第26回講義

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2016.06.23 録音

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白居易 作詩の背景




「白楽天年譜」

白楽天年譜1 772年 1歳 ~800年 29歳
白楽天年譜2 801年 30歳 ~815年 44歳


中国文学地図

地名  長安  盩厔県(ちゅうちつけん、陝西省周至県)  馬嵬
山名  秦嶺山脈(地図)  秦嶺山脈(説明)


「人名・用語・書名」

人名  元 稹  楊貴妃  陳 鴻
用語  排行  宦官
書名  和漢朗詠集  枕草子  源氏物語

     

 

再 掲



常樂里閒居、偶題十六韻、
兼寄劉十五公輿、王十一起、
呂二炅、呂四熲、崔十八玄亮、
元九稹、劉三十二敦質、
張十五仲元。
時為校書郎   唐 白居易

全唐詩卷四百二十八


 常樂里閒居、偶題十六韻、
兼寄劉十五公輿、王十一起、
呂二炅、呂四熲、
崔十八玄亮、元九稹、
劉三十二敦質、張十五仲元。
時為校書郎  白居易

帝都名利場,

鶏鳴無安居。

獨有懶慢者,

日高頭未梳。

工拙性不同,

進退跡遂殊。

幸逢太平代,

天子好文儒。

小才難大用,

典校在秘書。

三旬兩入省,

因得養頑疏。

茅屋四五間,

一馬二僕夫。

俸錢萬六千,

月給亦有餘。

既無衣食牽,

亦少人事拘。

遂使少年心,

日日常晏如。

勿言無知己,

躁靜各有徒。

蘭台七八人,

出處與之倶。

旬時阻談笑,

旦夕望軒車。

誰能讎校閑,

解帶臥吾廬。

窗前有竹玩,

門處有酒酤。

何以待君子,

數竿對一壺。

 常樂里閒居じょうらくりかんきょたまたま十六韻じゅうろくいんだいす、
 かねりゅう十五公輿じゅうごこうよ、 王十一起おうじゅういちき
 呂二炅りょじけい呂四熲りょしえん崔十八玄亮さいじゅうはちげんりょう
 元九稹げんきゅうしん劉三十二敦質りゅうさんじゅうにとんしつ張十五仲元ちょうじゅうごちゅうげん
 とき校書郎こうしょろうり  白居易はくきょい

帝都ていとは 名利めいり

鶏鳴にわとりなけば 安居あんきょするし。

ひと懶慢らんまんものり、

日高ひたかくして 頭未かしらいまくしけずらず。

工拙こうせつ 性同せいおなじからず、

進退しんたい あとついことなる。

さいわいにして太平たいへいい、

天子てんし 文儒ぶんじゅこのむ。

小才しょうさい おおいにはもちかたく、

典校てんこうして 秘書ひしょり。

三旬さんじゅんに はつかしょうり、

りて頑疏がんそやしなうをたり。

茅屋ぼうおく 四五間しごけん

一馬いちば 二僕夫にぼくふ

俸錢ほうせん 萬六千ばんろくせん、

つききゅうして またあまりあり。

すで衣食いしょくけんなく、

また人事じんじかかわすくなし。

つい少年しょうねんこころをして、

日日常ひびつね晏如あんじょたらしむ。

かれ 知己ちきなしと、

躁靜そうせい おのおのあり。

蘭台らんだい 七八人しちはちにん

いづところ これともにす。

旬時じゅんじも 談笑だんしょうへだつれば、

旦夕たんせき 軒車けんしゃのぞむ。

だれく 讎校しゅうこうかん

おびいて さん。

窗前そうぜんに たけもてあそぶべきり、

門處もんしょに さけるあり。

なんって 君子くんしたん、

數竿すうかん 一壺いっこたいす。


 


