第12回講義

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2015.02.26 録音

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春 望  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 17頁  漢詩鑑賞辞典295頁


 春望  杜甫

國破山河在

城春草木深

感時花濺涙

恨別鳥驚心

烽火連三月

家書抵萬金

白頭掻更短

渾欲不勝簪


 春望しゅんぼう  杜甫とほ

くにやぶれて 山河さんが

しろはるにして 草木そうもくふか

ときかんじては はなにもなみだそそ

わかれうらんでは とりにもこころおどろかす

烽火ほうか 三月さんげつつらなり

家書かしょ 萬金ばんきんあた

白頭はくとうかけさらみじか

すべかんざしたえざらんとす





杜甫紹介


評価・出自

李絶杜律
李白は絶句にすぐれているのに対し、杜甫は 律詩が得意である。

詩仙詩聖
李白は詩仙と称され、杜甫は詩聖と称される。

杜姓
杜姓は紀元前春秋時代以来の姓で、先祖に、三国時代から西晋の武将であり歴史書春秋の解説書を書いた 杜預がいる。その子孫が襄陽に移った。
曽祖父杜依芸は洛陽50km東方の鞏県の県令、祖父は杜審言、 父は杜閑、母は崔氏。母の崔氏は唐太宗の孫の孫。
杜甫は学者の家系の父と、唐王朝の血筋の母の間に鞏県で生まれた。このことは杜甫の国家感に影響している。 また、幼くして母は亡くなり、家は裕福ではなかった。

杜五派
中国の杜姓には杜甫の襄陽杜氏の系統を含め、酒の神の杜康、ホトトギス(杜鵑)の 杜宇などを祖先とする5つの系統がある。

     

略年譜

712年
杜甫生誕。諱(いみな)(名)は甫(ほ)「はじめ」、(あざな)子美。 李白12歳, 王維14歳、  孟浩然24歳
同712年
玄宗即位 28歳 
翌713年
開元元年。開元は28年続いた。杜甫の青春時代は開元中にあった。杜甫は開元の治の申し子である。
719年ー727年
7歳で詩を作り、14、5歳で酒を嗜み文人と交流する。
732年
21歳 諸国漫遊。魯、江南など遊学。
735年
24歳 科挙に応ずるが落第。
746年
35歳 天宝年間、遺賢の登用試験に応募するが李林甫の 策略で落第。
751年
太宗が、天、農神、祖霊に長寿を祈る三大礼を行う。杜甫、賦を奉るが、また、李林甫の反対に合う。
752年
李林甫死す。
754年
杜甫、飢饉を避けて妻子を長安の北東100kmの奉先県(現 陝西省蒲城県)に預ける。
755年
10月 杜甫44歳、太子右衛卒府冑曹参軍(武器倉庫出納管理職)を授けられ初めて官につく。妻に報告のため奉先県に向かう。
11月 安禄山、君側の奸(楊 国忠) などを除く名目で現北京付近で乱を起こす。
杜甫、家族を延安近傍の鄜州羌村きょうそんに避難させる。
756年
洛陽陥落。玄宗は成都へ、 肅宗(第3皇子)は霊武で即位。杜甫、霊武に向かうが途中賊軍に捕らわれ 長安に幽閉される。
757年
春、幽閉中の身で「春望」を作る。

     


 


春 望  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 17頁  漢詩鑑賞辞典295頁


 春望  杜甫

國破山河在

城春草木深

感時花濺涙

恨別鳥驚心

烽火連三月

家書抵萬金

白頭掻更短

渾欲不勝簪


 春望しゅんぼう  杜甫とほ

くにやぶれて 山河さんが

しろはるにして 草木そうもくふか

ときかんじては はなにもなみだそそ

わかれうらんでは とりにもこころおどろかす

烽火ほうか 三月さんげつつらなり

家書かしょ 萬金ばんきんあた

白頭はくとうかけさらみじか

すべかんざしたえざらんとす


字句解釈

春望    春のながめ。

國破    國は①国家②諸侯の領地③ふるさと・ふるさと④國都。ここでは④の長安説(石川・鈴木・山田)と、 ①国家説(古川)がある。 破は①こわす、やぶく、やぶかれる②まける。
日本では、室町時代の謡曲俊寛僧都、江戸時代の芭蕉の奥の細道、 2次大戦の敗戦で②の意で使われているが、ここでは①の意で、長安のまちが破壊されたの意である。

山河在    在はbe動詞の「あり」「there is」。存は亡の反対、「生きながらえている」。有は無の反対、have動詞。
「存」の用例はテキスト54頁「遊山西村」の 古風存、「昔の習慣が残っている」、 98頁「述 懐」の 志猶存、「志まだあるぞ」、などがある。
「有」の用例は19頁「清明」の 何処有、20頁「春夜」の 花有清香、など「存」より軽い、痛切でない。

城    ①城壁に囲まれた「まち」。②城壁そのもの。③二重の城壁の間。(外側の城壁が「郭」)。 ここでは①の意で日本の城の意ではない。

春    第一句の「破」が動詞「やぶれる」とすると、対句として「春」も動詞的に「はるになる」と解釈するとよいか。
例、「雨」は「あめふる」、「雪」「ゆきふる」、「土」「つちふる」(黄砂など)と読む場合がある。

花濺涙、鳥驚心   日本の謡曲や、芭蕉では「花は涙を濺ぎ、鳥は心を驚かす」と擬人的に読んでいるが、 現在は、主語が人になるように書き下している。

恨別    わかれをかなしむ。

烽火    のろし。

連三月    ①3ヶ月も続いている。(石川)(山田)②3月まで続いている。(鈴木)2説あり、①がよいか。

家書    家、家族からの手紙。

抵    あたる。価値がある。

更    仄で読めば「さらに」、平で読めば「あらためる」例 月三更。

渾    平で読めば「すべて」、仄で読めば「にごる」。

勝    平で読めば「たえる」、仄で読めば「かつ」。

簪(しん)    役人の冠(かんむり)の止めピン。女性のかんざしは「釵」(さ)、「鈿」(でん)。

     

詩の鑑賞

古今の絶唱である。対句の前後は「公私」に対応している。平仄は完全である。杜甫の詩は平仄が確かである。 この詩は日本人にもよく親しまれている。




 


月 夜  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典293頁


 月夜  杜甫

今夜鄜州月

閨中只獨看

遙憐小兒女

未解憶長安

香霧雲鬟湿

清輝玉臂寒

何時倚虚幌

雙照涙痕乾


 月夜げつや  杜甫とほ

今夜こんや 鄜州ふしゅうつき

閨中けいちゅう ひとるならん

はるかにあわれむ 小児女しょうじじょ

いま長安ちょうあんおもうをかいせざるを

香霧こうむに 雲鬟うんかん湿うるお

清輝せいきに 玉臂ぎょくひさむからん

いずれのときか 虚幌きょこう

ともらされて 涙痕るいこんかわかん


字句解釈

鄜州    鄜州。杜甫は長安にいた。

憐    いつくしむ。

香霧    秋の霧。女性の部屋に入ってくるから「香」。

雲鬟    美しい髷(まげ)。

清輝    清らかな月の光。

玉臂    玉のように美しい肌。臂はうで。

虚幌    カーテン。

雙     二人で。

     

詩の鑑賞

この詩は杜甫が捕えられた直後の作である。
「雲鬟」「玉臂」などは南北朝時代の文選によく出る語であり、閨園の詩で よく使われる語であって、普通は自分の妻に使う語ではない。死を覚悟した遺言の詩か。
杜甫は文選を丸暗記していたとの説もある。




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Last modified First updated 2015/03/15