第6回講義


春夜洛城聞笛  唐 李 白

漢詩を楽しむ44頁 漢詩鑑賞辞典194頁

音声を聞くにはプラグインが必要です。
(ブラウザの設定にもよりますが音声を聞くには
「ブロックされているコンテンツを許可」し、
スタートボタンをクリックしてください。)



2014.06.26 録音

(シフトボタンを押しながらリンクをクリックすると
別ウインドウでリンク先を見ることができて便利です。)




 春夜洛城聞笛   李白

誰家玉笛暗飛声

散入春風満洛城

此夜曲中聞折柳

何人不起故園情


 春夜しゅんや洛城らくじょうふえく   李白りはく

いえ玉笛ぎょくてきか あんこえばす

さんじて春風しゅんぷうって 洛城らくじょう

 曲中きょくちゅう 折柳せつりゅう

何人なんびとか こさざらん 故園こえんじょう


字句解釈

洛城    洛陽の町。長安は西京で政治の都、洛陽は東京で文化の都。 函谷関の外、洛水の北にある。(参考)山は南が陽、北が陰。川は北が陽、南が陰。洛陽には文化人が多く、 好い文を作ると紙の値が上がる。「洛陽の紙価高し。」という。 西晋では杜預が『春秋』経文と『左伝』とを一つにして注釈を施した 『春秋経伝集解』を作り、以後、春秋学のスタンダードとなり紙価が上がった。

玉笛    美しい笛。玉で作った笛。あるいは美しい笛の音。

暗    暗い。どこからともなく。暗香はどこからともなくやってくる香り。

折柳    折柳の曲。 別れの時に歌う曲。柳を輪にして帰還を願った。柳は垂れた柳。楊は猫やなぎ  上に立ったやなぎ。

故園情    故郷を思う心。

何人不起故園情     漢文の読みとしては「何人か故園の情を起さざらん。」と読む。

     

詩の鑑賞

李白は25歳で成都を離れ揚子江を下ったが、その後、 安陸で結婚した。34,5歳のころ妻子を残して単身、山東、山西を遍歴し、 「客中行」などの望郷の詩を詠んだが、ついに洛陽に到った。この詩は洛陽での作。 「静夜思」、「客中行」と並んで、李白の望郷の3名詩のうちの一つである。
「漢詩鑑賞辞典」にもあるように、「誰」は「暗」に応じ、「飛」と「散」は春風を呼び起こし、「春風」は「春夜」に応じて、 「柳」を呼び起こし、「折柳」は「故園情」、「満」は「何人不起」に応ずる。用字法が巧みである。






蘇台覧古  唐 李 白

漢詩を楽しむ42頁 漢詩鑑賞辞典208頁


 蘇台覧古  李白

旧苑荒台楊柳新

菱歌清唱不勝春

只今惟有西江月

曾照呉王宮裏人


 蘇台覧古そだいらんこ   李白りはく

旧苑きゅうえん 荒台こうだい 楊柳ようりゅうあらたなり

菱歌りょうか 清唱せいしょう はるえず

只今ただいま ただ 西江せいこうつきのみって

かっらす 呉王ごおう宮裏きゅうりひと


字句解釈

蘇台    今の蘇州市にあった呉の都の姑蘇台。中国3大美人の一人、西施の宮殿が在った。

覧古    懐古。景色を見て昔を偲ぶ。

旧苑    昔の庭園。

荒台    荒れ果てた高台。

楊柳新    やなぎが新芽をふいている。

菱歌    この辺りは水郷地帯で菱が多い。菱の実を採るときに歌う歌。

清唱    清らかな歌声。

不勝春    春の深い感慨を催さざるを得ない、春の思いに堪え切れぬ心地がする、春の景色に堪えられない気がする、などの 解釈がある。

西江    西の河。揚子江。

宮裏人    西施のこと。

     

詩の鑑賞

李白は洛陽に滞在後、39歳の時に襄陽に孟浩然を見舞い、その後、742年、42歳、 妻子を伴い安陸を離れ、揚子江を下り、呉、越に到った。この詩はその時の懐古の詩である。
起承転は昔のこと、結句が現在。第3、4句は初唐の衛万の詩からの借用である。(漢詩鑑賞辞典209頁参照)
美しい語が巧みに使用されている。
李白はこの後、呉から越に至っている。呉の興亡越の興亡に思いを馳せたことだろう。
范蠡の故事もまた興味深い。






越中覧古  唐 李 白

漢詩を楽しむ107頁


 越中覧古  李白

越王勾践破呉帰

義士還郷尽錦衣

宮女如花満春殿

只今惟有鷓鴣飛


 越中覧古えっちゅうらんこ   李白りはく

越王勾践えつおうこうせん やぶってかえ

義士ぎし きょうかえってことごと錦衣きんいすく

宮女きゅうじょ はなごと春殿しゅんでん

ただいま ただ鷓鴣しゃこるのみ


字句解釈

越中    越の都、会稽。今の紹興。

越王勾践     一旦呉に敗れた越は臥薪嘗胆の結果、呉を破った。

義士    忠義の士。

錦衣    錦の衣。「錦衣玉色」立派な着物を着、美味しいものを食べる富貴の身分。

還郷尽錦衣     「郷に還るに尽く錦衣す」とも読める。

鷓鴣    ウズラに似てやや大きい。日本にはいない。

惟     ただーーーのみ。

     