長恨歌  唐 白居易
漢詩鑑賞辞典423頁 全唐詩卷四百三十五


 長恨歌  白居易

1
漢皇重色思傾國,
禦宇多年求不得。
楊家有女初長成,
養在深閨人未識。
天生麗質難自棄,
一朝選在君王側。
2
回眸一笑百媚生,
六宮粉黛無顏色。

春寒賜浴華清池,
温泉水滑洗凝脂。
侍兒扶起嬌無力,
始是新承恩澤時。
3
雲鬢花顏金歩搖,
芙蓉帳暖度春宵。
春宵苦短日高起,
從此君王不早朝。
承歡侍宴無閒暇,
春從春遊夜專夜。
4
後宮佳麗三千人,
三千寵愛在一身。

金屋妝成嬌侍夜,
玉樓宴罷醉和春。
姉妹弟兄皆列土,
可憐光彩生門戸。
5
遂令天下父母心,
不重生男重生女。
驪宮高處入青雲,
仙樂風飄處處聞。
緩歌慢舞凝絲竹,
盡日君王看不足。
6
漁陽鞞鼓動地來,
驚破霓裳羽衣曲。

九重城闕煙塵生,
千乘萬騎西南行。
翠華搖搖行複止,
西出都門百餘裏。
7
六軍不發無奈何,
宛轉蛾眉馬前死。
花鈿委地無人收,

翠翹金雀玉掻頭。
君王掩面救不得,
回看血涙相和流。
8
黄埃散漫風蕭索,
雲棧縈紆登劍閣。
峨嵋山下少人行,
旌旗無光日色薄。
蜀江水碧蜀山青,
聖主朝朝暮暮情。
9
行宮見月傷心色,
夜雨聞鈴腸斷聲。
天旋日轉回龍馭,
到此躊躇不能去。
馬嵬坡下泥土中,
不見玉顏空死處。
10
君臣相顧盡沾衣,
東望都門信馬歸。
歸來池苑皆依舊,
太液芙蓉未央柳。
芙蓉如面柳如眉,
對此如何不涙垂。
11
春風桃李花開夜,
秋雨梧桐葉落時。
西宮南苑多秋草,
宮葉滿階紅不掃。
梨園弟子白髮新,
椒房阿監青娥老。
12
夕殿螢飛思悄然,
孤燈挑盡未成眠。
遲遲鐘鼓初長夜,
耿耿星河欲曙天。
鴛鴦瓦冷霜華重,
翡翠衾寒誰與共。
13
悠悠生死別經年,
魂魄不曾來入夢。
臨邛道士鴻都客,
能以精誠致魂魄。
為感君王輾轉思,
遂教方士殷勤覓。
14
排空馭氣奔如電,
升天入地求之遍。
上窮碧落下黄泉,
兩處茫茫皆不見。
忽聞海上有仙山,
山在虚無縹緲間。
15
樓閣玲瓏五雲起,
其中綽約多仙子。
中有一人字太真,
雪膚花貌參差是。
金闕西廂叩玉扃,
轉教小玉報雙成。
16
聞道漢家天子使,
九華帳裏夢魂驚。
攬衣推枕起裴回,
珠箔銀屏邐迤開。
雲鬢半偏新睡覺,
花冠不整下堂來。
17
風吹仙袂飄颻舉,
猶似霓裳羽衣舞。
玉容寂寞涙闌干,
梨花一枝春帶雨。

含情凝睇謝君王,
一別音容兩渺茫。
18
昭陽殿裏恩愛絶,
蓬莱宮中日月長。
回頭下望人寰處,
不見長安見塵霧。
唯將舊物表深情,
鈿合金釵寄將去。
19
釵留一股合一扇,
釵擘黄金合分鈿。
但教心似金鈿堅,
天上人間會相見。
臨別殷勤重寄詞,
詞中有誓兩心知。
20
七月七日長生殿,
夜半無人私語時。
在天願作比翼鳥,
在地願為連理枝。
天長地久有時盡,
此恨綿綿無絶期。




 長恨歌ちょうごんか  白居易はくきょい
  
 
 
 
 
