應念覆盆下,雪泣拜天光。
獄中ごくちゅう崔相渙さいそうかんに上たてまつる 李白りはく
胡馬こば 洛水らくすいを渡わたり
血流りゅうけつ 戰場せんじょうを征ゆく
千門せんもん 秋景しゅうけいに閉とじ
萬姓ばんせい 朝霜ちょうそうに危あやうし
賢相けんそう 元氣げんきを燮やわらぐ
再ふたたび欣よろこぶ 海縣かいけんの康すこやかなるを
台庭たいていに 夔龍きりゅうあり
列宿れっしゅく 成行せいこうに粲さんたり
羽翼うよくに三元聖さんげんせいあり
輝かかがきを發はつす兩太陽りょうたいよう
應まさに念おもうべし 覆盆ふくぼんの下もと
泣なみだを雪すすいで 天光てんこうを拜はいさんことを
《流夜郎贈辛判官》李白
昔在長安醉花柳,五侯七貴同杯酒。氣岸遙?豪士前,
風流肯落他人後。夫子紅顏我少年,章台走馬著金鞭。
文章獻納麒麟殿,歌舞淹留玳瑁筵。與君自謂長如此,
寧知草動風塵起。函谷忽驚胡馬來,秦宮桃李向明開。
我愁遠謫夜郎去,何日金?放赦回。
卷一百七十四
《黄鶴樓送孟浩然之廣陵》李 白
故人西辭黄鶴樓,煙花三月下揚州。
孤帆遠影碧山盡,唯見長江天際流。
黄鶴樓こうかくろうにて孟浩然もうこうねんの廣陵こうりょうに之ゆくを送おくる 李白りはく
故人こじん 西にしのかた 黄鶴樓こうかくろうを辭じし
煙花えんか 三月さんがつ 揚州ようしゅうに下くだる
孤帆こはんの遠影えんえい 碧山へきざんに盡つき
唯見ただみる 長江ちょうこうの天際てんさいに流ながるるを
卷一百七十九
《送賀賓客歸越》李 白
鏡湖流水漾清波,狂客歸舟逸興多。
山陰道士如相見,應寫黄庭換白鵝。
賀賓客がひんかくの越えつに歸かえるを送おくる 李 白りはく
鏡湖きょうこの流水りゅうすい清波せいはを漾ただよわす、
狂客きょうかくの歸舟きしゅう 逸興いっきょう多おおなり。
山陰さんいんの道士どうし 如もし相あい見まみえれば、
應まさに黄庭こうていを寫うつして白鵝はくがに換かえるべし。
卷一百七十九
《陪族叔刑部侍郎曄及中書賈舍人至遊洞庭五首》李白
洞庭西望楚江分,水盡南天不見雲。
日落長沙秋色遠,不知何處吊湘君。
南湖秋水夜無煙,耐可乘流直上天。
且就洞庭賖月色,將船買酒白雲邊。
洛陽才子謫湘川,元禮同舟月下仙。
記得長安還欲笑,不知何處是西天。
洞庭湖西秋月輝,瀟湘江北早鴻飛。
醉客滿船歌白苧,不知霜露入秋衣。
帝子瀟湘去不還,空餘秋草洞庭間。
淡掃明湖開玉鏡,丹青畫出是君山。
族叔ぞくしゅく刑部侍郎曄けいぶじろうよう及および
中書賈舍人ちゅうしょかしゃじんしに陪ばいし洞庭どうていに
遊あそぶ 李白りはく
洞庭どうてい 西にしに望のぞめば 楚江そこう分わかれ,
水みず盡つきて 南天なんてん 雲くもを見みず。
日ひ落おちて 長沙ちょうさ 秋色しゅうしょく遠とおく,
知しらず 何いずれの處ところにか 湘君しょうくんを吊とむらわん。
南湖なんこ 秋水しゅうすい 夜煙よるけむりなく,
耐むしろ流ながれに乘じょうじて 直ただちに天てんに上のぼるべし。
且しばらく洞庭どうていに就ついて 月色げっしょくを賖おぎのり,
船ふねを將もって 酒さけを買かわん 白雲はくうんの邊へん。
洛陽らくようの才子さいし 湘川しょうせんに謫たくせられ,
元禮げんれい 同舟どうしゅう 月下げっかの仙せん。
長安ちょうあんを記きし得えて 還また笑わらわんと欲ほっすれども,
知しらず 何いずれの處ところか 是これ西天せいてん。
洞庭どうてい 湖西こせい 秋月しょうげつ輝かがやき,
瀟湘しょうしょう 江北こうほく 早鴻そうこう飛とぶ。
醉客すいかく 滿船まんせん 白苧はくちょを歌うたい,
知しらず 霜露そうろ 秋衣しゅういに入いるを西天せいてん。
帝子ていし 瀟湘しょうしょう 去さりて還かえらず,
空むなしく秋草しゅうそうを餘あます 洞庭どうていの間かん。
淡あわく明湖めいこを掃はいて 玉鏡ぎょくきょうを開ひらき,
丹青たんせい 畫えがき出いだす 是これ君山くんざん。
卷一百八十一
《早發白帝城》李 白
朝辭白帝彩雲間,千里江陵一日還。
兩岸猿聲啼不盡,輕舟已過萬重山。
朝に辞す白帝 彩雲の間、千里の江陵 一日にして還る。
両岸の猿声 啼いて尽きるに、軽舟 已に過ぐ 万重の山。
卷一百八十二
《對酒憶賀監二首》李 白
太子賓客賀公。於長安紫極宮一見余。呼余爲謫仙人。因解金龜換酒樂。歿後對酒。恨然有懷。而作是詩。
四明有狂客,風流賀季真。長安一相見,呼我謫仙人。
昔好杯中物,翻為松下塵。金龜換酒處,卻憶涙沾巾。
狂客歸四明,山陰道士迎。敕賜鏡湖水,為君台沼榮。
人亡餘故宅,空有荷花生。念此杳如夢,淒然傷我情。
賀賓客がひんかくの越えつに歸かえるを送おくる 李 白りはく
太子賓客賀公たいしひんかくがこう。長安紫極宮ちょうあんしきょくきゅうに
於おいて余よを一見いっけんす。余よを
呼よびて謫仙人たくせんにんと爲なす。因よって
金龜きんきを解といて酒さけに換かえて
樂たのしむ。歿後ぼゆご酒さけに對たいす。
恨然こんぜん懷おもい有あり。而しかして
