第29回講義

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2016.10.27 録音

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白居易 作詩の背景




「白楽天年譜」

白楽天年譜1 772年 1歳 ~800年 29歳
白楽天年譜2 801年 30歳 ~815年 44歳
白楽天年譜3 816年 45歳 ~826年 55歳


中国文学地図

地名  江 州(九 江)  蘆 山  忠 州  長 安  四川省(成 都)  重 慶  三 峡  岳 陽
川名・湖名  長江  黄河  洞庭湖  淮河  渭水


「人名・用語・書名」

人名  陶 淵明  元 稹  武元衡  徳 宗  順 宗  憲 宗
用語  刺史  司馬  長史  科挙  宦官  進士

     

 

再掲


香爐峰下新卜山居草堂初成偶題東壁   唐 白居易
漢詩を楽しむ18頁 漢詩鑑賞辞典499頁  全唐詩卷四百三十九


 香爐峰下新卜山居
 草堂初成偶題東壁  白居易

日高睡足猶慵起,

小閣重衾不怕寒。

遺愛寺鐘欹枕聽,

香爐峰雪撥簾看。

匡廬便是逃名地,

司馬仍為送老官。

心泰身寧是歸處,

故郷何獨在長安。


 香爐峰下こうろほうかあらた山居さんきょぼく
 草堂そうどうはじめてたまたま東壁とうへきだいす   白居易はくきょい

日高ひたかねむれるもくるにものう

小閣しょうかくきんかさねてさむさをおそれず

遺愛寺いあいじかねまくらそばだてて

香爐峰こうろほうゆきすだれかかげて

匡廬きょうろ便すなわのがるるの

司馬しばろうおくるの官為かんた

心泰こころやす身寧みやすきは するところ

故郷こきょうなんひと長安ちょうあんのみにらんや


字句解釈

香爐峰     廬山にある香爐の形をした山。独立峰ではなく連山。 廬山の廬はいおり。廬山には李白も一時いたことがある。

卜山居    卜はうらなう。卜居は家を建てること。

草堂     草ぶきの粗末な家、自分の家。

題     書きつける。

初成     初めてできたのではなく、できたばかりの意。

猶慵起     起きるのが面倒だ。

小閣     二階建ての小さな家。閣は2階建。

重衾     衾(しとね)はどてら、か。

香爐峰雪撥簾看     清少納言 枕草子 第二百九十九段 
「雪のいと高う降りたるを例ならず御格子まゐりて、炭びつに火おこして、物語などして集まりさぶらうに、 「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、 笑はせたまふ。人々も「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそよらざりつれ。 なほ、この官の人にはさべきなめり。」と言ふ。」

欹枕     枕をちょっと立てる。

匡廬     廬山のこと。

逃名     名声など俗世間のことから逃れた。

司馬     長官は刺史、司馬はその補佐。本来は馬を司る官だが実際は左遷された人の閑職。

歸處     落ち着くところ。

     

詩の鑑賞

中唐の大詩人、白居易(号は白楽天)の詩の中で日本人に最もよく知られた詩である。
44歳の時に長安の宮廷の派閥闘争に敗れて左遷の身となり、司馬となって蘆山に居をなした時の詩であり 不遇の身の屈折した感情が読み取れる。
心中に憤懣が渦巻いているがそれを表に出さず、閑職の朝寝を幸いとして落ち着くところは長安のみではなかろうと嘯いている。
悪く言えば負け惜しみ、よく言えば精神の強さがあり、孟浩然、杜甫とはまた違った趣がある。



 

舟夜贈内  唐 白居易
全唐詩卷 卷四百三十八


 舟夜贈内  白居易

三聲猿後垂郷涙,

一葉舟中載病身。

莫憑水窗南北望,

月明月暗總愁人。


 舟夜しゅうやないおくる  白居易はくきょい

三聲さんせい 猿後えんご 郷涙きょうるい

一葉いちよう舟中しゅうちゅう 病身びょうしん

水窗すいそうもたれて 南北なんぼくのぞかれ

月明げつめい 月暗げつあん すべひとうれえしむ

字句解釈

内   家内、妻。

三聲   三にこだわらず、何回も。

郷涙   故郷を想って流す涙。

一葉   一つの葉っぱのような小さな。

病身   本人か、内か?。

水窗   舟の窓。窗は窓の本字。

月明月暗    月が明るくても暗くても。


詩の鑑賞

九江から忠州に向かう揚子江の船の中での作。白居易らしくない悲しいし詩。


 

