第7回講義


蘇台覧古  唐 李 白
菱歌」についての追加説明のため再掲

漢詩を楽しむ42頁 漢詩鑑賞辞典208頁 唐詩選下52頁

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2014.07.24 録音

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 蘇台覧古  李白

旧苑荒台楊柳新

菱歌清唱不勝春

只今惟有西江月

曾照呉王宮裏人


 蘇台覧古そだいらんこ   李白りはく

旧苑きゅうえん 荒台こうだい 楊柳ようりゅうあらたなり

菱歌りょうか 清唱せいしょう はるえず

只今ただいま ただ 西江せいこうつきのみって

かっらす 呉王ごおう宮裏きゅうりひと


字句解釈

蘇台    今の蘇州市にあった呉の都の姑蘇台。中国3大美人の一人、西施の宮殿が在った。

覧古    懐古。景色を見て昔を偲ぶ。

旧苑    昔の庭園。

荒台    荒れ果てた高台。

楊柳新    やなぎが新芽をふいている。

菱歌    この辺りは水郷地帯で菱が多い。菱の実を採るときに歌う歌。
この詩は春の詩であるが、菱の実を採るのは夏から秋である。菱の実を実際に採っているのではなく、「菱歌」という 歌を歌っているのである。「採菱歌」は楚の国の民謡。「採菱曲」は雅賦で南北朝時代(5世紀)の梁の武帝が江南の七曲を 作った中のひとつである。李白のいう「菱歌」は固有名詞で、この「採菱歌」のことではないか。(世紀の大発見)

清唱    清らかな歌声。

不勝春    春の深い感慨を催さざるを得ない、春の思いに堪え切れぬ心地がする、春の景色に堪えられない気がする、 などの解釈がある。

西江    西の河。揚子江。

宮裏人    西施のこと。越が呉に送り込んだ美人。

     

詩の鑑賞

李白は洛陽に滞在後、39歳の時に襄陽に孟浩然を見舞い、その後、742年、42歳、 妻子を伴い安陸を離れ、揚子江を下り、呉、越に到った。この詩はその時の懐古の詩である。
起承転は昔のこと、結句が現在。第3、4句は初唐の衛万の詩からの借用である。(漢詩鑑賞辞典209頁参照)
美しい語が巧みに使用されている。
李白はこの後、呉から越に至っている。呉の興亡越の興亡に思いを馳せたことだろう。
范蠡の故事もまた興味深い。






越中覧古  唐 李 白
范蠡の故事説明のため再掲


漢詩を楽しむ107頁


 越中覧古  李白

越王勾践破呉帰

義士還郷尽錦衣

宮女如花満春殿

只今惟有鷓鴣飛


 越中覧古えっちゅうらんこ   李白りはく

越王勾践えつおうこうせん やぶってかえ

義士ぎし きょうかえってことごと錦衣きんいすく

宮女きゅうじょ はなごと春殿しゅんでん

ただいま ただ鷓鴣しゃこるのみ


字句解釈

越中    越の都、会稽。今の紹興。

越王勾践     一旦呉に敗れた越は臥薪嘗胆の結果、呉を破った(473)。部下の范蠡はその後、越を去った。 「論衡-定賢骨相」「范蠡去越、自斉遺大夫種書曰、飛鳥尽良弓蔵、狡兎死良犬烹」「論衡」では、越の范蠡(はんれい)の言葉としている。 「史記-越王勾践世家」では『蜚鳥(ひちょう)~良狗烹』、「史記-淮陰候列伝」では『高鳥(こうちょう)~』、 「十八史略-西漢・高祖」では『飛鳥~』としてこの句が使われており、いずれも韓信の言葉として引用したとする。

義士    忠義の士。

錦衣    錦の衣。「錦衣玉色」立派な着物を着、美味しいものを食べる富貴の身分。

還郷尽錦衣     「郷に還るに尽く錦衣す」とも読める。

鷓鴣    ウズラに似てやや大きい。日本にはいない。

惟     ただーーーのみ。

     

詩の鑑賞

この詩は起承転が昔日のこと、結が現在のことで、蘇台覧古と逆の構成となっている。
蘇台覧古、越中覧古とも李白34,5歳の作。




 