是この詩しを作つくる。
四明しめいに狂客きょうかくあり、
風流ふうりゅうの賀季真がきしん。
長安ちょうあんに一ひとたび相見あいみて、
我われを謫仙人たくせんにんと呼よぶ。
昔むかし杯中はいちゅうの物ものを好このみしが、
翻かえって松下しょうかの塵ちりと為なる。
金龜きんき酒さけに換かえし處ところ、
卻かえって憶おもう 涙なみだ巾きんを沾うるおすを。
狂客きょうかく 四明しめいに歸かえり、
山陰さんいん 道士どうしに迎むかう。
敕ちょくして賜たまう鏡湖きょうこの水みず、
君きみが爲ため 台沼たいしょう榮さかえる。
人ひと亡ほろんで 故宅こたくを餘あます、
空むなしく荷花かかの生しょうずる有あり。
此これを念おもえば杳ようとして夢ゆめの如ごとく、
淒然せいぜんとして我情わがじょうを傷いたましむ
《重憶一首》李 白
欲向江東去,定將誰舉杯。
稽山無賀老,卻棹酒船回。
重かさねて憶おもう一首いっしゅ 李 白りはく
江東こうとうに向むかって去さらんと欲ほっするも、
定さだめて誰だれと將ともに杯はいを舉あげん。
稽山けいざんに賀老がろう無なし、
卻かえって酒船しゅせんに棹さおさして回かえらん。
卷一百八十四
《送内尋廬山女道士李騰空二首》 李 白
内ないの廬山ろざんに女道士おんなどうし李騰空りとうくうを尋たずぬるに送おくる
君尋騰空子,應到碧山家。
水舂雲母碓,風掃石楠花。
若愛幽居好,相邀弄紫霞。
君は尋たずぬ 騰空子,応に碧山の家に到べし。
水は舂(うすずく) 母雲の碓(うす),風は掃く 石楠の花。
若し幽居の好(よき)を愛さば,相い邀(むかえて) 紫霞を弄(もてあそ)ばん。
多君相門女,學道愛神仙。
素手掬青靄,羅衣曳紫煙。
一往屏風疊,乘鸞著玉鞭。
多とす君 相門の女なるに。
道を学びて 神仙を愛あいす。
素手 青靄を掬して。
羅衣 紫煙を曳ひく。
一(ひとたび)往く 屏風疊。
鸞に乗のりて 玉鞭を著す。
《贈内》李白
三百六十日,日日醉如泥。雖為李白婦,何異太常妻。
内ないに贈おくる 李白りはく
三百六十日さんびゃくろくじゅうごにち
日日ひび 酔ようて泥でいの如ごとし
李白りはくの婦ふと爲なると雖いえども
何なんぞ異ことならん 太常たじょうの妻つまに
《南流夜郎寄内》李白
夜郎天外怨離居,明月樓中音信疏。
北雁春歸看欲盡,南來不得豫章書。
南みなみのかた夜郎やろうに流ながされ内ないに寄よす 李白りはく
夜郎やろう 天外てんがい 離居りきょを怨うらむ
明月めいげつ 楼中ろうちゅう 音信おんしん疎そなり
北雁ほくがん 春帰しゅんきして 看みれども尽つきんとす
南來なんらい 得えず 豫章よしょうの書しょ
巻一百九十七
張 謂
張謂。字正言。河南人。天寶二年登進士第。乾元中。為尚書郎。大暦間。官至禮部侍郎。三典貢擧。詩一巻。
張謂ちょうい。字あざなは正言せいげん。
天寶二年てんぽうにねん進士しんしの第だいに登のぼる。
乾元中かんげんちゅう。尚書郎しょうしょろうと為なる。
大暦だいれきの間かん。官かんは禮部侍郎官れいぶじろうに
至いたる。三典貢擧。詩一巻しいっかん。
《贈喬琳》張謂
去年上策不見收,今年寄食仍淹留。羨君有酒能便醉,
羨君無錢能不憂。如今五侯不愛客,羨君不問五侯宅。
如今七貴方自尊,羨君不過七貴門。丈夫會應有知己,
世上悠悠何足論。
喬琳きょうりんに贈おくる 張 謂ちょうい
去年きょねん 策さくを上たてまつりて 收おさめ見られず
今年こんねん 寄食きしょくして 仍なお淹留えんりゅうす
羨うらやむ 君きみが酒さけ有あれば便すなわち能よく醉ようを
羨うらやむ 君きみが錢ぜに無なくして能よく憂うれいざるを
如今じょこん 五侯ごこう 客かくを愛あいせず
羨うらやむ 君きみが五侯ごこうの宅たくを問とわざるを
如今じょこん 七貴しちき 方まさに自みずから尊とうとしとなす
羨うらやむ 君きみが七貴しちきの門もんを過よぎらざるを
丈夫じょうぶ 會かならず應まさに知己ちき有あるべし
世上せじょう 悠悠ゆうゆう 何なんぞ論ろんずるに足たらん
《題長安主人壁》張謂
世人結交須黄金,黄金不多交不深。
縱令然諾暫相許,終是悠悠行路心。
長安ちょうあんの主人しゅじんの壁へきに題だいす 張 謂ちょうい
世人せじん 交まじわりを結むすぶに 黄金おうごんを須もちう
黄金おうごん 多おおからざれば 交まじわり深ふかからず
縱令たとい 然諾ぜんだくして 暫しばらく相許あいゆるすとも
終ついに是これ 悠悠ゆうゆうたる 行路こうろの心こころ
巻二百十六
杜甫
字子美。其先襄陽人。曾祖依藝為鞏令。因居 。甫天賓初応進士。不第。後献三大礼賦。明皇奇之。召試文
章。授京兆府兵曹参軍。安録山陥京師。粛宗即位霊武。甫自賊中遯赴行在。拝左拾遺。以論救房琯。出為華州司功
参軍。関輔饑乱。寓居同州同谷県。身自負薪采梠。餔糒不給。久之。召補京兆府功曹。道阻不赴。厳武鎮成都。秦為
参謀、検校工部員外郎。賜緋。武與甫世舊。待遇甚厚。乃於成都浣花里種竹植樹。枕江結廬。縦酒嘯歌其中。武卒。
