第3回講義


送王昌齡之嶺南 孟浩然

全唐詩1661頁


前回の復習。王昌齢が左遷されて嶺南に向かう途中に孟浩然を訪ねたときの詩。

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2014.03.27 録音

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 送王昌齡之嶺南 孟浩然

洞庭去遠近,楓葉早驚秋。

峴首羊公愛,長沙賈誼愁。

土毛無縞紵,郷味有槎頭。

已抱沈痾疾,更貽魑魅憂。

數年同筆硯,茲夕間衾裯。

意氣今何在,相思望鬥牛。


 王昌齡おうしょうれい嶺南れいなんくを送る  孟浩然もうこうねん

洞庭どうてい ること遠近えんきん楓葉ふうよう やくに驚く。

峴首けんしゅ 羊公ようこう愛し, 長沙ちょうさ 賈誼かぎ憂う。

土毛どもう 縞紵こうちょ無く, 郷味きょうみ 槎頭さとう有り。

いだく 沈痾ちんあの疾, おくる 魑魅ちみの憂。

數年 筆硯をおなじくす, ゆうべ 衾裯きんちゅうの間。

意氣 今いずこりや, い 鬥牛とぎゅうを望む。


字句解釈

嶺南    嶺南は洞庭湖南方の左遷の地。

遠近    (漢)「遠い」と「近い」の両方に使われるがここでは「遠い」嶺南の意。

楓葉    (漢)楓樹 秋に紅葉する。日本の「かえで」とは異なる。

峴首     山名 峴首山。襄陽にある。漢詩によく出る名山。

羊公     人名。羊公が峴山で酒宴して楽しんだ故事がある。

長沙     地名。賈誼長沙に流罪になった故事がある。

賈誼    人名。

土毛    土地の産物。産物が土地から毛のように生ずるため。

縞紵    縞、紵はともに絹の織物。「ちぢみ」と「あさきぬ」。春秋左氏伝に呉と呈の人が意気投合し互いに縞の帯と紵の衣を交換したとの故事がある。深い友情の意がある。

槎頭    槎は「いかだ」で漢水にいかだを浮かべて魚を採った。

鯿     鯿は魚名。鮒に似た平たい大型の魚。青白色、美味。

沈痾    ながわずらい。

魑魅    魑魅魍魎(ちみもうりょう)。いろいろな化け物。

筆硯    「ふで」と「すずり」。

衾裯    衾はどてら、かいまき。裯はその一重のもの。

鬥牛    北斗七星。

     

詩の鑑賞

孟浩然は若い時から病気がちであった。見た来たわけでも、記録にもないが、多分、糖尿病であって、晩年は前立腺も患っていたようだ。 そこへ王昌齢が訪ねてきて、喜びのあまり、一緒に飲み明かしたようである。そのためもあって持病の できものが悪化し命を縮めることになった。
この詩は、故事が豊富に、上手に盛り込まれていおり、死期の近い孟浩然が心血を注いだ一代の傑作である。
死の直前の絶筆ではないだろうか。







峴潭作  唐 孟浩然

全唐詩第159孟浩然1



 峴潭作  孟浩然

石潭傍隈隩,沙岸曉夤縁。

試垂竹竿釣,果得槎頭鯿。

美人騁金錯,纖手膾紅鮮。

因謝陸内史,蓴羹何足傳。


 峴潭けんたん  孟浩然もうこうねん

石潭せきたん 隈隩わいおうう、 沙岸さがん あかつき夤縁いんえんす。

こころみ竹竿ちくかんたれる、  はたしたり 槎頭鯿さとうへん

美人びじん 金錯きんさくていし、 纖手せんしゅ 紅鮮こうせんかいす。

よっしゃす 陸内史りくないし、  蓴羹じゅんこう なんつたうにらん。


字句解釈

峴潭  潭は淵。襄陽にある峴山の麓の漢水の淵。峴山は襄陽南方の名山。

石潭   石の岸からなる淵。

隈隩  隈、隩ともに曲がっているところ。

沙岸  砂岸。

夤縁  よじのぼる。

槎頭鯿 前出

騁金錯  金錯は 飾った刀。美しい包丁でさばいた。

纖手  細い美人の手。

膾紅鮮  なますが赤く鮮やかである。

陸内史  陸は人名。内史は役名。

蓴羹  蓴羹鱸膾(じゅんこうろかい)。御馳走の代名詞。江南のじゅんさいのあつものや、南京辺のろぎょのなます。

何足傳   蓴羹は問題にならない、鯿のほうがずっと良い。


詩の鑑賞

この詩からは、孟浩然が峴山で槎頭鯿を釣ったり、酒宴を催したりして楽しんだ様子が見える。







孟浩然関連詩

解悶十二首 杜 甫

全唐詩第230杜甫15


孟浩然の死後約20年、孟浩然を偲んで杜甫の作った一詩。鯿が読み込まれています。


 解悶十二首 杜 甫

複憶襄陽孟浩然

清詩句句盡堪傳

即今耆舊無新語

漫釣槎頭縮頸鯿


 解悶かいもん十二首  杜 甫と ほ

おもう 襄陽じょうようの 孟浩然もうこうねん

清詩せいし 句句くく ことごつたうるにたえたり

即今そくこん 耆舊ききゅう 新語しんご

みだりにる 槎頭さとう 縮頸しゅくけい鯿へん


字句解釈

解悶  憂さ晴らし。

耆舊  年寄り。

無新語  新しいよい詩がない。(今の年寄りはどうしたんだ?)