ひとみめぐらし 一笑いっしょうすれば 百媚ひゃくびしょう
六宮りくきゅう粉黛ふんたい 顏色がんしょく
 
温泉おんせん 水滑みずなめかにして 凝脂ぎょうしあら
 
 
 
 
 
 
後宮こうきゅう佳麗かれい 三千人さんぜんにん
三千さんぜん寵愛ちょうあい 一身いっしん
 
 
 
 
 
 
 
漁陽ぎょよう鞞鼓へいこ うごかしてきた
驚破ぎょうはす 霓裳ぎょうしょう 羽衣ういきょく
 
 
 
 
宛轉えんてんたる蛾眉がび 馬前ばぜん
花鈿かでん まかせてひとおさむる
 
 
 
 
 
 
聖主せいしゅ 朝朝ちょうちょう 暮暮ぼぼじょう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
玉容ぎょくよう 寂寞せきばく なみだ闌干らんかん
梨花りか 一枝いっし はるあめ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
てんりては ねがわくば比翼ひよくとり
りては ねがわくば連理れんり>枝えだらん
てんながく ひさしく ときつくることるも
うらみ 綿綿めんめんとして たうからん


字句解釈

六宮   天子の後宮。6殿あった。

粉黛   おしろいとまゆずみ。

凝脂   白く固まった脂肪。美人の肌の比喩。

漁陽   安禄山の任地。

鞞鼓   馬上で鳴らす攻め太鼓。

驚破   おどろかす。破は強意の助辞。

霓裳羽衣曲   西域伝来の舞曲の名。玄宗が作ったともいう。

花鈿    螺鈿作りの花の簪。

朝朝暮暮情    楚の懐王の故事を踏まえる。

闌干    涙がはらはらと落ちるさま。

比翼鳥    雌雄それぞれ一目、一翼で常に一緒に飛ぶ鳥。

連理枝    幹は二本で枝が二つの木。

綿綿    長く続いて絶えぬさま。


詩の鑑賞

白居易三十五歳、盩厔県(ちゅうちつけん、陝西省周至県)に赴任した時の作。盩厔県の北は馬嵬である。
此のとき、馬嵬で楊貴妃が逝って50年目にあたり、友人(王質夫)の勧誘によってこの詩を作った。
玉井先生の「長恨歌」全編の講義録はここにあります。


 