甫無所依。乃之東蜀就高適。既至而適卒。是歳。蜀帥相攻殺。蜀大擾。甫攜家荊楚。扁舟下峡。未維舟而江陵
亦乱。乃泝沿湘流。遊衡山。寓居耒陽。卒年五十九。元和中。帰葬偃師首陽山。元稹志其墓。天寶間。甫與李白齊
名。時稱李杜。然元槙之言曰。李白壮浪縦恣。擺去拘束。誠亦差肩美子矣。至若餔陳終始。排比聲韻。大或千言。
次獪數百。詞気豪邁。而風調清深。属對律切。而脱棄凡近。則李尚不能歴其藩群翰。況堂奥乎。白居易亦云。杜詩貫
穿古今。盡工盡善。殆過於李。元、白之論如此。蓋其出処労佚。喜楽悲憤。好賢悪悪。一見之於詩。 又以忠君憂
國。傷時亂爲本旨。讀其詩。以可知其世。故當時謂之詩史。舊集詩文共六十巻。今編詩十九巻。
杜甫とほ
字あざなは子美しび。其その先さきは襄陽じょうようの人ひと。
曾祖そうそは芸げいに依よって鞏令きょうれいと為なる。
因よって鞏きょうに居いる。甫ほ天宝てんぽうの初はじめ進士しんしに応おうず。
第だい不ならず。後のちに三大礼賦さんだいれいふを献けんず。
明皇めいこう之これをを奇きとす。召めして文ぶん
章しょうを試ためす。
京兆府兵曹参軍けいちょうふへいそうさんぐんを授さずく。安録山あんろくざん
京師けいしを陥おとす。粛宗しゅくそう霊武れいぶに
即位そくいす。甫ほ自みずから
賊中ぞくちゅうを行在あんざいに遯のがれ赴おもむく。
左拾遺さしゅういを拝はいす。論ろんを以もって
房琯ぼうかんを救すくう。出いでて華州司功かしゅうしこう
参軍さんぐんと為なる。
饑乱きらんを関輔かんほす。同州同谷県どうしゅうどうこくけんに寓居ぐうきょす。
身み自みずから薪まきを負おい梠りょを采とる。
餔糒ほひ給きゅうされず。之これを久ひさしくす。
召めして京兆府功曹けいちょうふこうそうに補ほす。道みち
阻そにして赴おもむかず。厳武げんぶ成都せいとを
鎮ちんす。奏そう
して参謀さんぼう、検校工部員外郎けんこうこうぶいんげろうと為なる。緋ひを賜たまわる。
武ぶと甫ほ世よ旧ふるし。待遇たいぐう甚はなはだ厚あつし
乃すなわち成都せいとに於おいて花里かりを浣すすぎ
竹たけを種うえ樹樹を植うう。江かわを
枕まくらとし廬ろを結むすぶ。其その中なかで
酒さけを縦ほしいままにし歌うたを嘯うそぶく。
武ぶ卒そっす。
甫ほ依よる所ところ無なし。乃すなわち
東蜀とうしょくに之ゆきて高適こうせきに就つく。
既すでに至いたりて適せき卒そっす。是この歳とし。
蜀帥しょくすい相あい攻せめ殺ころす。
蜀しょく大いに擾みだる。甫ほ家いえを
荊楚けいそに携たずさえる。扁舟へんしゅう峡きょうを下くだる。
未いまだ維この舟ふね江陵こうりょうにいたらず而して
亦また乱みだる。乃すなわち湘流そうりゅうに沿そいて
泝さかのぼる。衡山しょうざんに遊あそぶ。耒陽らいように寓居ぐうきょす。
卒年そつねん五十九ごじゅうきゅう。元和中げんわちゅう。首陽山しゅようざんに
帰かえし葬ほうむり師し偃やむ。元稹げんしん
其その墓はかを志こころざす。天寶てんぽうの間かん
甫ほと李白りはく齊ひとしく
名なあり。時ときに李杜りとと称しょうす。然しかして
元槙之言げんしんのげんに曰いわく。李白りはくは壮浪そうろう縦恣じゅうし。
拘束こうそくを擺ふるい去さる。誠まことに亦また
美子しびに差肩さけんする矣かな。
若もし餔ほ に至いたらば終始しゅうしを陳のぶ。
聲韻せいいんを排比はいひす。大或千言だいわくせんげん。
次獪數百じかいすうひゃく。詞気しき豪邁ごうまい。而しかして風調ふうちょう
清きよく深ふかし。属對律切。而しかして凡近ぼんきんを脱棄だつきす。
則すなわち李り尚なを其その藩翰はんかんを歴こえる能あたわず。
況いわんや堂奥どうおく乎か。白居易はっきょい亦また云いう。
杜との詩し古今ここんを貫穿かんせんす。
工こうを盡つくし善ぜんを盡つくす。殆ほとんど李り於を過すぐ。
元、白げん はく之の論ろん此かくの如ごとし。
蓋けだし其その出処しゅっしょ労佚ろういつ。喜楽きらく悲憤ひふん。
賢けんを好このみ悪あくを悪にくむ。一いちいち之これを詩しに於おいて見みる。
又また忠君ちゅうくんを以もって國くにを憂うれう。
時ときの亂みだれを傷いたむは本旨ほんし爲たり。
其その詩しを讀よめば。以もって其その世よを知しる可べし。
故ゆえに當時とうじ之これを詩史ししと謂いう。
舊集詩文共きゅうしゅうしぶんともに六十巻ろくじゅかん。今編詩十九巻いまへんしじゅうきゅうかん。
巻二百十六
《望 岳》杜甫
岱宗夫如何,齊魯青未了。造化鍾神秀,陰陽割昏曉。
蕩胸生曾雲,決眥入歸鳥。會當凌絶頂,一覽衆山小。
岳がくを望のぞむ 杜甫とほ
岱宗たいそう 夫それ如何いかん
齊魯せいろも 青せい未いまだ了おわらず
造化ぞうか 神秀しんしゅうを鍾あつめ
陰陽いんよう 昏曉こんぎょうを割わかつ
胸むねを蕩うごかす 曾雲そううんの生しょうずるに
眥まなじりを決けつす 歸鳥きちょうの入いるに
會かならず當まさに 絶頂ぜっちょうを凌しのぎて