子夜呉歌  唐 李 白
子夜四時歌の紹介のため再掲

漢詩を楽しむ22頁


 子夜呉歌  李白

長安一片月

万戸擣衣声

秋風吹不尽

総是玉関情

何日平胡虜

良人罷遠征


 子夜呉歌しやごか   李白りはく

長安ちょうあん 一片いっぺんつき

万戸ばんこ 擣衣とういこえ

秋風しゅうふう いてきず

すべこれ 玉関ぎょくかんじょう

いずれの 胡虜こりょたいらげて

良人りょうじん 遠征えんせいめん


字句解釈

子夜呉歌    子夜は女性の名。東晋のころの歌の上手。子夜の呉の歌のこと。

一片月    ひとつの月。片割れ月ではない。

擣衣    衣をつく。冬になると綿を洗濯して作り直す。綿をついて柔らかくする。砧(きぬた)ともいう。秋の風物詩。 出征した夫のためについている。

玉関情    玉門関。玉門関に出征している夫にたいする思い。

胡虜    えびす。こいつら。

良人    夫。

     

詩の鑑賞

李白43歳、道士とともに長安に上る。長安での作。
子夜の呉歌にならって作った古詩。愛情のこもった悲しい詩。 子夜の呉歌には春夏秋冬の歌がある。これは秋の歌である。


 


子夜呉歌 一作子夜四時歌  唐 李 白

全唐詩


 春歌  李白

秦地羅敷女

採桑綠水辺

素手青條上

紅妝白日鮮

蠶飢妾欲去

五馬莫留連


 春歌しゅんか   李白りはく

秦地しんち 羅敷らふじょ

くわる 綠水りょくすいへん

素手そしゅ 青條せいじょうほとり

紅妝こうしょう 白日はくじつあざやかなり

かいこうる われらんとす

五馬ごば 留連りゅうれんするなか


字句解釈

羅敷女(らふのじょ)   戦国時代の女性の名、貞潔の女。唐詩選24頁  戯贈趙使君美人 杜審言 参照。

青條上  桑畑の道のほとり。

紅妝   美しい装い。

蠶飢   蚕がうえている。

五馬   4頭立ての馬+1馬=高貴の人の馬車

     

詩の鑑賞

戦国時代の貞女、羅敷女の故事をうたった詩。
うちで世話をしている蚕がお腹を空かせているからお暇したいといっている。




 夏歌  李白

鏡湖三百里

菡萏發荷花

五月西施採

人看隘若耶

回舟不待月

歸去越王家


 夏歌かか   李白りはく

鏡湖きょうこ 三百里さんびゃくり

菡萏かんたん 荷花かかひら

五月ごがつ 西施せいし

ひと る 若耶じゃくやせま

ふねめぐらし つきたず

かえる 越王えつおういえ


字句解釈

鏡湖   越の国にある。西施が洗濯していた若耶川が注いでいる。

菡萏  蓮の花のつぼみ。

荷花   蓮の花。

西施採   西施が蓮の花を採る。

人看隘若耶   沢山の人が西施を見に来て若耶川が狭いほどだ。

     

詩の鑑賞

絶世の美女西施を詠った詩。




 冬歌  李白

明朝駅使發

一夜絮征袍

素手抽針冷

那堪把剪刀

裁縫寄遠道

幾日到臨洮


 冬歌とうか   李白りはく

明朝みょうちょう 駅使えきし

一夜いちや 征袍せいほうじょ

素手そしゅ 抽針ちゅうしんひややかに

なんぞたえん 剪刀せんとうるに

裁縫さいほう 遠道えんどう

幾日いくじつ 臨洮りんちょういたらん


字句解釈

駅使   郵便役人。

絮征袍   兵隊の綿入れ。絮は綿を入れる。

素手  白い手。

抽針   裁縫の針。

剪刀   はさみ。

裁縫   さいほう。

遠道   遠い戦地。

臨洮    西域の入り口。黄河と渭水の交点あたり。

     

詩の鑑賞

出征兵士を思う歌。


 