送王十八歸山,寄題仙遊寺  唐 白居易
漢詩を楽しむ97頁 漢詩鑑賞辞典442頁 全唐詩卷卷四百三十七


 送王十八歸山寄題仙遊寺
           白居易

曾于太白峰前住,

數到仙遊寺裏來。

黑水澄時潭底出,

白雲破處洞門開。

林間暖酒燒紅葉,

石上題詩掃綠苔。

惆悵舊遊那複到,

菊花時節羨君回。


 王十八おうじゅうはちやまかえるをおく
仙遊寺せんゆうじ寄題きだい
               白居易はくきょい

かつ太白峰前たいはくほうぜんおい

しばしば仙遊寺裏せんゆうじりいたりてきた

黑水こくすい めるとき 潭底たんてい

白雲はくうん やぶるるところ 洞門とうもんひら

林間りんかんさけあたためて 紅葉こうよう

石上せきじょうだいして 綠苔りょくたいはら

惆悵ちゅうちょうす 舊遊きゅうゆう またいたることきを

菊花きくか時節じせつ きみかえるをうらや


字句解釈

王十八   王質夫。白居易に「長恨歌」を作ることを勧めた友人。

歸山   ①官をやめて隠棲する。故郷に帰る。②僧侶が自分の寺に帰る。③道教では「死ぬ」こと。ここは①。

寄題   その場に行かないで詩を「題」すること。「題」とは詩を書きつけること。

太白峰   太白山

到來   「帰去来」と同様な用法。「来」は強意の助辞、意味はない。「到+目的語+来」の使い方あり。

潭底   淵(ふち)のそこ。

洞門   洞穴の入口。

惆悵   がっかりして悲しむ。

菊花時節   秋、酒、陶淵明を思わせる。


詩の鑑賞

白楽天が都に呼び戻されたのと前後して、白楽天に長恨歌を作ることを勧めた友人、王質夫も都に召されたと思われる。ところが何かの事情で失脚したらしく、 王は都を追われて故郷へ帰ることになった。その折に白楽天が王に送った詩。
かつてともに遊んだことをなつかしみ、今後そのような喜びが得られないことを嘆くとともに、故郷へ帰れる友人を羨むと言って、 慰めてもいる。
この律詩は首聯も破格(2・2・3でない)の対句となっている。重字、「白」「遊」「時」がある。
「林間暖酒燒紅葉 石上題詩掃綠苔」は古来有名である。和漢朗詠集、平家物語に引用がある。
平家物語 巻第六 紅葉
高倉天皇




詩 吟  三並哲治様


香爐峰下新卜山居草堂初成偶題東壁   唐 白居易

漢詩を楽しむ18頁 漢詩鑑賞辞典499頁  全唐詩卷四百三十九


 香爐峰下新卜山居
 草堂初成偶題東壁  白居易

日高睡足猶慵起,

小閣重衾不怕寒。

遺愛寺鐘欹枕聽,

香爐峰雪撥簾看。

匡廬便是逃名地,

司馬仍為送老官。

心泰身寧是歸處,

故郷何獨在長安。


 香爐峰下こうろほうかあらた山居さんきょぼく
 草堂そうどうはじめてたまたま東壁とうへきだいす   白居易はくきょい

日高ひたかねむれるもくるにものう

小閣しょうかくきんかさねてさむさをおそれず

遺愛寺いあいじかねまくらそばだてて

香爐峰こうろほうゆきすだれかかげて

匡廬きょうろ便すなわのがるるの

司馬しばろうおくるの官為かんた

心泰こころやす身寧みやすきは するところ

故郷こきょうなんひと長安ちょうあんのみにらんや


 

