第15回講義

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2015.05.28 録音

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杜 甫 作詩の背景




「杜甫年譜」

杜甫年譜1 712年 1歳 ~739年 28歳
杜甫年譜2 740年 29歳 ~755年 44歳
杜甫年譜3 756年 45歳 ~763年 52歳
杜甫年譜4 764年 53歳 ~739年 59歳


「詩人杜甫の
足あと」


人名  杜審言 崔氏 杜閑  張九齢 李林甫 楊貴妃  安禄山 高力士
     李 白 呉 筠 賀知章  越王勾践 呉王夫差 西 施  范 蠡 高 適
     老 子 孔 子

地名   泰山  洛陽(鞏県きょうけん)  襄陽            趙(邯鄲)
     会稽  紹興

書名   史記  三国志

用語   科挙  宦官  道士  仙人  竹林の七賢

     

 


再 掲

望 岳 (望 嶽)  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 45頁  全唐詩 巻二百一十六


 望 岳  杜甫

岱宗夫如何,

齊魯青未了。

造化鍾神秀,

陰陽割昏曉。

蕩胸生曾雲,

決眥入歸鳥。

會當凌絶頂,

一覽衆山小。



 がくのぞむ  杜甫とほ

岱宗たいそう 如何いかん

齊魯せいろも せいいまおわらず

造化ぞうか 神秀しんしゅうあつ

陰陽いんよう 昏曉こんぎょうかつ

むねうごかす 曾雲そううんしょうずるに

まなじりけつす 歸鳥きちょうるに

かならまさに 絶頂ぜっちょうしのぎて

ひとたび 衆山しゅうざんしょうなるをるべし

 


春日憶李白  唐 杜甫

漢詩鑑賞辞典 279頁  全唐詩 巻二百二十四


 春日憶李白  杜甫

白也詩無敵,

飄然思不群。

清新廋開府,

俊逸鮑參軍。

渭北春天樹,

江東日暮雲。

何時一樽酒,

重與細論文。



 春日しゅんじつ 李白りはくおもう  杜甫とほ

白也はくや てき

飄然ひょうぜんとして おもいぐんせず

清新しんせいは 開府かいふ

俊逸しゅんいつは ほう参軍さんぐん

渭北いほく 春天しゅんてん

江東こうとう 日暮にちぼくも

いずれときか 一樽いっそんさけ

かさねてともに こまかにぶんろんぜん


字句解釈

白也     白さんよ。 也 ①なり ②強意の助辞 ③呼びかけ ここでは③。
白、は本名で通常は、自分や、親や上位の人以外は使用しないがここでは親しみを込めて敢えて使っている。 李白は字(あざな)は太白。

飄然    世俗を超越している。

清新    きよくあたらしい、すがすがしい。

廋開府    廋信(513ー581)。中国南北朝時代、北宋の人。 「中国歴史要約」南北対立時代参照。開府は高位高官に開設の許される役所。

俊逸     才知が優れている。


鮑參軍    鮑照(414ー466)。中国南北朝時代、南宋の人。 「中国歴史要約」南北対立時代参照。

渭北    渭水の北。  長安は渭水の南にあるが平仄の関係でここでは北になっている。渭水のほとりから秦が興った。 太公望、周の文帝


江東    揚子江の東、会稽、杭州、上海のあたり。李白が旅をしているところ。


     

詩の鑑賞

天宝5年(746)、杜甫35歳の格調の高い作。杜甫の李白に対する尊敬と親愛の情があふれている。若々しい作品で、後年の悲壮な趣は未だない。






詩 吟

春 望  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 17頁  漢詩鑑賞辞典 295頁  


 春望  杜甫

國破山河在

城春草木深

感時花濺涙

恨別鳥驚心

烽火連三月

家書抵萬金

白頭掻更短

渾欲不勝簪


 春望しゅんぼう  杜甫とほ

くにやぶれて 山河さんが

しろはるにして 草木そうもくふか

ときかんじては はなにもなみだそそ

わかれうらんでは とりにもこころおどろかす

烽火ほうか 三月さんげつつらなり

家書かしょ 萬金ばんきんあた

白頭はくとうかけさらみじか

すべかんざしたえざらんとす



 