逢 舊  唐 白居易
全唐詩卷四百三十八


 逢 舊  白居易

我梳白髮添新恨,

君掃青蛾減舊容。

應被傍人怪惆悵,

少年離別老相逢。


 きゅうう  白居易はくきょい

われ白髮はくはつくしけずりて 新恨しんこん

きみ青蛾せいがいて舊容きゅうようげん

まさ傍人ぼうじんに 惆悵ちゅうちょうを あやしるべし

少年しょうねん離別りべつして おい


字句解釈

逢舊   昔の知り合い(妓女?)に、たまたま、あう。会は約束して会う。遇はたまたま、あるいは、約束してあう。

新恨   新しいかなしみ。

掃青蛾   美しい眉をえがく。

應   まさにーーべし。推量。であろう。

傍人   かたわらのひと。

少年   わかいとき。日本語の少年ではない。

惆悵   悲しんでいること。


詩の鑑賞

昔の知り合い(女性)に、旅先で、偶々逢ったときの作。


 

浦中夜泊  唐 白居易
全唐詩 卷四百三十八


 浦中夜泊  白居易

暗上江堤還獨立,

水風霜氣夜稜稜。

回看深浦停舟處,

蘆荻花中一點燈。


 浦中夜泊ほちゅうやはく  白居易はくきょい

あん江堤こうていおぼりて ひと

水風すいふう 霜氣そうき 夜稜稜よるりょうりょう

深浦しんぽふねとどめしところ回看かいかんすれば

蘆荻ろてき 花中かちゅう 一點いいてんとんもしび


字句解釈

浦中   水辺。

稜稜   (霜の)厳しい気配。(人の)厳しい気配。

蘆荻   あし、おぎ。


詩の鑑賞

このころの白居易の気持ちをあらわすハイライト。2通りの読み方がある。
①揚子江の水辺に船をとどめて厳しい風の堤で蘆の中にひとつの灯を見た。ーーたんなる風景描写。 ②またひとり長官としてやっていかねばならぬ、光も見えぬ、朝廷の厳しい処置を暗に詠んだ。--人事の厳しさの風刺。 そろそろ、中央に呼んでもらえないかと言っているのではなかろうか?


 

登郢州白雪樓  唐 白居易
全唐詩卷四百三十八


 登郢州白雪樓  白居易

白雪樓中一望郷

青山蔟蔟水茫茫。

朝來渡口逢京使,

説道煙塵近洛陽。


 郢州えいしゅう白雪樓はくせつろうのぼる  白居易はくきょい

白雪はくせつ 樓中ろうちゅう いつきょうのぞめば

青山せいざん 蔟蔟そうそう 水茫茫みずぼうぼう

朝來ちょうらい 渡口とこう京使けいしうく

説道とくなら 煙塵えんじん 洛陽らくようちか


字句解釈

郢州    ①春秋戦国時代の楚の都。江陵、荊州。②武昌にも郢州がある。②かどちらか不明。

蔟蔟   むらがる。

茫茫   はてしない。

渡口   渡し場。

京使   都からの使い。

説道   言うことには。他例:言道 いううならく。

煙塵   軍の煙塵。


詩の鑑賞

揚子江旅中の作。



 

再掲


舟中讀元九詩  唐 白居易
漢詩鑑賞辞典482頁 全唐詩卷四百三十八


 舟中讀元九詩  白居易

把君詩卷燈前讀,

詩盡燈殘天未明。

眼痛滅燈猶暗坐,

逆風吹浪打船聲。


 舟中しゅうちゅう元九げんきゅうを む    白居易はくきょい

きみ詩卷しかんとつて 燈前とうぜん

詩盡しつき 燈殘ともしびざんして 天未てんいまけず

眼痛めいたみ 燈滅ともしびめつして あんせば

逆風ぎゃくふう なみいて 船聲せんせい


字句解釈

元九   元 稹

殘   ①おとろえる。②のこる。ここは①で読みたい。


詩の鑑賞

九江左遷の途中、長江船上の詩。
詩:2回、燈:3回使用されている。ただし、燈前、燈殘、燈滅と時系列の用法は絶妙である。
逆風は政局の逆風を暗示する。



 

