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白居易 作詩の背景 |
「白楽天年譜」 「唐王朝年表」 |
白楽天年譜1 772年 1歳 ~800年 29歳 白楽天年譜2 801年 30歳 ~815年 44歳 白楽天年譜3 816年 45歳 ~826年 55歳 白楽天年譜4 827年 56歳 ~839年 68歳 白楽天年譜5 842年 71歳 ~846年 75歳 唐王朝年表1 618年 高 宗 ~779年 代 宗 唐王朝年表2 779年 徳 宗 ~907年 哀 宗 |
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字句解釈 |
湖上 みずうみ(西湖)のほとり。(「うえ」ではない。) 鋪 ①しく、②みせ。ここは、①。 排 ①おしのける、②ならべる。ここは、②。 碧毯 みどりの絨毯。 一顆珠 ひとつぶのしんじゅ。 青羅 あおいうすぎぬ。 裙帶 スカート。 展 のべる、ひろげる、ひろがる。展開する。 一半 半分。 |
詩の鑑賞 |
白居易は長安の政争に倦み、822年7月杭州に着任、823年まで足掛け3年滞在する。 824年、53歳の作。3年の任期が尽きようとしている。西湖での作。 世事をはなれ、自然の情景に溶け込んだ美しい詩である。特に結句がよい。 白居易は、西湖に白堤を作った、二百数十年後、北宋の蘇軾は、蘇堤を作った。 |
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字句解釈 |
潮 杭州湾で生ずる海潚。特に旧暦8月の満潮時、大潮の時が有名。弁当を持って見学に行く。アマゾンも有名。 潮:あさのうしお、汐:くれのうしお、潮汐 早潮 朝のうしお 纔 わずかに。①すこしばかり。②やっと ここは②やっと落ちたと思ったら。 光陰 光は太陽、陰は月。時間。年月。光陰如矢。 |
詩の鑑賞 |
824年、白居易53歳、杭州での作品。潮を見て老いを嘆いた。このころ、病気がちであった。眼病、喘息。 論語の、子在川上曰、「逝者如斯夫。不舎昼夜」が下敷きになっているか? |
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字句解釈 |
紫陽花 あじさい。日本原産。中国のは違う。中国では、綉球、あるいは、八仙花。 仙壇 仙界の花壇 向 おいて。於、仄韻、向、平韻。 早晩 ①早いと遲い、②早かれ遅かれ、③近いうちに、④いずれのときか、ここは、④。 人間 じんかん。世間。 |
詩の鑑賞 |
オランダ、東インド商会医師、シーボルト(ドイツ人)が紫陽花の学名を、妾の名、 「おたきさん」にちなんで、Hydrangea Macrophylla Otaksaとした。 |
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字句解釈 |
西湖 西湖。 留別 別れの心を後に留める。思いを残す。 征途 旅路。 行色 旅立ちの様子。 風煙 かぜともや。漢文では「風煙慘ふうえんさんたり」だが、漢詩では、「慘風煙」がゆるされる。 慘 みじめ、いたましい。自分の心が。 祖帳 別れの宴。道祖神の傍らでの別れの宴。 離聲 別れの歌。 翠黛 みどりのまゆずみ。ここでは、みどりの山山。 不須 すべからくーーーせざるべし。--しても無駄ですよ。 五馬 4頭だての馬車につけ馬1頭。普通は4馬、皇帝は6馬。 紅藕 赤い蓮の花。 就中難別是湖邊。 「暮立」の結句「就中断腸是秋天」に類す。 |
詩の鑑賞 |
白居易53歳、最高傑作の一詩。起句と承句は対をなす。杭州に別れるにあたって、充分に推敲した詩。 西湖の景色の懐かしんで詠んだ詩。西湖には白居易の作った白堤、蘇東坡の作った蘇堤がある。 白居易の最高傑作3詩を選ぶとすれば、と、君もし問わば、次の2詩とこの1詩である。 八月十五日夜禁中獨直對月憶元九 香爐峰下新卜山居草堂初成偶題東壁 |
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字句解釈 |
黄昏 たそがれ。 佛堂 母を祀った仏堂。 槐 えんじゅ。あかしやににる。花は白、黄色。 大抵 おおよそ、おおかた。多分(perhaps)ではない。 四時 1年、春夏秋冬。1月、晦(かい)・朔(さく)・弦(げん)・望(ぼう)。1日、黄昏(こうこん)(午後8時)・後夜(ごや)(午前4時)・早晨(そうじん)(午前10時)・晡時(ほじ))(午後4時)。 苦 かなしい。 就中 とりわけ。 腸斷 故事あり。 |
詩の鑑賞 |
白居易四十歳のとき、母(陳氏)が亡くなり、長安東方70~80Kmの下邽(かけい)で3年の喪に服することになった。 これまでの詩と趣が変わって、この世の哀愁が詠われている。 |
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字句解釈 |
禁中 宮中。 銀台 銀台門。または銀の高殿。 金闕 門の上の高殿。 夕沈沈 夜が更けるさま。 相思 相手のことを憶う。(お互いに憶うではない。) 翰林 翰林院、玄宗時代にできた役所。 新月 ①出たばかりの月。②清らかな月。③満月に対する三日月。ここは①。 渚宮 江陵にある三国時代の楚の宮殿。汀の離宮。 煙波 もやの立ち込めた水面。 浴殿 長安の宮殿。 鐘漏 鐘と水時計。 江陵 三国時代楚の都。郢(えい)。 卑濕 湿気の多い。 |