一ひとたび 衆山しゅうざんの小しょうなるを覽みるべし
《貧交行》杜甫
翻手作雲覆手雨,紛紛輕薄何須數。君不見管鮑貧時交,此道今人棄如土。
貧交行ひんこうこう 杜甫とほ
手てを翻ひるがえせば 雲くもと作なり
手てを覆くつがせば 雨あめ、
紛紛ふんぷんたる輕薄けいはく 何なんぞ數かぞうるを須もちいん。
君きみ見み不ずや 管鮑かんぽう貧時ひんじの交まじわり、
此この道みち 今人こんじん棄すてて土つちの如ごとし。
《兵車行》杜甫
車轔轔,馬蕭蕭,行人弓箭各在腰。耶娘妻子走相送,塵埃不見咸陽橋。 牽衣頓足闌道哭,哭聲直上干雲霄。
道傍過者問行人,行人但云點行頻。 或從十五北防河,便至四十西營田。去時里正與裹頭,歸來頭白還戍邊。
邊亭流血成海水,武皇開邊意未已。君不聞漢家山東二百州,千村萬落生荊杞。 縱有健婦把鋤犁,禾生隴畝無東西。
況復秦兵耐苦戰,被驅不異犬與雞。 長者雖有問,役夫敢伸恨。且如今年冬,未休關西卒。
縣官急索租,租税從何出。信知生男惡,反是生女好。 生女猶得嫁比鄰,生男埋沒隨百草。
君不見青海頭,古來白骨無人收。 新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。
兵車行へいしゃこう 杜 甫とほ
車くるま 轔轔りんりん 馬うま 蕭蕭しょうしょう
行人こうじんの弓箭きゅうせん 各おのおの腰こしに在あり
耶娘やじょうの妻子さいし 走はしりて相あい送おくる
塵埃じんあいにして見みえず 咸陽橋かんようきょう
衣ころもを牽ひき 足あしを頓とんし道みちを闌さえぎりて哭なく
哭なく聲こえ直ただちに上のぼりて 雲霄うんしょうを干おかす
道傍どうぼう 過すぐる者もの 行人こうじんに問とう
行人こうじん 但云ただいう 點行てんこう頻しきりなりと
或あるいは十五じゅうご從より 北きた 河かわを防ふせぎ
便すなわち 四十しじゅうに至いたり 西にし 田たを営いとなむ
去さる時とき 里正りせい 與ために頭こうべを裏つつみ
歸かえり來きたって 頭こうべ白しろきに還また邊へんを戍まもる
邊亭へんていの流血りゅうけつ 海水かいすいと成なるも
武皇ぶこう 邊へんを開ひらく意い未いまだ已やまず
君きみ聞きかずや漢家かんけ山東さんとうの二百州にひゃくしゅう
千村せんそん 萬落ばんらく 荊杞けいきを生しょうずるを
縱たとい健婦けんぷの鋤犁じょりを把とる有あるも
禾かは隴畝ろうほに生しょうじて東西とうざい無なし
況いわんや復また 秦兵しんぺい 苦戰くせんに耐たうるをや
驅からるること犬いぬと鶏にわとりとに異ことならず
長者ちょうじゃ 問とう有ありと雖いえども
役夫えきふ 敢あえて恨うらみを伸のべんや
且かつ今年こんねんの冬ふゆの如ごときは
未いまだ関西かんせいの卒そつを休やめざるに
縣官けんかん 急きゅうに租そを索もとむるも
租税そぜい 何いずくより出いでん
信まことに知しる 男おとこを生うむは悪あしく
反かえって是これ 女おんなを生うむは好よきを
女おんなを生うままば 猶なお比鄰ひりんに嫁かするを得うるも
男おとこを生うままば 埋没まいぼつして百草ひゃくそうに隨したがう
君きみ見みずや青海せいかいの頭ほとり
古来こらい 白骨はっこつ 人ひとの収おさむる無なきを
新鬼しんきは煩冤はんえんし舊鬼きゅうきは哭こくす
天陰てんくもり 雨湿あめけぶるとき 聲こえ啾啾しゅうしゅう
《飲中八仙歌》杜甫
知章騎馬似乘船,眼花落井水底眠。汝陽三鬥始朝天,
道逢麹車口流涎,恨不移封向酒泉。左相日興費萬錢,
飲如長鯨吸百川,銜杯樂聖稱世賢。宗之瀟灑美少年,
舉觴白眼望青天,皎如玉樹臨風前。蘇晉長齋繡佛前,
醉中往往愛逃禪。李白一鬥詩百篇,長安市上酒家眠。
飲中八仙歌いんちゅうはっせんか 杜甫とほ
知章ちしょうが馬うまに騎のるは船ふねに乘のるに似にたり
眼花がんか井いに落おちて水底すいていに眠ねむる
汝陽じようは三斗さんとにして始はじめて天てんに朝ちょうし
道みちに麹車きくしゃに逢あえば口くちに涎よだれを流ながす
恨うらむらくは封ほうを移うつして酒泉しゅせんに向むかわざることを
左相さそうの日興にっきょう萬錢ばんせんを費ついやす
飲のむこと長鯨ちょうげいの百川ひゃくせんを吸すうが如ごとく
杯はいを銜ふくみ聖せいを樂たのしみ賢けんを避さくと稱しょうす
宗之そうしは瀟灑しょうしゃたる美少年びしょうねん
觴さかずきを舉あげ白眼はくがんにして青天せいてんを望のぞめば
皎きょうとして玉樹ぎょくじゅの風前ふうぜんに臨のぞむが如ごとし
蘇晉そしんは長齋ちょうさいす繡佛しゅうぶつの前まえ
醉中すいちゅう往往おうおう逃禪とうぜんを愛あいす
李白りはくは一斗いっと詩百篇しひゃっぺん
長安市上ちょうあんしじょう酒家しゅかに眠ねむる
天子てんし呼よび來きたれども船ふねに上のぼらず
自みずから稱しょうす臣しんは是これ酒中しゅちゅうの仙せんと
張旭ちょうきょくは三杯さんばい草聖そうせい傳つたう
帽ぼうを脱ぬぎ頂ちょうを露あらわす王公おうこうの前まえ