雨中題衰柳  唐 白居易
全唐詩卷四百三十八


 雨中題衰柳  白居易

濕屈青條折,

寒飄黄葉多。

不知秋雨意,

更遣欲如何。


 雨中うちゅう 衰柳すいりゅうだいす    白居易はくきょい

濕屈しつくつ 青條せいじょう

かんひるがえり 黄葉こうようおお

らず 秋雨しゅうう

けんあらため 如何いかんせんとほつ


字句解釈

衰柳   おとろえた柳。自分のこと。

濕屈   湿って曲げられて。

秋雨意   秋雨のきもち。

更遣   「遣」はおいやる。追っ払う。また左遷する。

欲如何   どうしようと言うのか。


詩の鑑賞

再度の左遷を嘆いている。



 

晏坐閑吟  唐 白居易
全唐詩卷四百三十八 


 晏坐閑吟  白居易

昔為京洛聲華客,

今作江湖潦倒翁。

意氣銷磨群動裏,

形骸變化百年中。

霜侵殘鬢無多黑,

酒伴衰顏只暫紅。

願學禪門非想定,

千愁萬念一時空。


 晏坐あんざ閑吟かんぎん    白居易はくきょい

むかし 京洛けいらく 聲華せいかかく

いま 江湖こうこ潦倒りょうとうおきな

意氣いき 銷磨しょうま 群動ぐんどううち

形骸けいがい 變化へんか 百年ひゃくねんうち

しも殘鬢ざんぴんおかして こくおおくなく

さけ衰顏すいがんともないて しばらくれないなり

ねがわくば禪門非想定ぜんもんひそうじょうまな

千愁萬念せんしゅうばんねん 一時いちじむなしうせん


字句解釈

京洛   洛陽

聲華客   名を知られた客。自分のこと。

江湖   川と湖。田舎

潦倒   おいぼれ。

銷磨   とかし、すりへる。

群動   多くの動物。

定   無念無想。例:入定


詩の鑑賞

旅行中の一詩。



 

寄微之  唐 白居易
全唐詩卷四百四十一


   寄微之  白居易

高天默默物茫茫,

各有來由致損傷。

鸚為能言長剪翅,

龜縁難死久支床。

莫嫌冷落抛閑地,

猶勝炎蒸臥瘴郷。

外物竟關身底事,

謾排門戟系腰章。


 微之びしす     白居易はくきょい

高天こうてん默默もくもく もの茫茫ぼうぼう

おのおの來由らいゆりて損傷そんしょういた

おうむうがためとこしえはねられ

かめがたきにりてひさしくしょうささ

きらかれ 冷落れいらく 閑地かんちなげうたるるを

炎蒸えんじょう 瘴郷しょうきょうすにまさ

外物がいぶつ ついかんして底事なにごと

みだり門戟もんげきはいして腰章ようしょうつらねん

 

字句解釈

微之   元九

默默   ものいわぬ。

茫茫   ひろびろとしてよりどころがない。

來由   いわれ。

  損傷   いためられる

支床   司馬遷の史記「亀策列伝」故事:南方の老人、亀を用いて床の足を支う。二十四年経て老人死すも亀なお生存す。

冷落   ものさびしい。「零落」はおちぶれる。 瘴郷   瘴癘の地。毒気のあるところ。

外物   名よ、地位など。

門戟   門にかざる鉾。

腰章   腰にぶら下げる高位高官の紀章(はんこ)。


詩の鑑賞

白居易が忠州に向かう途中、三峡と荊州の中間の宜昌で 虢州(かくしゅう)の司馬(長史?)に左遷された元九と偶然に逢った。 三日三晩語り合ったという。
虢州(かくしゅう)は洛陽に近いが山の中である。ちなみに、川の北が陽、山の南が陽、洛陽は洛水の北にある。
忠州に着いてから元九を慰めて詠じた。



 