飲中八仙歌  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典 282頁  全唐詩 卷二百一十六


 飲中八仙歌  杜 甫

知章騎馬似乘船,

眼花落井水底眠。

汝陽三斗始朝天,

道逢麹車口流涎,

恨不移封向酒泉。

左相日興費萬錢,

飲如長鯨吸百川,

銜杯樂聖稱避賢。

宗之瀟灑美少年,

舉觴白眼望青天,

皎如玉樹臨風前。

蘇晉長齋繡佛前,

醉中往往愛逃禪。

李白一斗詩百篇,

長安市上酒家眠。

天子呼來不上船,

自稱臣是酒中仙。

張旭三杯草聖傳,

脱帽露頂王公前,

揮毫落紙如雲煙。

焦遂五斗方卓然,

高談雄辨驚四筵。


 飲中八仙歌いんちゅうはっせんか    杜甫とほ

知章ちしょううまるはふねるにたり

眼花がんかちて水底すいていねむ

汝陽じよう三斗さんとにしてはじめててんちょう

みち麹車きくしゃえばくちよだれなが

うらむらくはほううつして酒泉しゅせんむかわざることを

左相さそう日興にっきょう萬錢ばんせんついや

むこと長鯨ちょうげい百川ひゃくせんすうごと

はいふくせいたのしみけんくとしょう

宗之そうし瀟灑しょうしゃたる美少年びしょうねん

さかずき白眼はくがんにして青天せいてんのぞめば

きょうとして玉樹ぎょくじゅ風前ふうぜんのぞむがごと

蘇晉そしん長齋ちょうさい繡佛しゅうぶつまえ

醉中すいちゅう往往おうおう逃禪とうぜんあい

李白りはく一斗いっと詩百篇しひゃっぺん

長安市上ちょうあんしじょう酒家しゅかねむ

天子てんしきたれどもふねのぼらず

みずかしょうしん酒中しゅちゅうせん

張旭ちょうきょく三杯さんばい草聖そうせいつた

ぼうちょうあらわす王公おうこうまえ

ごうふるかみおとせば雲煙うんえんごと

焦遂しょうすい五斗ごとうまさ卓然たくぜん

高談こうだん雄辨ゆうべん四筵しえんおどろかす


字句解釈

知章     賀知章

騎馬似乘船     賀知章は南方の出身である。南船北馬の意を踏まえている。

眼花     ①酔って目がちらちらする。②年老いて目がかすむ。白内障。

水底眠     賀知章は李林甫を憚って韜晦していたか?

汝陽     汝陽は河南省、黄河の南の地名。玄宗皇帝の甥(兄の子)、李璡

三斗     1斗は6リットル、あるは、1升?。 

麹車     酒の原料のこうじを運ぶ車。

酒泉     酒泉は地名。万里の長城の西端、嘉峪関の南。

左相     李適之。 全唐詩に 二首あり。「朝退」「罷相作」。

日興     一日のたのしみ。

宗之     崔宗之

瀟灑     しょうしゃ。すがすがしい。

白眼     「竹林七賢」の一人、 阮籍(げんせき)は、礼法を重視した儒家のような気に入らない人物に対しては白眼で対応し、 気に入った人物に対しては青眼で対応した。

     きよらか。

玉樹     美しい樹。立派な人物。

蘇晉

繡佛     刺繍した仏像。

逃禪     ①禅に逃れる②禅から逃れる。ここでは②仏前から逃げる。

張旭

草聖傳     後漢の張芝、や盛唐の張旭は草聖と呼ばれる。

焦遂

     

詩の鑑賞

先韻で統一されている。 開元の治の平和な好き時代の世相が詠われている。 杜甫の同時代の酒飲みの様子が活写されている。 作詩の時期に、天宝5年、あるいは、12年、など、諸説がある。 左相(李適之)に関する記述は、李林甫とのからみで興味深い。




 


朝 退  唐 李適之

全唐詩 卷一百九


 朝退  李適之

朱門長不閉,

親友恣相過。

年今將半百,

不樂複如何。


 朝退ちょうたい    李適之りてきし

朱門しゅもん ながとざさず

親友しんゆう よぎるをほしいままにす

としいま まさ半百はんひゃく

たのしまずんば また如何いかんせん


字句解釈

朱門     高位高官に許される赤門。

     よぎる。単に過ぎるのではなく寄っていく。

半百     50歳。

     

詩の鑑賞

李適之の人柄の現れた詩である。
結句の「不樂複如何」は伊達政宗の「遣興吟」に現れる。正宗はこの詩を読んだのであろうか?




 


遣興吟  日本 伊達政宗

テキスト 121頁


 遣興吟  伊達政宗

馬上青年過,

時平白髪多。

殘軀天所許,

不樂複如何。


 きょうぎん    伊達政宗だてまさむね

馬上ばじょう青年せいねん

とき へいにして 白髪はくはつおお

殘軀ざんく てんゆるところ

たのしまずば また如何いかん


字句解釈

馬上     戦の時代。

時平     今は平和である。

     

詩の鑑賞

戦国時代を生き抜いた武将、伊達政宗の思いがよく詠われている。 結句「不樂複如何」はどこから得たか?




 


罷相作  唐 李適之

全唐詩 卷一百九


 罷相作  李適之

避賢初罷相,

樂聖且銜杯。

為問門前客,

今朝幾個來。


 そうむのさく    李適之りてきし

けんけて はじめそう

たのしみ しばらくはいふく

ためう 門前もんぜんかく

今朝こんちょう 幾個いくこきた


字句解釈

避賢、樂聖     賢人を避け、聖人の道を楽しむ。ここでは、「賢」は濁酒(どぶろく)、 「聖」は清酒の隠語。三国時代、魏の曹操が禁酒令をだした時に生まれた隠語。 ここでは、「賢」は暗に濁酒のように濁った政治家、李林甫を指す。

初罷相       相をやめたばかりの時。

銜杯     「銜(ふくむ)」は、くわえる。用例:銜枚(ばをふくむ)「哺(ふくむ)」は、 口移しに食物を与えて養う。「含(ふくむ)」は、口の中に入れる。

     

詩の鑑賞

李適之が李林甫のために、相を罷めたときの作。この詩に李林甫は怒った。もし、天宝5年に杜甫がこの詩を飲中八仙歌で 詠ったとしたら、相当に危険なことである。
天宝6年に、「遺賢」が行われているが杜甫が選ばれなかったのはこれが理由かもしれない。 あるいは、飲中八仙歌は李林甫の没年、天宝11年752年の翌年あたりに作られたのではなかろうか? 諸説あり。




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Last modified First updated 2015/03/15