戯贈趙使君美人 唐 杜審言
唐詩選下 24頁


 戯贈趙使君美人  杜審言

紅粉青娥映楚雲

桃花馬上石榴裙

羅敷獨向東方去

謾學他家作使君


 たわむ趙使君ちょうしくん美人びじんおくる   杜審言としんげん

紅粉こうふん 青娥せいが 楚雲そうんえいずう

桃花とうか 馬上ばじょう 石榴せきりゅうくん

羅敷らふ ひと東方とうほうむかって

みだりに他家たけまなんで使君しくん/ruby>とさん


字句解釈

趙使君    趙長官。使君は州の長官である刺史を呼ぶ言葉。

美人    他人の愛妾。他人の愛妾に詩を贈るのは穏やかでないので戯れにと言った。

紅粉    べにおしろい。

青娥    若い美人。娥は美人。

楚雲    楚の雲。楚の襄王の故事を踏まえる。

桃花馬    赤と白の混ざった毛の馬。

石榴裙    ザクロ色のもすそ。

東方    佰上桑を踏まえ、夫の方向。

謾    よいかげんに。ふざけて。

學    まねる。

作使君    自分が使君となって誘ってみようかしらん。

     

詩の鑑賞

杜審言は杜甫の兄。他人の愛妾を誘ってみようかなあ、という戯れの詩。
李白 「春花」へ戻る



 


清平調詞三首其一  唐 李 白
漢詩を楽しむ71頁、漢詩鑑賞辞典213頁、唐詩選下34頁


 清平調詞三首其一  李白

雲想衣裳花想容

春風払檻露華濃

若非群玉山頭見

会向瑶台月下逢


 清平調詞三首其一せいへいちょうしさんしゅそのいち   李白りはく

くもには衣裳いしょうおもい はなにはようおも

春風しゅんぷう かんはらいて 露華ろかまやかなり

し 群玉山頭ぐんぎょくさんとうるにあらずんば

かならず 瑶台ようだい 月下げっかいてわん


字句解釈

清平調詞    清平は歌の調子。清調は高い調子。 想衣裳    想はおもう、連想する。楊貴妃の衣装を連想する。

容    かお。かんばせ。

檻    てすり。

濃    あでやかで美しい。 群玉山頭    崑崙山脈の中にある空想伝説の山。

瑶台    仙人の住む美しい宮殿。

     
 


清平調詞三首其二  唐 李 白
漢詩を楽しむ71頁


 清平調詞三首其二  李白

一枝濃艶露凝香

雲雨巫山枉断腸

借問漢宮誰得似

可憐飛燕倚新裳


 清平調詞三首其二せいへいちょうしさんしゅそのに   李白りはく

一枝いっし 濃艶のうえん つゆかおりをらす

雲雨うんう 巫山ふさん むなしく断腸だんちょう

借問しゃもんす 漢宮かんきゅう たれるを

可憐かれん飛燕ひえん 新裳しんしょう


字句解釈

雲雨巫山枉断腸    巫山の襄王はむなしく断腸の思いをした。

借問    おたずねしますが。 飛燕    趙 飛燕(ちょう ひえん、? - 紀元前1年)は前漢成帝の皇后。元名を宜主と称した。 正史である『漢書』での趙飛燕に関する記述は非常に簡単なものであるが、稗史においては美貌を以って記述されており、 優れた容姿を表現する環肥燕?の燕痩が示すのが趙飛燕である(環とは楊貴妃の事、幼名・玉環による)。

新裳    新しい衣裳、お化粧。

     
 


清平調詞三首其三  唐 李 白
漢詩を楽しむ72頁


 清平調詞三首其三  李白

名花傾国両相歓

長得君王帯笑看

解釈春風無限恨

沈香亭北倚闌干


 清平調詞三首其三せいへいちょうしさんしゅそのさん   李白りはく

名花めいか 傾国けいこく ふたつながらあいよろこ

ながく 君王くんおうの わらいをびてるをたり

春風しゅんぷう無限むげんうらみを解釈かいしゃくして

沈香ちんこう亭北ていほく 闌干らんかん


字句解釈

傾国    国を傾けるほどの美女。ここでは楊貴妃のこと。

     

詩の鑑賞

この詩は、李白が酔いのなかで、即興で作ったものであるが、李白の詩にしては、やや上っ調子で深みに乏しい。
李白43歳、道士とともに長安に上り玄宗皇帝にお目見えし、翰林供奉となる。 翌天宝4年、牡丹の花見が行われた。「松窓録」、「本事詩」などに記事がある。
また下記に詳細な説明がある。
http://blog.livedoor.jp/kanbuniinkai10/archives/cat_60288107.html




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Last modified 2015/08/10 First updated 2014/04/28