春 江  唐 白居易
全唐詩卷四百四十一


 春 江  白居易

炎涼昏曉苦推遷,

不覺忠州已二年。

閉閣只聽朝暮鼓,

上樓空望往來船。

鶯聲誘引來花下,

草色句留坐水邊。

唯有春江看未厭,

縈砂繞石淥潺湲。




 春 江しゅんこう    白居易はくきょい

炎涼えんりょう 昏曉こんぎょう はなはだ推遷すいせん

おぼえ忠州ちゅうしゅう すで二年にねん

かくざして只聽ただきく 朝暮ちょうぼつづみ

ろうのぼりてむなしのぞむ 往來おうらいふね

鶯聲おうせい 誘引ゆういんせられて 花下かかたれば

草色そうしょく 句留こうりゅうせられて 水邊すいへん

春江しゅんこうれどもいまかざる

すなめぐり いしめぐりて みどり潺湲せんかん


字句解釈

炎涼   あついとさむい。

苦    ①くるしい。②はなはだ。ここは②で時の経過がはなはだ早い意。

二年   あしかけ2年。

潺湲   ちょろちょろ流れる水。(長江の支流か?)


詩の鑑賞

「閉閣只聽朝暮鼓,

上樓空望往來船。」は日本で膾炙した対句。 嵯峨天皇がこの対句の「空」を「遥」に換えて、小野篁に見せたところ、篁は「空」に すべきだと言った話が「江談抄」にある。



 

歩東坡  唐 白居易
全唐詩卷四百三十四


 歩東坡  白居易

朝上東坡歩,

夕上東坡歩。

東坡何所愛,

愛此新成樹。

種植當歳初,

滋榮及春暮。

信意取次栽,

無行亦無數。

綠陰斜景轉,

芳氣微風度。

新葉鳥下來,

萎花蝶飛去。

閑攜斑竹杖,

徐曳黄麻屨。

欲識往來頻,

青蕪成白路。




 東坡とうばあゆむ    白居易はくきょい

あした東坡とうばのぼりてあゆ

ゆうべ東坡とうばのぼりてあゆ

東坡とうば んのあいくするところ

あらたにれるおい

種植しゅしょくするはとしはじめあた

滋榮じえいするははるくれおよ

まかせて取次しゅじ

こうく かず

綠陰りょくいん 斜景しゃけいてん

芳氣ほうき 微風びふうわた

新葉しんよう 鳥下とりくだたり

萎花いか 蝶飛ちょうと

かん斑竹はんちくつえたずさ

おもむろ黄麻こうまくつ

往來おうらいしきりなるをらんとほつさば

青蕪せいぶ 白路はくろ


字句解釈

東坡   東のどて。

種植   種・植ともに「うえる」。

滋榮   おおきくなる。

取次   しだいに、つぎつぎに。

行   行列。

萎花   しぼんだはな。

斑竹   黒い紋の付いた竹。舜帝の妃の涙が散って付いたとのいわれがある。

青蕪   青い草。


詩の鑑賞

元和15年820年長安への召喚状が来る。ー>年譜3 それ以前の忠州での作。 東坡、東岡は竹林の七賢の阮籍にはじまり、陶淵明、 白居易、蘇軾と連なり、蘇軾は東坡を号とした。



 

別種東坡花樹兩絶  唐 白居易
全唐詩卷 卷四百四十一




 別種東坡花樹兩絶  白居易

三年留滯在江城,

草樹禽魚盡有情。

何處殷勤重回首,

東坡桃李種新成。

花林好住莫憔悴,

春至但知依舊春。

樓上明年新太守,

不妨還是愛花人。




 東坡とうばうえ花樹かじゅわか兩絶りょうぜつ    白居易はくきょい

三年さんねん 留滯りゅうたいして 江城こうじょう

草樹そうじゅ 禽魚きんぎょ ことごとじょう

いずれのところにか 殷勤いんぎんに かさねこうべめぐらさん

東坡とうば桃李とうり うえてくあらた

花林かりん よろしれ 憔悴しょうすいするなかれ

春至はるいたれば れ 舊春きゅうしゅんると

樓上ろうじょう 明年みょうねん 新太守しんたいしゅ

さまたげず れ はなあいするひと


字句解釈

好住   よろしくあれ。さようなら。good luck。「好在」ともいう。

憔悴   やせおとろえる。


詩の鑑賞

別れの作。
草樹禽魚に対してまで急に優しくなった。げんきんなものだ。





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Last modified    First updated 2016/11/10