新豐折臂翁   唐 白居易
漢詩鑑賞辞典445頁 全唐詩卷卷四百二十六


 新豐折臂翁  白居易

新豐老翁八十八,

頭鬢眉須皆似雪。

玄孫扶向店前行,

左臂憑肩右臂折。

問翁臂折來幾年,

兼問致折何因縁。

翁雲貫屬新豐縣,

生逢聖代無征戰。

慣聽梨園歌管聲,

不識旗槍與弓箭。

無何天寶大徴兵,

戸有三丁點一丁。

點得驅將何處去,

五月萬里雲南行。

聞道雲南有瀘水,

椒花落時瘴煙起。

大軍徒渉水如湯,

未過十人二三死。

村南村北哭聲哀,

兒別爺娘夫別妻。

皆雲前後征蠻者,

千萬人行無一回。

是時翁年二十四,

兵部牒中有名字。

夜深不敢使人知,

偸將大石捶折臂。

張弓簸旗倶不堪,

從茲始免征雲南。

骨碎筋傷非不苦,

且圖揀退歸郷土。

此臂折來六十年,

一肢雖廢一身全。

至今風雨陰寒夜,

直到天明痛不眠。

痛不眠,終不悔,

且喜老身今獨在。

不然當時瀘水頭,

身死魂孤骨不收。

應作雲南望郷鬼,

萬人塚上哭呦呦。

老人言,君聽取。

君不聞開元宰相宋開府,

不賞邊功防黷武。

又不聞天寶宰相楊國忠,

欲求恩幸立邊功。

邊功未立生人怨,

請問新豐折臂翁。


 新豐しんぽううでるのう  白居易はくきょい

新豐しんぽう老翁ろうおう 八十八はちじゅはち

頭鬢とうびん 眉須びしゅ みなゆきたり

玄孫げんそんたすけられて店前てんぜんむかいて

左臂さひかたり 右臂うひ

おうう 臂折ひおれてより幾年いくねん

かねう るをいたせるは なん因縁いんねん

おうう かん新豐縣しんぽうけんぞく

まれて聖代せいだいい 征戰せいせん

くになれる 梨園歌管りえんかんかこえ

らず 旗槍きそう弓箭きゅうせん

いくばくく 天寶てんぽう おおいにへいちょう




三丁さんてれば 一丁いちていてん

てんて って 何處いずくにか

五月ごがつ 萬里ばんり 雲南うんなんこう

聞道きくならく 雲南うんなん 瀘水ろすい

椒花しょうか つるとき 瘴煙しょうきおこると

大軍たいぐん 徒渉としょう 水湯みずゆごと

いますぎざるに 十人じゅうにんに 二三にさんすと

村南そんなん 村北そんほく 哭聲こくせいかな

爺娘やろうわかれ おっとつまわか





みなう 前後ぜんご ばんせいするもの

千萬人せんまんにんきて いつかえ

とき 翁年おきなとし 二十四にじゅうよん

兵部へいぶ牒中ちょうちゅう名字みょうじ

ふけて あえひとをしてらしめず

ひそか大石たいせきって ついして

ゆみり はたふりあぐに ともたえ

これり はじめて雲南うんなんくをまぬが

骨碎ほねくだけ 筋傷すじいたむは くるいからざるにらず

かつはかる 揀退かんたいせられて 郷土きょうどかえらんことを

 おれてより 六十年ろくじゅうねん

一肢いっし はいするといえども 一身全いっしんまったし

いまいたるも 風雨ふうう 陰寒いんかんよる

ただち天明てんめいいたるも いたみてねむられず




いたみてねむられざるも るいにはくい

老身ろうしんよろこび 今獨いまひとり

しからずんば 當時とうじ 瀘水ほとり

身死みしし 魂孤こんこにして こつおさめず

まさ雲南うんなんに 望郷ぼうきょうりたるべし

萬人ばんじん 塚上ちょうじょうに こくして呦呦ゆうゆうたり

老人ろうじんげん 君聽取きみちょうしゅせよ

きみかずや 開元かいげん宰相さいしょう 宋開府そうかいふ

邊功へんこうしょうさず けがすをふせぎしを

又不聞またきかずや 天寶てんぽう宰相さいしょう 楊國忠ようこくちゅう

恩幸おんこうもとめんとっして 邊功へんこうつを

邊功へんこう いまたずして ひとうらみしょう

とうう 新豐しんぽうりしおう


字句解釈

臂   うで。肩から手首まで。

玄孫   やしゃご。孫の孫。

瀘水   川名。

椒花   山椒の花。

瘴煙   毒気を含んだガス。。

簸旗   はたをふりあげる。

呦呦   人の泣き声の擬声。


詩の鑑賞

白居易の風諭詩の一例。杜甫の「兵車行」の影響を思わせる。 在野ではない政府の高官が時の政治を嗟く。 やがて左遷の身となる前兆である。



 