毫ごうを揮ふるい紙かみに落おとせば雲煙うんえんの如ごとし
焦遂しょうすい五斗ごとう方まさに卓然たくぜん
高談こうだん雄辨ゆうべん四筵しえんを驚おどろかす
《春夜喜雨》杜甫
好雨知時節,當春乃發生。隨風潛入夜,潤物細無聲。
野徑雲倶K,江船火獨明。曉看紅濕處,花重錦官城。
春夜しゅんや雨あめを喜よろこぶ 杜甫とほ
好雨こうう時節じせつを知しり
春はるに當あたって乃すなわち發生はっせいす
風かぜに隨したがって潛ひそかに夜よるに入いり
物ものを潤うるおして細こまやかにして聲こえ無なし
野徑やけい雲くもは倶ともにKくろく
江船こうせん火ひは獨ひとり明あきらかなり
曉あかつきに紅くれないの濕しめれる處ところを看みれば
花はなは錦官城きんかんじょうに重おもからん
巻二百十七
《江亭》杜甫
坦腹江亭暖,長吟野望時。水流心不競,雲在意倶遲。
寂寂春將晩,欣欣物自私。故林歸未得,排悶強裁詩。
江亭こうてい 杜甫とほ
坦腹たんぷくす江亭こうていの暖あたたかなるに
長吟ちょうぎん 野望やぼうの時とき
水みず流ながれて心こころは競きそはず
雲くも在ありて意いは倶ともに遲おそし
寂寂せきせきとして春はる將まさに晩くれんとし
欣欣きんきんとして物もの自みずから私わたくしす
故林こりん 歸かえること未いまだ得えず
悶もんを排はいして強しいて詩しを裁さいす
巻二百十七
《石壕吏》杜甫
暮投石壕村,有吏夜捉人。老翁逾牆走,老婦出門看。
吏呼一何怒,婦啼一何苦。聽婦前致詞,三男鄴城戍。
一男附書至,二男新戰死。存者且偸生,死者長已矣。
室中更無人,惟有乳下孫。有孫母未去,出入無完裙。
老嫗力雖衰,請從吏夜歸。急應河陽役,猶得備晨炊。
夜久語聲絶,如聞泣幽咽。天明登前途,獨與老翁別。
石壕せきごうの吏り 杜甫とほ
暮くれに石壕村せきごうそんに投とうずれば
吏り有あり夜よる人ひとを捉とらう
老翁ろうおう牆しょうを逾こえて走はしり
老婦ろうふ門もんを出いでて看みる
吏りの呼よぶこと一いつに何なんぞ怒いかれる
婦ふの啼なくこと一いつに何なんぞ苦くるしめる
婦ふの前すすんで詞ことばを致いたすを聽きくに
三男さんなんは鄴城ぎょうじょうの戍まもり
一男いちなんは書しょを附ふして至いたり
二男になんは新あらたに戰死せんしす
存そんする者ものは且しばらく生せいを偸ぬすみ
死者ししゃは長とこしえに已やみぬ
室中しつちゅう 更さらに人ひとなく
惟ただ乳下にゅうかの孫まごあり
孫まごに母ははの未いまだ去さらざる有あるも
出入しゅつにゅうに完裙かんくん無なし
老嫗ろうおう力ちから衰おとろえたりと雖いえども
請こう吏りに從したがって夜歸よるきせんと
急きゅうに河陽かようの役えきに應おうぜば
猶なお晨炊しんすいに備そなうるを得えん
夜よる久ひさしゅうして語聲ごせい絶たえ
泣ないて幽咽ゆうえつを聞きくが如ごとし
天明てんめい前途ぜんとに登のぼり
獨ひとり老翁ろうおうと別わかる
巻二百十八
《夢李白二首》杜甫
死別已呑聲,生別常惻惻。江南瘴癘地,逐客無消息。
故人入我夢,明我長相憶。恐非平生魂,路遠不可測。
魂來楓葉青,魂返關塞K。君今在羅網,何以有羽翼。
落月滿屋梁,猶疑照顏色。水深波浪闊,無使皎龍得。
李白りはくを夢ゆめむ 杜甫とほ
死別しべつは已すでに聲こえを呑のむも
生別せいべつは常つねに惻惻そくそくたり
江南こうなんは瘴癘しょうれいの地ち
逐客ついかく消息しょうそく無なし
故人こじん我夢わがゆめに入いり
我わが長ながく相憶あいおもうを明あきらかにす
恐おそらくは平生へいせいの魂こんに非あらじ
路みち遠とおくして測はかる可べからず
魂こん來くるとき楓葉ふうよう青あおく
魂こん返かえるとき關塞かんさいKくろし
君きみ今いま羅網らもうに在あり
何なにを以もつて羽翼うよく有あるや
落月らくげつ屋梁おくりょうに滿みつ
猶なお疑うたがう顏色がんしょくを照tらすかと
水深みずふかくして波浪はろう闊ひろし
皎龍こうりゅうをして得えしむる無なかれ
巻二百一十九
《茅屋為秋風所破歌》杜甫
八月秋高風怒號,卷我屋上三重茅。茅飛度江灑江郊,
高者挂F65長林梢,下者飄轉沈塘坳。南村群童欺我老無力,
忍能對面為盜賊,公然抱茅入竹去。唇焦口燥呼不得,
歸來倚杖自歎息。俄頃風定雲墨色,秋天漠漠向昏K。
布衾多年冷似鐵,驕兒惡臥踏裏裂。牀頭屋漏無乾處,
雨脚如麻未斷絶。自經喪亂少睡眠,長夜沾濕何由徹。
安得廣廈千萬間,大庇天下寒士倶歡顏,風雨不動安如山。
嗚呼何時眼前突兀見此屋,吾廬獨破受凍死亦足。
茅屋秋風ぼうおくしゅうふうの破やぶる所ところと為なる歌うた 杜甫とほ
八月はちがつ秋高あきたかく風かぜ怒號どごうし
我わが屋上おくじょうの三重さんじゅうの茅かやを卷まく
茅かやは飛とんで江こうを度わたり江郊こうこうに灑そそぐ
高たかき者ものは長林ちょうりんの梢こずえに挂F65けいかいし
下ひくき者ものは飄轉ひょうてんして塘坳とうように沈しずむ
南村なんそんの群童ぐんどう我わが老おいて力ちから無なきを欺あなどり