漫釣  ただぼんやりと釣るだけで。

縮頸  頸の短い。


詩の鑑賞

杜甫が孟浩然の死後、襄陽の地からよい詩が出ないのを嘆きつつ孟浩然を偲んでいる。
この詩は杜甫が貴池にいた時の作で、杜甫の詩が最高の境地に達した頃の作品です。







秋浦歌  唐 李 白

漢詩を楽しむ16頁 漢詩鑑賞辞典244頁 唐詩選中353頁



 秋浦歌 李 白

白髪三千丈

緣愁似箇長

不知明鏡裏

何處得秋霜

    

 秋浦しゅうほうた  李 白り はく

白髪はくはつ 三千丈さんぜんじょう

うれいにって かくごとなが

らず 明鏡めいきょううち

いずれのところにか 秋霜しゅうそう


 尤麌歌平○上●平○

陌月三先養入●入●平○平○上●

先尤紙箇陽平○平○上●去●平○

物支庚敬紙入●平○平○去●上●

歌御職尤陽平○去●入●平○平○


字句解釈

秋浦  地名。九江と南京の中間の貴池のあたり。李白54,5歳のころの滞在地。

白髪三千丈  1丈は10尺。1尺は唐代は22.5cm。 3000丈は6000m。後宮3000人、食客3000人など、とにかく多い、驚きの表現。

緣愁  うれいによって(原因)。因縁。 日本語のよるには、依る(いらいする、よりかかる)、寄る、因る、拠る、撚る、 倚る(よりかかる)、由る、選る、憑る、などいろいろある。それぞれ使い方がある。

明鏡  美しい、明るい鏡。よく写る鏡。張九齢の用例あり。関連詩1参照


詩の鑑賞

孟浩然に遅れること12年、杜甫に先立つこと11年に生まれた大詩人。杜甫の詩聖に対し詩仙と称される。 李白酒一斗詩100編。溢れるように傑作が出来た。
この詩は李白晩年の作。李白が秋浦を訪れた機会は 、安禄山の乱の前後、54、55歳と58歳の二度ある。 この詩のできた時期については説が分かれる。
白髪三千丈  ああーー老いたなーーーー。深い嘆き。
この詩はこの一句に尽きる。

この詩は、日本人なら知らない人のいない千古の絶唱である。

 



作者紹介

李 白(701-762)  盛唐  四川省、綿陽、青蓮郷出身。裕福な商人の家に、西域で生まれ、5歳から25歳まで この地及び成都にいた。
生年701、12年前、孟浩然、10年後、杜甫が生まれ、絶句、律詩等の形式が整備され唐詩の最盛期を迎えた。 その中心をなす詩人で、詩仙と称される。
10歳で孟宗の書を読み、15歳で剣術を習い、19歳で任侠の仲間に入る。
20歳(720)の冬、益州の刺史である 蘇頲に面会、司馬相如(前漢、四川省出身)と比肩しうると、その才能を認められた。
24歳(725)、成都を離れ、三峡を下って洞庭湖に出、南方を回って武漢の北方の安陸にいたる。
この地で、元宰相の 許圉師(きょぎょし)の孫娘と結婚し、10年間留まった(-734)。
その後、呉、越を漫遊し、洛陽にいたり、 下って襄陽にいたり孟浩然を訪ねる。
743年、越の隠者(道子)呉筠(ごいん)と会い隠者の生活に入ったが、呉筠が宮中に召されたとき同道して 玄宗皇帝に会うこととなり、翰林供奉(総務部文書課)となる。
玄宗皇帝のお気に入りとなったが楊貴妃に疎まれ、 高力士の讒言より追放の 身となる。
745年洛陽にいたり、杜甫と会う。いわゆる、両巨星、日月会合である。
755年安禄山の反乱に際し、玄宗皇帝の子、永王ᵊの幕下に入ったため、肅宗皇帝に罪せられ、貴州に追放となった (758)。
途中、三峡のあたりで恩赦にあうが、その後、腐脇疾(とこずれ?)により死去した(62歳)(762)。
一説に長江の月の影を捕まえようとして水中に落ちて溺死した。






関連詩1

照鏡見白髪 張九齢

漢詩を楽しむ47頁 漢詩鑑賞辞典117頁


張九齢晩年の作。孟浩然と同年に死す。


 照鏡見白髪 張九齢

宿昔青雲志

嗟跎白髪年

誰知明鏡裏

形影自相憐


 かがみらして 白髪はくはつを見る    張九齢ちょうきゅうれい

宿昔くしゅくせき 青雲せいうんの志

嗟跎さたたり 白髪はくはつとし

たれ知くらん 明鏡めいきょううち

形影けいえい みづか相憐あいあわれまんとは


字句解釈

宿昔  むかし。

嗟跎  つまずく。

形影  自分自身の姿と鏡に映った自分の姿。


詩の鑑賞

年張九齢は晩年荊州に左遷された。
この詩の翌年張九齢は死去する。悲痛な詩である。
孟浩然も同年死去する。一時孟浩然は張九齢に仕えたことがある。





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Last modified 2015/08/10 First updated 2014/04/28