賣炭翁  唐 白居易
全唐詩卷卷四百二十七


 賣炭翁  白居易

賣炭翁,

伐薪燒炭南山中。

滿面塵灰煙火色,

兩鬢蒼蒼十指黑。

賣炭得錢何所營,

身上衣裳口中食。

可憐身上衣正單,

心憂炭賤願天寒。

夜來城上一尺雪,

曉駕炭車輾冰轍。

牛困人饑日已高,

市南門外泥中歇。

翩翩兩騎來是誰,

黄衣使者白衫兒。

手把文書口稱敕,

回車叱牛牽向北。

一車炭,千餘斤,

宮使驅將惜不得。

半匹紅紗一丈綾,

系向牛頭充炭直。


 すみおきな  白居易はくきょい

すみおきな

たきぎり すみく 南山なんざんうち

滿面まんめんの 塵灰じんかい 煙火えんかいろ

兩鬢りょうびん 蒼蒼そうそう 十指黑じゅっしくろ

すみり ぜにて なんいとなところ

身上しんじょうの 衣裳いしょう 口中こうちゅうしょく

あわれむべし 身上しんじょうの 衣正いしょう まさひとえ

こころすみやすきをうれい ねがわくばてんさむからんことを

夜來やら 城上じょうじょう 一尺いっせきゆき

あかつき炭車たんしゃして 冰轍ひょうてつきしらしむ



牛困うしつかれ 人饑ひとうえて 日已ひすでたか

南門外なんもんがいにて 泥中でいちゅうやす

翩翩へんぺん 兩騎りょうき たるはだれ

黄衣こういの 使者ししと 白衫はくさん

文書ぶんしょって くち>にちょくしょう

くるまめぐらし うしっして きたかわしむ

一車いっしゃすみ 千餘斤せんよきん

宮使きゅうし れば おしむもかなわず

半匹はんびきの 紅紗こうしゃ 一丈いちじょうあや

系向牛頭充炭直はんびきつなぎて牛頭ぎゅうとうむかいて すみあたい


字句解釈

南山   長安の南にある終南山。

駕   牛を車の梶棒につなぐこと。

輾   車を転がすこと。

黄衣使者   黄色の衣を着た使者。宦官。

白衫兒   白い衣を着た年若い護衛の兵士。

斤   重さの単位。600グラム。

驅將   「將」は動詞の後につけて動作の具体性を示す。。

匹   反物4丈を1匹という。

丈   1丈は3メートル。


詩の鑑賞

これらの風諭詩を新楽府と称した。楽府は本来、民情を知るために民謡を集めたのだが、やがて恋愛などが主流となったため、 白居易は元に戻して新楽府といった。約50首の新楽府を作った。


 

八月十五日夜禁中獨直,對月憶元九、   唐 白居易
漢詩を楽しむ80頁 漢詩鑑賞辞典468頁 全唐詩卷四百三十七


 八月十五日夜禁中獨直,
  對月憶元九  白居易

銀台金闕夕沈沈,

獨宿相思在翰林。

三五夜中新月色,

二千里外故人心。

渚宮東面煙波冷,

浴殿西頭鐘漏深。

猶恐清光不同見,

江陵卑濕足秋陰。

 八月十五日夜禁中はちがつじゅうごにちきんちゅう獨直ひとりちょくし、
 つきたいして元九げんきゅうおもう  白居易はくきょい

銀台ぎんだい 金闕きんけつ 夕沈沈ゆうべちんちん

ひと宿しゅくして 相思あいおもい 翰林かんりん

三五夜中新月色さんごやちゅう 新月しんげついろ

二千里外にせんりがい 故人こじんこころ

渚宮しょきゅうの 東面とうめん 煙波冷えんぱひややか

浴殿よくでんの 西頭せいとう 鐘漏深しょうろふか

おそる 清光せいこう おなじざることを

江陵こうりょう 卑濕ひしつにして 秋陰しゅういん


字句解釈

禁中   宮中。

銀台   銀台門。または銀の高殿。

金闕   門の上の高殿。

夕沈沈   夜が更けるさま。

相思   相手のことを憶う。(お互いに憶うではない。)

翰林   翰林院、玄宗時代にできた役所。

新月   ①出たばかりの月。②清らかな月。③満月に対する三日月。ここは①。

渚宮   江陵にある三国時代の楚の宮殿。汀の離宮。

煙波   もやの立ち込めた水面。

浴殿   長安の宮殿。

鐘漏   鐘と水時計。

江陵   三国時代楚の都。郢(えい)。 卑濕   湿気の多い。

詩の鑑賞

白居易の親友元 稹(げんじん)が楚の江陵(荊州、三国時代の郢)に左遷された。
長安から江陵にいる友を懐かしんでいる。長安と江陵は直線距離は約500km(千里)であるが、旅の行程としては1000km (二千里)はある。
「三五夜中新月色 二千里外故人心」古今第一の名対句である。また、長安と江陵をABBAで詠む、律詩の対句の技巧が凝らされている。
この詩は、和漢朗詠集はもちろん、源氏物語(須磨の巻)、謡曲などにも引用されている。





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