忍しのんで能よく對面たいめんして盜賊とうぞくを爲なし
公然こうぜん茅ぼうを抱いだいて竹たけに入いり去さる
唇くちびるは焦こげ口くち燥かわき呼よべども得えず
歸かえり來きたり杖つえに倚より自みずから歎息たんそくす
俄頃がけい風かぜは定さだまって雲くもは墨色ぼくしょく
秋天しゅうてん漠漠ばくばくとして昏Kこんこくに向むかう
布衾ふきん多年たねん冷つめたきこと鐵てつに似にたり
驕兒きょうじ惡臥あくがして裏うらを踏ふんで裂さく
牀頭しょうとう屋おく漏もりて乾處かんしょ無なく
雨脚うきゃく麻あさの如ごとく未いまだ斷絶だんぜつせず
喪亂そうらんを經へてより睡眠すいみん少すくなく
長夜ちょうや沾濕てんしつして何なにに由よってか徹てつせん
安いずくんぞ得えん廣廈千萬間こうあせんまんげん
大おおいに天下てんかの寒士かんしを庇かばいて倶ともに歡顏かんがんせん
風雨ふううにも動うごかず安やすきこと山やまの如ごとし
嗚呼ああ何いずれの時ときか眼前がんぜんに突兀とつこつとして此屋このおくを見みん
吾わが廬ろ獨ひとり破やぶれて凍死とうしを受うくるも亦また足たれり
巻二百二十四
《畫 鷹》杜 甫
素練風霜起,蒼鷹畫作殊。?身思狡兔,側目似愁胡。
絛鏇光堪摘,軒楹勢可呼。何當撃凡鳥,毛血灑平蕪。
畫 鷹がよう 杜甫とほ
素練それん 風霜ふうそう起おこる
蒼鷹そうよう 畫作えがき作なすこと殊ことなり
身みを?そびやかして狡兔こうとを思おもい
目めを側そばだてて愁胡しゅうこに似にたり
絛鏇とうせん 光ひかりは摘つむに堪たえ
軒楹けんえい 勢いきおいは呼よぶべし
何いつか當まさに 凡鳥ぼんちょうを撃うちて
毛血もうけつ 平蕪へいぶに灑そそぐべき
《春日憶李白》杜 甫
白也詩無敵,飄然思不群。清新廋開府,俊逸鮑參軍。
渭北春天樹,江東日暮雲。何時一尊酒,重與細論文。
春日しゅんじつ 李白りはくを憶おもう 杜甫とほ
白也はくや 詩し敵てき無なし
飄然ひょうぜんとして 思おもい群ぐんせず
清新しんせいは 廋ゆ開府かいふ
俊逸しゅんいつは 鮑ほう参軍さんぐん
渭北いほく 春天しゅんてんの樹き
江東こうとう 日暮にちぼの雲くも
何いずれの時ときか 一樽いっそんの酒さけ
重かさねて与ともに 細こまかに文ぶんを論ろんぜん
《春望》杜甫
國破山河在,城春草木深。感時花濺涙,恨別鳥驚心。
烽火連三月,家書抵萬金。白頭?更短,渾欲不勝簪。
春望しゅんぼう 杜甫とほ
國くに破やぶれて 山河さんが在あり
城しろ春はるにして 草木そうもく深ふかし
時ときに感かんじては 花はなにも涙なみだを濺そそぎ
別わかれを恨うらんでは 鳥とりにも心こころを驚おどろかす
烽火ほうか 三月さんげつに連つらなり
家書かしょ 萬金ばんきんに抵あたる
白頭はくとう掻かけば更さらに短みじかく
渾すべて簪かんざしに勝たえざらんとす
巻二百二十五
《曲江二首 一》杜甫
一片花飛減卻春,風飄萬點正愁人。
且看欲盡花經眼,莫厭傷多酒入唇。
江上小堂巣翡翠,苑邊高塚臥麒麟。
細推物理須行樂,何用浮名絆此身。
曲江きよっこう 二首にしゅ その一 杜甫とほ
一片いっぺん 花飛はなとんで 春はるを減卻げんきゃくす
風かぜは萬點まんてんを飄ひるがえして 正まさに人ひとを愁うれえしむ
且かつ看みん 盡つきんと欲ほつする花はなの眼まなこを經ふるを
厭いとう莫なかれ 多おおきに傷すぐる酒さけの唇くちびるに入いるを
江上こうじょうの小堂しょうどうに翡翠ひすい巣すくい
苑邊えんぺんの高塚こうちょうに麒麟きりん臥ふす 細こまやかに物理ぶるりを推おすに須すべからく行樂こうらくすべし
何なんぞ用もちいん 浮名ふめいもて此この身みを絆ほだすことを
《曲江二首 二》杜甫
朝回日日典春衣,毎日江頭盡醉歸。
酒債尋常行處有,人生七十古來稀。
穿花蛺蝶深深見,點水蜻蜓款款飛。
傳語風光共流轉,暫時相賞莫相違。
曲江きよっこう二首にしゅその二 杜甫とほ
朝ちょうより回かえりて日日ひび春衣しゅんいを典てんじ
毎日まいにち江頭こうとうに醉よいを盡つくして歸かえる
酒債しゅさいは尋常じゅんじょう行ゆく處ところに有あり
人生じんせい七十しちじゅう古來こらい稀まれなり
花はなを穿うがつ蛺蝶きょうちょうは深深しんしんとして見みえ
水みずに點てんずる蜻蜓せいていは款款かんかんとして飛とぶ
傳語でんごす風光ふうこう共ともに流轉るてんして
暫時ざんじ相賞あいしょうして相違あいたがうこと莫なかれと
《曲江對酒》杜甫
苑外江頭坐不歸,水晶宮殿轉霏微。
桃花細逐楊花落,黄鳥時兼白鳥飛。
縱飲久拚人共棄,懶朝真與世相違。
吏情更覺滄洲遠,老大悲傷未拂衣。
曲江きよっこう對酒たいしゅ 杜甫とほ
苑外えんがいの江頭こうとう 坐ざして歸かえらず
水晶すいしょうの宮殿きゅうでん 轉うたた霏微ひび
桃花とうかは細こまかに楊花ようかを逐おいて落おち
黄鳥こうちょうは時ときに白鳥はくちょうを兼かねて飛とぶ
縱ほしいままに飲のんで久ひさしく拚すて人ひと共ともに棄すつ
朝ちょうするに懶ものうく真まことに世よと相違あいたがえり
