第17回講義

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2015.07.23 録音

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杜 甫 作詩の背景




「杜甫年譜」

杜甫年譜1 712年 1歳 ~739年 28歳
杜甫年譜2 740年 29歳 ~755年 44歳
杜甫年譜3 756年 45歳 ~763年 52歳


「詩人杜甫の
足あと」


人名   李林甫 楊貴妃  安禄山 高力士 楊 国忠
     
用語  遺賢

     




貧交行  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 47頁  漢詩鑑賞辞典 286頁  
全唐詩 巻二百十六


 貧交行  杜 甫

飜手作雲覆手雨

紛紛輕薄何須數

君不見管鮑貧時交

此道今人棄如土


 貧交行ひんこうこう  杜甫とほ

ひるがえせば くもり  くつがせば あめ

紛紛ふんぷんたる輕薄けいはく なんかぞうるをもちいん

きみや 管鮑かんぽう貧時ひんじまじわり

みち 今人こんじんすてつちごと


字句解釈

貧交行     まずしいまじわりのうた。「行」は歌のこと。楽府。古詩が多い。この詩も古詩。

     「翻」と同じ。ひるがえる。ひらひらする。ここでは手を上に向けること。

     書き下しに2説ある。①フク 屋韻 「くつがえす」 ひっくりかえす ②フ 宥韻「おおう、ふせる」 かぶせる  ①説 簡野道明鈴木虎雄、 山田勝美 ②説 石川忠久、吉川幸次郎
(参考故事) 覆水不返盆(ふくすいぼんにかえらず)  太公望   
(江戸川柳) 釣れますかなどと文王そばにより

紛紛     乱れるさま。乱れ飛ぶさま。

何須數     「何」なんぞ 反語。 「須」①もちいる 必要がある ②すべからくーーすべし。 ここでは①で、数える必要があろうか、いやない。

君不見     漢詩では、「きみみず」ではなく「きみみずや」で、反語。

管鮑     「管仲」と「鮑叔」。

     

詩の鑑賞

この詩は、752年、杜甫41歳、の作とされている。このころ杜甫は仕官ができず経済的にも苦しかった。 安禄山の乱前で、世の乱れ、軽薄さをなげいている。自分を管仲になぞらえて、まだまだ今に見ていろという意気込みが見られる。




 


詩 吟

曲 江 二首 その二  唐 杜 甫

漢詩を楽しむ 23頁  漢詩鑑賞辞典 304頁  全唐詩 巻二百二十五


 曲 江二首 二  杜甫

朝回日日典春衣,

毎日江頭盡醉歸。

酒債尋常行處有,

人生七十古來稀。

穿花蛺蝶深深見,

點水蜻蜓款款飛。

傳語風光共流轉,

暫時相賞莫相違。



 曲江きよっこう二首にしゅその二  杜甫とほ

ちょうよりかえりて日日ひび春衣しゅんいてん

毎日まいにち江頭こうとうよいつくしてかえ

酒債しゅさい尋常じゅんじょうところ

人生じんせい七十しちじゅう古來こらいまれなり

はな穿うが蛺蝶きょうちょう深深しんしんとして

みずてんずる蜻蜓せいてい款款かんかんとして

傳語でんご風光ふうこうとも流轉るてんして

暫時ざんじ相賞あいしょうして相違あいたがうことなかれと



 


題長安主人壁  唐 張 謂

漢詩鑑賞辞典 360頁  全唐詩 卷一百九十七


 題長安主人壁  張 謂

世人結交須黄金,

黄金不多交不深。

縱令然諾暫相許,

終是悠悠行路心。


 長安ちょうあん主人しゅじんへきだいす    張 謂ちょうい

世人せじん まじわりをむすぶに 黄金おうごんもち

黄金おうごん おおからざれば まじわふかからず

縱令たとい 然諾ぜんだくして しばら相許あいゆるすとも

ついれ 悠悠ゆうゆうたる 行路こうろこころ


字句解釈

     書き付ける。

張 謂

     もちう。必要とする。

縱令     たとい。「縱」1字でも「たとい」である。

然諾     承知する。よしよし。

相許     「相」は「互いに」という意もあるが、普通は「相手に対して」の意。

悠悠     ①ひま、ゆったり。②無関心なさま。③遠く遙かなさま。④愁い悲しむさま。ここでは②。

     