詩の鑑賞

この詩は起承転が昔日のこと、結が現在のことで、蘇台覧古と逆の構成となっている。
蘇台覧古、越中覧古とも李白34,5歳の作。




 


関連詩

題児島高徳書桜樹図  日本 齋藤一徳(監物)


漢詩を楽しむ127頁


 題児島高徳書桜樹図  齋藤監物

踏破千山万岳煙

鸞輿今日到何辺

単蓑直入虎狼窟

一匕深探鮫鰐淵

報国丹心嗟独力

回天事業奈空拳

数行江涙両行字

付与桜花奉九天


 児島高徳こじまたかのり桜樹おうじゅしょすのだいす   齋藤監物さいとうけんもつ

やぶ千山万岳せんざんばんがくけむり

鸞輿らんよ 今日こんじつ いづれのへんにかいた

単蓑たんさ ただちに虎狼ころうくつ

一匕いっぴ ふかく さぐ鮫鰐こうがくふち

報国ほうこくの 丹心たんしん 独力どくりょくなげ

回天かいてんの 事業じぎょう 空拳くうけんいかんせん

数行すうこうの 江涙こうるい 両行りょうこう

桜花おうかに 付与ふよして 九天きゅうてんそう


字句解釈

児島高徳書桜樹    「天莫空勾践時非無范蠡」「天 勾践を空しゅうする莫れ、時に范蠡無きにしも非ず。」 天よ勾践(天皇)をなきものにしなでくれ、今、范蠡(高徳)がいるのだから。

単蓑     ひと襲のみの。転じて単身。

一匕     ひとふりのあいくち。

鮫鰐     さめ わに。

嗟独力     一人で非力であることをなげく。

両行字     「天莫空勾践時非無范蠡」が二行に書かれていた。

     

詩の鑑賞

勾践、范蠡の故事を踏まえた詩。




 


関連詩

西施石  唐 楼 穎(天宝中進士)


漢詩を楽しむ43頁


 西施石  楼穎

西施昔日浣紗津

石上青苔思殺人

一去姑蘇不複返

岸傍桃李為誰春


 西施石せいしせき   楼穎ろうえい

西施せいし 昔日せきじつ 浣紗かんしゃしん

石上せきじょう青苔せいたい ひと思殺しさつ

ひとたび姑蘇こそって またかえらず

岸傍がんぼう桃李とうり ためにかはるならん


字句解釈

浣紗津    紗(絹織物)を浣(あら)っていた川岸。

思殺人   人を思わせる。殺は添え字。

一去姑蘇不複返     呉の夫差に差し出され、ひとたび姑蘇を去って、また帰ることがない。

岸傍     川岸のほとり。

     

詩の鑑賞

これも懐古の詩である。
西施に「顰(ひそみ)に倣(なら)う」の故事がある。しゃく持ちの西施の顔がまた好いというので時の女性が真似たが本人にはおよばなかった。 転じて、偉い人をまねて、上手に出来なときなどに使う。




 


関連詩

飲湖上初晴後雨  宋 蘇 軾


漢詩を楽しむ43頁


 飲湖上初晴後雨  蘇軾

水光瀲灔晴方好

山色空濛雨亦奇

欲把西湖比西子

淡粧濃抹総相宜


 湖上こじょうみ はじのちあめふる   蘇軾そしょく

水光すいこう 瀲灔れんえん はれまさ

山色さんしょく 空濛くうもう あめまたなり

西湖せいこって 西子せいしせんとれば

淡粧たんしょう 濃抹のうまつ すべ相宜あいよろ


字句解釈

湖上    杭州の西湖

雨     あめふる(動詞)。雪 ゆきふる。

蘇軾    宋時代の代表的詩人。

瀲灔     さざなみのしきりに動くさま。

空濛     むなしくくらい。

奇     うつくしい、めずらしい。

西子    西施

淡粧濃抹    うすげしょう、あつげしょう。      

詩の鑑賞

起承は対句。




 


子夜呉歌  唐 李 白

漢詩を楽しむ22頁


 子夜呉歌  李白

長安一片月

万戸擣衣声

秋風吹不尽

総是玉関情

何日平胡虜

良人罷遠征


 子夜呉歌しやごか   李白りはく

長安ちょうあん 一片いっぺんつき

万戸ばんこ 擣衣とういこえ

秋風しゅうふう いてきず

すべこれ 玉関ぎょくかんじょう

いずれの 胡虜こりょたいらげて

良人りょうじん 遠征えんせいめん


字句解釈

子夜呉歌    子夜は女性の名。東晋のころの歌の上手。子夜の呉の歌のこと。

一片月    ひとつの月。片割れ月ではない。

擣衣    衣をつく。冬になると綿を洗濯して作り直す。綿をついて柔らかくする。砧(きぬた)ともいう。秋の風物詩。 出征した夫のためについている。

玉関情    玉門関。玉門関に出征している夫にたいする思い。

胡虜    えびす。こいつら。

良人    夫。

     

詩の鑑賞

李白43歳、道士とともに長安に上る。長安での作。
子夜の呉歌にならって作った古詩。愛情のこもった悲しい詩。 子夜の呉歌には春夏秋冬の歌がある。これは秋の歌である。




トップ
ページ
漢詩
鑑賞会A
定例会
日時場所
講義録 漢詩書庫 漢詩地図 漢詩用語 漢詩歴史
漢詩人物 検討室 雑談室 漢詩
百人一首
入会の
ご案内
ご意見
お問合せ
リンク
Last modified 2015/08/10 First updated 2014/04/28