吏情りじょう更さらに覺おぼゆ滄洲そうしゅうの遠とおきを
老大ろうだい悲いたずらに傷いたんで未いまだ衣いを払はらわず
《秦州雜詩二十首 一》杜甫
滿目悲生事,因人作遠遊。遲回度隴怯,浩蕩及關愁。
水落魚龍夜,山空鳥鼠秋。西征問烽火,心折此淹留。
秦州雜詩二十首しんしゅうざつし録十首一ろくじゅっしゅそのいち 杜甫とほ
滿目まんもく生事せいじを悲かなしむ
人ひとに因よりて遠遊えんゆうを作なす
遲回ちかい隴ろうを怯度こえわたり
浩蕩こうとう關かんに及およんで愁うれう
水みずは落おつ魚龍ぎょりゅうの夜よる
山やまは空むなし鳥鼠ちょうその秋あき
西征せいせい烽火ほうかを問とい
心こころ折おれて此ここに淹留えんりゅうす
《秦州雜詩二十首 録十首二》杜甫
秦州山北寺,勝跡隗囂宮。苔蘚山門古,丹青野殿空。
月明垂葉露,雲逐渡溪風。清渭無情極,愁時獨向東。
秦州雜詩二十首しんしゅうざつし録十首二ろくじゅっしゅそのに 杜甫とほ
秦州しんしゅう山北さんほくの寺てら
勝跡しょうせきに隗囂かいごうの宮きゅう
苔蘚たいせん山門さんもん古ふるく
丹青たんせい野殿やでん空むなし
月つきは葉はに垂たるる露に明あきらかに
雲くもは溪けいを渡わたる風かぜを追おう
清渭せいいは無情むじょうの極きわみ
愁うれうる時とき獨ひとり東ひがしに向むかう
《秦州雜詩二十首 録十首四》杜甫
鼓角縁邊郡,川原欲夜時。秋聽殷地發,風散入雲悲。
抱葉寒蝉靜,歸山獨鳥遲。萬方聲一概,吾道竟何之。
秦州雜詩二十首しんしゅうざつし録十首四ろくじゅっしゅそのよん 杜甫とほ
鼓角こかく縁邊えんぺんの郡ぐん
川原かげん夜よるならんと欲ほっするの時とき
秋あきに聽きけば地ちを殷どよもして發おこり
風かぜ散さんじて雲くもに入いりて悲かなし
葉はを抱いだける寒蝉かんせんは靜しずかに
山やまに歸かえる獨鳥どくちょうは遲おそし
萬方ばんぽう聲こえ一概いちがい
吾道わがみち竟ついに何いずくにか之ゆかん
《月夜憶舍弟》杜甫
戍鼓斷人行,秋邊一雁聲。露從今夜白,月是故郷明。
有弟皆分散,無家問死生。寄書長不達,況乃未休兵。
月夜げつや舍弟しゃていを憶おもう 杜甫とほ
戍鼓じゅこ人行じんこう斷たゆ
邊秋へんしゅう一雁いちがんの聲こえあり
露つゆは今夜こんや從より白しろく
月つきは是これ故郷こきょうに明あきらかならん
弟てい有あれども皆みな分散ぶんさんし
家いえの死生しせいを問とうべき無なし
書しょを寄よすれど長ながく達たっせず
況いわんや未いまだ兵へいを休やめざるおや
巻二百二十七
《登高》杜甫
風急天高猿嘯哀,渚清沙白鳥飛廻。無邊落木蕭蕭下,不盡長江袞袞來。
萬里悲秋常作客,百年多病獨登臺。艱難苦恨繁霜鬢,潦倒新停濁酒杯。
登高とうこう 杜甫とほ
風急かぜきゅうに天高てんたかくして猿嘯哀えんしょうかなし
渚清なぎさきよく沙白すなしろくして鳥飛とりとび廻めぐる
無邊むへんの落木らくぼく蕭蕭しょうしょうとして下くだり
不盡ふじんの長江ちょうこうは袞袞こんこんとして來きたる
萬里ばんり悲秋ひしゅう常つねに客かくと作なり
百年ひゃくねん多病たびょう獨ひとり臺だいに登のぼる
艱難苦かんなんはなはだ恨うらむ繁霜はんそうの鬢びん
潦倒新ろうとうあらたに停とどむ濁酒だくしゅの杯はい
巻二百二十九
《旅夜書懷》杜甫
細草微風岸,危檣獨夜舟。星垂平野闊,月湧大江流。
名豈文章著,官應老病休。飄飄何所似,天地一沙鷗。
旅夜りょや懷おもいを書しるす 杜甫とほ
細草微風さいそうびふうの岸きし
危檣獨夜きしょうどくやの舟ふね
星垂ほしたれて平野へいや闊ひろく
月湧つきわいて大江流たいこうながる
名なは豈あに文章ぶんしょうにて著あらわれんや
官かんは應まさに老病ろうびょうにて休やむべし
飄飄ひょうひょう何なんの似にたる所ところぞ
天地てんちの一沙鷗いちさおう
巻二百三十五
賈 至
賈至。字幼鄰。洛陽人。父會。開元初掌制誥。至擢明經第。為單父尉。拜起舎人。知制誥。父子繼美。帝常稱之。
肅宗擢為中書舎人。坐小法。貶岳州司馬。寶應初。召複故官。除尚書左丞。大暦初。封信都縣伯。還京兆尹。右散騎
常侍。卒。諡曰文。集十巻。今編詩一巻。
巻三百八十六
張籍
《哭孟寂》
曲江院裏題名處,十九人中最少年。
今日春光君不見,杏花零落寺門前。
孟寂もうしゅくを哭こくす 張籍ちょうせき
曲江きょくこう 院裏いんり名なを題だいする処ところ,
十九じゅうきゅう人中にんちゅう 最年少さいねんしょう。
今日こんじつ 風光ふうこう 君きみ見みえず,
杏花きょうか 零落れいらく 寺門じもんの前まえ。
巻四百二十四
白居易
白居易。字楽天。下邽人。貞元中。擢進士第。補校書郎。元和初。對制策。入等。調?厔尉。集賢校理。尋召為翰林学
士、左拾遺。拝賛善太夫。以言事貶江州司馬。徙忠州刺史。穆宗初。徴為主客郎中、知制誥。復乞外。歴杭、蘇二州
刺史。文宗立。以秘書監召。遷刑部侍郎。俄病移。除太子賓客分司東都。拝河南尹。開成初。起為同州刺史。不拝。