詩の鑑賞 |
白居易の親友元 稹(げんじん)が楚の江陵(荊州、三国時代の郢)に左遷された。 長安から江陵にいる友を懐かしんでいる。長安と江陵は直線距離は約500km(千里)であるが、旅の行程としては1000km (二千里)はある。 「三五夜中新月色 二千里外故人心」古今第一の名対句である。また、長安と江陵をABBAで詠む、律詩の対句の技巧が凝らされている。 この詩は、和漢朗詠集はもちろん、源氏物語(須磨の巻)、謡曲などにも引用されている。 |
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字句解釈 |
香爐峰 廬山にある香爐の形をした山。独立峰ではなく連山。 廬山の廬はいおり。廬山には李白も一時いたことがある。 卜山居 卜はうらなう。卜居は家を建てること。 草堂 草ぶきの粗末な家、自分の家。 題 書きつける。 初成 初めてできたのではなく、できたばかりの意。 猶慵起 起きるのが面倒だ。 小閣 二階建ての小さな家。閣は2階建。 重衾 衾(しとね)はどてら、か。 香爐峰雪撥簾看 清少納言 枕草子 第二百九十九段 「雪のいと高う降りたるを例ならず御格子まゐりて、炭びつに火おこして、物語などして集まりさぶらうに、 「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ。」と仰せらるれば、御格子上げさせて、御簾を高く上げたれば、 笑はせたまふ。人々も「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそよらざりつれ。 なほ、この官の人にはさべきなめり。」と言ふ。」 欹枕 枕をちょっと立てる。 匡廬 廬山のこと。 逃名 名声など俗世間のことから逃れた。 司馬 長官は刺史、司馬はその補佐。本来は馬を司る官だが実際は左遷された人の閑職。 歸處 落ち着くところ。 |
詩の鑑賞 |
中唐の大詩人、白居易(号は白楽天)の詩の中で日本人に最もよく知られた詩である。 44歳の時に長安の宮廷の派閥闘争に敗れて左遷の身となり、司馬となって蘆山に居をなした時の詩であり 不遇の身の屈折した感情が読み取れる。 心中に憤懣が渦巻いているがそれを表に出さず、閑職の朝寝を幸いとして落ち着くところは長安のみではなかろうと嘯いている。 悪く言えば負け惜しみ、よく言えば精神の強さがあり、孟浩然、杜甫とはまた違った趣がある。 |
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字句解釈 |
湖中 太湖のなか。 碧沈沈 沈沈は:しずかなさま。 霞光 ゆうやか。 浸月 月が水面にうつる。 千頃練 頃は、広さの単位、1頃は100歩、1歩=1.8アール。練は練り絹。 案牘 書類。案は、しらべる、牘は、公文書。 畫船 美しい舟。 洞庭山 太湖の中にある山。 | 、
詩の鑑賞 |
824年、白居易53歳、杭州(呉)の任期が終わり長安にいったん帰るが、翌825年、54歳の時、再び、 今度は蘇州(越)の刺史となって赴任する。蘇州には呉越同舟の太湖がある。このころ、病気がち。 太湖に遊んだ詩。 |
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字句解釈 |
太湖石 蘇州太湖にある石灰岩、奇怪な形をしている。鑑賞用として庭に飾る 煙翠 みどりのもや。 三秋 初秋、中秋、晩秋。 雲根 くものね、雲の生ずる元。 華山 名山。3つの峰をもつ、2、200m。 | 、
詩の鑑賞 |
825年、白居易54歳、蘇州に1年、刺史として赴任した。 826年、洛陽に帰るとき太湖石を持ち帰った。 |
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字句解釈 |
蝸牛角上爭 蝸牛は、かたつむり。出所は、荘子で、魏と斉の争いに関する故事。つまらない争いのこと。 荘子 戴晉人曰:「有所謂蝸者,君知之乎?」曰:「然。」「有國於蝸之左角者曰觸氏,有國於蝸之右角者曰蠻氏,時相與爭地而戰, 伏尸數萬,逐北旬有五日而後反。」君曰:「噫!其?言與?」曰:「臣請為君實之。君以意在四方上下有窮乎?」君曰:「無窮。」 曰:「知遊心於無窮,而反在通達之國,若存若亡乎?」君曰:「然。」曰:「通達之中有魏,於魏中有梁,於梁中有王。王與蠻氏,有辯乎?」 君曰:「無辯。」 不開口笑是癡人 これも、荘子を踏まえる。 荘子 丘之所以?我者,若告我以鬼事,則我不能知也;若告我以人事者,不過此矣,皆吾所聞知也。今吾告子以人之情:目欲視色, 耳欲聽聲,口欲察味,志氣欲盈。人上壽百?,中壽八十,下壽六十,除病?、死喪、憂患,其中開口而笑者, 一月之中不過四五日而已矣。天與地無窮,人死者有時,操有時之具而託於無窮之間,忽然無異騏驥之馳過隙也。 不能?其志意,養其壽命者,皆非通道者也。丘之所言,皆吾之所棄也,亟去走歸,無復言之!子之道,狂狂汲汲, 詐巧?偽事也,非可以全真也,奚足論哉?」 孔子再拜趨走,出門上車,執轡三失,目芒然無見,色若死灰,據軾低頭,不能出氣。歸到魯東門外,適遇柳下季。 柳下季曰:「今者闕然數日不見,車馬有行色,得微往見跖邪?」孔子仰天而歎曰:「然。」柳下季曰:「跖得無逆汝意若前乎?」 孔子曰:「然。丘所謂無病而自灸也,疾走料虎頭,編虎須,幾不免虎口哉!」 | 、
詩の鑑賞 |
若い時は論語、老年は荘子、と言われる如く、白居易も晩年、荘子に傾いたようだ。 達観した詩になっている。 |