詩の鑑賞

杜甫に遅れること9年、721年生まれの張謂の作。この詩は七言絶句ではない(起句詩も連)。 杜甫の曲江と同時期の殺伐とした世相がダイレクトに詠まれている。あまりに直接的で、漢詩としては余韻に乏しい。




 


贈喬琳  唐 張 謂

全唐詩 卷一百九十七


 贈喬琳  張 謂

去年上策不見收,

今年寄食仍淹留。

羨君有酒能便醉,

羨君無錢能不憂。

如今五侯不愛客,

羨君不問五侯宅。

如今七貴方自尊,

羨君不過七貴門。

丈夫會應有知己,

世上悠悠何足論。

 喬琳きょうりんおくる    張 謂ちょうい

去年きょねん さくたてまつりて おされず

今年こんねん 寄食きしょくして なお淹留えんりゅう

うらやむ きみさければ便すなわちうを

うらやむ きみぜにくしてうれいざるを

如今じょこん 五侯ごこう かくあいせず

うらやむ きみ五侯ごこうたくわざるを

如今じょこん 七貴しちき まさみずからとうとしとなす

うらやむ きみ七貴しちきもんよぎらざるを

丈夫じょうぶ かならずまさ知己ちきるべし

世上せじょう 悠悠ゆうゆう んぞろんずるにらん


字句解釈

喬琳     人名。

上策不見收     科挙の試験に応じたが合格しなかった。科挙には詩賦と策論が科せられる。

     受け身の助動詞。

寄食     居候(いそうろう)。

淹留     ひさしくとどまる。

便     すなわち。すぐに、たやすく。

五侯    おえらがた。公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。

不愛客    李適之「朝退」にあるようにように、門を開いて客を迎えることがなくなった。暗に李林甫を揶揄している。

七貴    七つの貴族。漢朝の流れをくむ顕要。

    よぎる。訪問する。

丈夫    男一匹。

    必ず。

知己    己を知る人。

悠悠     ①ひま、ゆったり。②無関心なさま。③遠く遙かなさま。④愁い悲しむさま。ここでは②。

     

詩の鑑賞

安禄山の乱(755年)直前の当時の殺伐とした世相がよく読み込まれている。
752年、李林甫死去、楊國忠が宰相となる。この年、 日本では懐風藻成る。




 