改太子少傳。會昌初。以刑部尚書致仕。卒贈尚書右僕射。謚曰文。自酔吟先生。亦稱香山居士。與同年元 酬
詠。號元白。與劉禹錫酬詠。號劉白。長慶集詩二十巻。後集詩十七巻。別集補遺二巻。今編詩三十九巻。
白居易はくきょい
白居易はくきょい。字あざなは楽天らくてん。
下邽かけいの人ひと。貞元中じょうげんちゅう。
進士しんしの第だいに擢ぬきんず。校書郎こうしょろうに
補ほす。元和げんなの初はじめ。
制策せいさくに對たいす。入いりて等ひとしく。
調?厔尉。集賢校理。尋召たずねめされて
翰林学士かんりんがくし、左拾遺さしゅういと為なり。
賛善太夫さんぜんだゆうを拝はいす。言事げんじを以もって
江州司馬こうしゅうしばに貶へんせらる。忠州刺史ちゅうちゅうししに
徙わたる。穆宗ぼくそうの初はじめ。徴ちょうせられ
主客郎中しゅきゃくろうちゅう、知制誥ちせいつめと為なる。
復また外そとを乞こう。杭こう、蘇二州そにしゅうの
刺史ししを歴へる。
文宗立ぶんそうたつ。秘書監ひしょかんを以もって召めす。
刑部侍郎けいぶじろうに遷うつる。俄にわかに病移やまいうゆる。
太子賓客分司東都たいしひんきゃくぶんしとうとを除のぞく。河南かなんの
尹いを拝はいす。開成かいせいの初はじめ。
起おこして同州刺史どうしゅうししと為なす。拝はいさず。
太子少傳たいししょうでんに改あらたむ。會昌かいしょうの初はじめ
刑部尚書けいぶしょうしょを以もって致仕ちしす。卒そつして
尚書右僕射しょうしょうぼくやを贈おくらる。謚曰文おくりなぶんにいわく。
自みずから酔吟先生すいぎんせんせい。亦稱またしょうす香山居士こうざんこじ。
同年どうねん元稹げんしんと酬詠しゅうえいす。元白げんはくと
號ごうせらる。
劉禹錫りゅううしゃくと酬詠しゅうえいす。劉白りゅうはくと號ごうせらる。
長慶集詩二十巻ちょうけいしゅうにじゅっかん。後集詩十七巻ごしゅうしじゅうななかん。
別集補遺二巻べつしゅうほいにかん。今編詩三十九巻いまへんしさんじゅうきゅうかん。
巻四百九十四
施肩吾
夏雨後題青荷蘭若
僧舍清涼竹樹新,初經一雨洗諸塵。
微風忽起吹蓮葉,青玉盤中瀉水銀。
巻五百二十
杜 牧
杜牧。字牧之。京兆萬年人。太和二年。擢進士第。復擧賢良方正。沈傅師表為江西團練府淳官。又為牛僧孺淮南節
度府掌書記。擢監察御史。移疾。分氏東都。以弟𫖮病棄官。復為宜州團練判官。拝殿中侍御史、内供奉。累遷左補
闕、史館修撰。改膳部外郎。歴黄、池、睦三州刺史。入為司勲員外郎。常兼史職。改吏部。復乞為湖州刺史。踰年。
拝考功郎中、知制誥。遷中書舎人卒。牧剛直有季節。不為齪齪小謹。敢論列大事。指陳病利尤切。其詩情致豪邁。
人號為小杜。以別甫云。樊川詩四巻。外集詩一巻。今編為八巻。
杜牧。字は牧之。京兆萬年の人。太和二年。進士の第に擢でらる。復た賢良方正に擧らる。沈傅師表して江西團練府淳官と為る。又た牛僧孺の為に淮南節
度府にて書記を掌る。監察御史に擢でらる。疾を移す。氏を東都に分つ。弟𫖮の病を以って官を棄つ。復た宜州團練判官と為る。殿中侍御史を拝し、内に供奉す。累遷して左補
闕、史館修撰たり。膳部外郎に改まる。黄、池、睦三州の刺史を歴る。入りて司勲員外郎と為る。常に史職を兼ぬ。吏部に改まる。復た乞うて湖州刺史と為る。年を踰ゆ。
考功郎中を拝し、知制誥。中書舎人に遷りて卒す。牧剛直季節有り。齪齪小謹為らず。敢て大事を論列す。病利を指陳するに尤も切なり。其の詩情豪邁に致る。
人は小杜為りと號す。以て別甫と云う。樊川詩四巻。外集詩一巻。今編して八巻を為す。
巻七百三十二
朝 衡
朝衡。字巨卿。日本人。開元初。日本王聖武遣其臣粟田副仲満来朝。請従諸儒授経。仲満慕華。不肯去。易姓名曰
朝衡。歴左補闕。久之帰国。上元中。擢散騎常侍。詩一首。
朝衡。字は巨卿。日本人なり。開元の初め。日本王、聖武、其の臣、粟田、副、仲満を遣わし、来朝す。諸儒に従い、経を授くるを請う。仲満、華を慕う。肯えんぜず去る。姓名を易え、曰く、
朝衡。左補闕を歴る。之を久しくして、国に帰える。上元中。散騎常侍に擢んでらる。詩一首あり。
銜命還國作
銜命將辭國,非才忝侍臣。天中戀明主,海外憶慈親。
伏奏違金闕,騑驂去玉津。蓬莱郷路遠,若木故園隣。
西望憶恩日,東帰感義辰。平生一宝剣,留贈結交人。
命を銜んで、國に還らんとして作る
命めいを銜ふくんで 将まさに国くにを辞じせんとす、
非才ひさい 侍臣じしんを忝かたじけなくす。
天中てんちゅう 明主めいしゅを恋こい、
海外かいがい 慈親じしんを憶おもう
伏奏ふくそう 金闕きんけつを違さり、
騑驂ひさん 玉津ぎょくしんに去ゆ。
蓬莱ほうらい 郷路きょうろ遠とおく、
若木じゃくぼく 故園こえん隣となる。
西望せいぼう 恩おんを憶おもふ日ひ、
東帰とうき 義ぎに感かんずる辰とき。
平生せいぜいの 一宝剣いちほうけん、
留贈りゅうぞうす 交まじわりを結むすびし人ひとに。
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