兵車行  唐 杜 甫

漢詩鑑賞辞典 288頁   全唐詩 卷二百一十六


 兵車行  杜 甫

車轔轔,馬蕭蕭,

行人弓箭各在腰。

耶娘妻子走相送,

塵埃不見咸陽橋。

牽衣頓足闌道哭,

哭聲直上干雲霄。

道傍過者問行人,

行人但云點行頻。

或從十五北防河,

便至四十西營田。

去時里正與裹頭,

歸來頭白還戍邊。

邊亭流血成海水,

武皇開邊意未已。

君不聞漢家山東二百州,

千村萬落生荊杞。

縱有健婦把鋤犁,

禾生隴畝無東西。

況復秦兵耐苦戰,

被驅不異犬與雞。

長者雖有問,

役夫敢伸恨。

且如今年冬,

未休關西卒。

縣官急索租,

租税從何出。

信知生男惡,

反是生女好。

生女猶得嫁比鄰,

生男埋沒隨百草。

君不見青海頭,

古來白骨無人收。

新鬼煩冤舊鬼哭,

天陰雨濕聲啾啾。


 兵車行へいしゃこう    杜 甫とほ

くるま 轔轔りんりん うま 蕭蕭しょうしょう

行人こうじん弓箭きゅうせん おのおのこし

耶娘やじょう妻子さいし はしりておく

塵埃じんあいにしてえず 咸陽橋かんようきょう

ころもき あしとんみちさえぎりて

こえただちのぼりて 雲霄うんしょうおか

道傍どうぼう ぐるもの 行人こうじん

行人こうじん 但云ただいう 點行てんこうしきりなりと

あるい十五じゅうごより きた かわふせ

便すなわち 四十しじゅういたり 西にし いとな

とき 里正りせい ためこうべつつ

かえきたって こうべしろきにまたへんまも

邊亭へんてい流血りゅうけつ 海水かいすいるも

武皇ぶこう へんひらいままず

きみかずや漢家かんけ山東さんとう二百州にひゃくしゅう

千村せんそん 萬落ばんらく 荊杞けいきしょうずるを

たと健婦けんぷ鋤犁じょりるも

隴畝ろうほしょうじて東西とうざい

いわんやた 秦兵しんぺい 苦戰くせんうるをや

らるることいぬにわとりとにことならず

長者ちょうじゃ りといえど

役夫えきふ えてうらみのべんや

今年こんねんふゆごときは

いま関西かんせいそつめざるに

縣官けんかん きゅうもとむるも

租税そぜい いずくよりでん

まことる おとこむはしく

かえってこれ おんなむはきを

おんなままば 比鄰ひりんするをるも

おとこままば 埋没まいぼつして百草ひゃくそうしたが

きみずや青海せいかいほとり

古来こらい 白骨はっこつ ひとおさむるきを

新鬼しんき煩冤はんえん舊鬼きゅうきこく

天陰てんくもり 雨湿あめけぶるとき こえ啾啾しゅうしゅう


字句解釈

兵車行     戦車の歌。

轔轔     がたが鳴るさま。

蕭蕭     寂しいさま。

耶娘     行人(兵隊)のお父さんとお母さん。

咸陽橋     長安の北にある橋の名前。

頓足    足をばたばたさせる。

道傍過者    道端にいる者、自分杜甫のこと。

點行     徴兵。

營田    屯田兵。

里正    村長。

裹頭    頭を包む。元服させる。

武皇    漢の武帝。当代玄宗を憚って、漢代になぞらえている。

山東二百州     華山・函谷関以東の大平原、中国の心臓部。

荊杞       「いばら」と「かわやなぎ」。雑草。

鋤犁、禾、隴畝       すき、稲、あぜ。

青海       海抜3000mの中国第1の大湖。

煩冤       もだえくるしむ。

新鬼・舊鬼       新しく死んだ人の魂・昔死んだ人の魂。

啾啾       小声で悲しげに泣く声、また、死者の魂が泣く声。

     

詩の鑑賞

杜甫が公憤を詠った最初の詩。当時の悲惨な状況がよく読み籠めれている。 但し、杜甫の公憤は革命的ではなく体制内の公憤である。



韻・平仄

○蕭○蕭○蕭
○蕭

○真○真○歌便西○先
○尤○先

二百州●●○尤

縱有健婦把鋤●●●●●○斉禾生隴畝無東○○●●○○西○斉況復秦兵耐苦戰●●○○●●●被驅不異犬與●○●●●●○斉

長者雖有●●○●○問役夫敢伸恨●○●○●

且如今年●○○○○冬未休關西●○○○●寘縣官急索●○●●●虞租税從何○●○○●寘

信知生男●○○○●遇反是生女●●○●●晧生女猶得嫁比鄰○●○●●●○生男埋沒隨百○○○●○●●晧

君不見青海○●●○●○尤古來白骨無人●○●●○○○尤新鬼煩冤舊鬼哭○●○○●●●天陰雨濕聲啾○●●●○○○尤




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Last modified First updated 2015/08/04